教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/30 NHK ガッテン「医療の常識が大逆転!患者1330万人"腎臓病"治療革命」

 全国での患者数は1330万人と非常に多い病気であるが、生活に何かと制限がかかるので非常に辛い病気である慢性腎臓病。その腎臓病の治療法にコペルニクス的転回があったのだという。

腎臓は尿を作っている

 まず体内における腎臓の働きであるが、それは尿を作ること。生きていると血液中に老廃物が溜まってきて、そのままでは死んでしまう。その老廃物を血液から漉しだして尿中に排出するのが腎臓の役割である。番組では人工腎臓に使用される中空糸フィルタを紹介しているが、これを通すと牛乳が透明の液になってしまう(タンパク質を残すので)。腎臓もこれだけの働きをしているということである。なおこれはどうでも良いような話だが、この透明の液になっても飲むと牛乳だと分かるそうな。

制約の非常に多い腎臓病患者の生活

 番組ではまずある患者の元を訪れているが、彼の生活は特に食生活の制約が多い、塩分は抑えないといけない、総カロリーを抑えないといけない、タンパク質も抑えないといけないということで野菜ぐらいしか食べられないような状態。彼は糖尿病から腎臓病につながってしまったようだが、これがさらに悪化してしまうと人工透析が必要となる。人工透析は週に3回、4時間以上先ほどのフィルタで血液を濾過することが必要になる。これはかなり生活に負担がかかることになるが、その患者は全国で33万人もいるという。

 腎臓病の原因だが、それは腎臓中の毛細血管上にあるたこ足細胞なるものの働きに関係している。このたこ足細胞は毛細血管の穴のところにおり、通過する物質の制御をしているのだという。老廃物は通し、タンパク質など体に有用な物質は通さないという働きをしている。しかし高血圧などで血管に負担がかかると、このたこ足細胞が離脱してしまうのだという。もうこうなると回復しない。だから血管に負担のかかることは御法度なので、高血圧を抑えるために塩分は制限されることになるし、タンパク尿などにつながる運動なども避けるべきとされていた・・・今までは。

 

腎臓病治療に対するコペルニクス的転回

 ここで今回、腎臓病に対する考え方をコペルニクス的転回を行った人物が登場する。それが東北大学大学院の上月正博教授。彼は運動をしないために筋肉が硬直して寝たきりになっていく腎臓病の患者を見ていて「本当に運動をしたらいけないのだろうか?」と疑問を持ったのだという。そこで過去の論文を調べてみたがどうも明確な答えは得られなかった。そこでラットなどを使った実験を行ったのだが、その結果、運動をした方が腎臓へのダメージが少ないということが分かったのだという。しかし彼のこの結果は同業者にもなかなかに認められなかった。なかには信じられないといってつきあいを断る者までいたとか。しかし彼はさらに研究を重ねて論文を発表、また知り合いの医師などに協力してもらって運動の効果を確認するなどを行った。そして20年、運動を取り入れた腎臓病リハビリテーションのガイドラインを制定するに至ったという。現在は彼の考えは認められ、学会の賞を受賞すると共に、腎臓病治療に運動療法が取り入れられるようになったという。

 運動が腎臓病に与える効果についてはまだ明確でないことがあるが、運動で発生したNOが血管を拡張することでたこ足細胞の負担を減らすのではないかと考えられるとのこと。また運動を行うことでたこ足細胞が若返り、その働きも活性化するそうな。

 

腎臓病治療のための運動方法

 ではその運動の内容であるが、息切れしない程度の運動とのこと。最適なのはウォーキング。なお腎臓病の状態によってやはり運動するべきでない患者もいる(腎機能の落ち方の急激な患者などがそうらしい)とのことなので、実行の前にはやはり医師と相談とのこと(NHK的な表現です)。

 ここで最初に登場した患者さんが再登場するのだが、彼は現在、盆踊りに取り組んでいるとのこと。これが適度な運動となり腎臓の状態が良くなると共に、生活にはりが出て気持ちが前向きになってきたとのこと。やはり体を動かすことが精神に与える効果も無視できないだろう。私もたまに山城などに登ると、体はクタクタに疲れても精神は非常にリフレッシュすることは経験している。

 最後に人工透析になってしまった方への朗報だが、現在は泊まりがけで透析の出来る施設なども出てきているという。これだと寝ている間に透析が出来るので翌日は普通に出社可能。人工透析も生活の質を考える時代に入りつつあるとのこと。


 以上、腎臓病治療の大転換について。確かに運動が出来るのと出来ないのとでは雲泥の差があります。腎臓病は糖尿病などが入口になって発症することが多いのですが、その糖尿病の治療に不可欠なのが運動です。この運動療法が出来ないとなると、カロリー制限だけで対応する必要があり、これはかなり厳しい食事制限になります。ある程度の運動を取り入れることが出来れば、その分の食事制限を緩和することも可能となるでしょう。これは患者の生活の質に端的に影響することになります。また体を動かすことによる精神のリフレッシュ効果というのも無視できない要素でしょう。

 科学の世界でも今まで定説と思われていたものが、実は根拠のない思い込みだったと言うことが判明するということはあることです。今回の内容などまさにそうでしょう。私も「腎臓病は運動してはいけない」と思っており、最近のトレンドがこんな大転回をしたとは知りませんでした。やはり科学の世界に携わる者は、常識を疑ってみるということも必要なのでしょう。もっともあまり非常識なことばかりやってもいけませんが(笑)。

 


忙しい方のための今回の要点

・腎臓は体内で血液中の老廃物を漉しとって尿中に排出する役割を果たしている。
・それには毛細血管城のたこ足細胞が働いており、血管に負担がかかることでこのたこ足細胞が離脱することで腎臓病となる。
・永らく運動をするとたこ足細胞に負担がかかると考えられていたのだが、最近の研究で適度な運動はむしろたこ足細胞を活性化することが判明した。
・ウォーキングレベルの運動を取り入れることで、腎臓病の悪化を防ぐことが可能となってきている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・結局この先生の考え方も社会に受け入れられるまでに20年かかってるんですね。その間は散々異端とか下手すれば頭がおかしいと見られていたと思います。それでも研究を続けられたのは信念もあったんでしょうね。研究者としては常識に挑むというのは非常にハードルの高い仕事です。もっとも何でもかんでもやたらに常識に楯突いて否定しまくる(確たる根拠もなしに)困った方もたまにはいるんですが・・・(笑)。この世界も狂人と天才は紙一重だったりします。

 

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