教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

3/18 BS11 歴史科学捜査班「桜田門外の変 元SPが分析!襲撃の秘策」

 日本史においては大化の改新(乙巳の変)に並んで有名なのではないかというテロ事件・桜田門外の変。しかしこの事件は井伊直弼の護衛は彦根藩士60人、そして直弼自身は居合いの達人。これに対して襲撃側は水戸藩士を中心とした18人。戦力的には圧倒的に劣勢と思われる中で、なぜあっさりと襲撃が成功したのか。それを元SPが分析するという。

井伊直弼大老である。これは老中の上に臨時に置かれる職責であり、事実上の幕府ナンバー1である。当時はペリーの来航などもあった動乱の時期であり、直弼が朝廷の了解を得ずに日米修好通商条約を独断で締結したことが強い反発を呼んでいた。直弼はこれを力で弾圧(安政の大獄)のだが、これが井伊直弼襲撃計画を呼ぶことになる。

 ただ当初の襲撃対象は3人いたとのこと。しかし当初に襲撃計画にかんでいた薩摩が脱落したことで、メンバーが50人から20人程度に減ってしまったために3人を襲撃するのは不可能として、ターゲットが井伊直弼だけに絞られたらしい。

 襲撃決行日は3月3日。この日は節句であり、大名が必ず登城する日だったという。大名行列には多くの見物客が出るので、襲撃者達はその人混みの紛れて容易に接近することが出来た。そして行列の先頭の前に一人が訴状をもって飛び出して行列を止める。そして藩士が訴状を受け取ろうとした時に刺客が襲いかかったのだという。行列先頭で騒動が起こったことで藩士がそこに駆けつけるので直弼の籠の警護が手薄になったところで刺客が籠に接近。籠の中の直弼は短銃で狙撃されたため、反撃する間もなく殺害されてしまったのだという。

 この事件を元SPの伊藤隆太氏に分析してもらったところ、警護の鉄則から言えば先頭で何かが起きた時点で籠の周辺の護衛が回りを警戒しつつ籠を遠ざけるべきだったという。そこには彦根藩士の油断があったのと、非常に周到な計画があったという。

 また天候も大きく影響している。当日は江戸は大雪になっており、彦根藩士は刀が濡れることを防ぐために柄袋をかぶせていた。実際に柄袋をかぶせて刀を抜いてみると、通常は1秒かからないものが、3秒以上と大幅に手間取ることになった。さらに行列は雪の中を歩いていたわけで手もかじかんでいる。そこで番組では雪の中で手をかじかんだ状態で抜くという実験まで行っている。この場合は5秒越え。手がかじかんだせいで柄袋の紐をつかむことに失敗しているという。これは彦根藩士にとってはかなり不利になったはずである。番組では、この雪がなければ直弼を狙撃するところまでは出来たとしても、籠から引き出して首をはねるところまでは出来なかったのではないかと分析している。

 なお直弼の死は幕府によって隠蔽されようとしたという。直弼が病気だということにして、3月28日に病死として発表されたのだとか。世の中の混乱を防ぐためとのことだが、幕府の権威の失墜を恐れてのものだろう。

 また血染めの衣装や血が染みついた土を彦根に運んで埋めたという。そこには供養塔が建てられているのだが、その裏には万延2年3月3日と日付が刻まれているが、これは現実にはない日付(万延はこの前に改元されている)だとのこと。これは3月3日という直弼の本当の死の日付を残そうとしたのだろうとのこと。

 なおこの事件で戦になりかねなかった彦根と水戸であるが、事件から108年後の1968年親善都市提携を結んだという。まあ良い話と言えば良い話だが、ある意味これは単なる要人テロであったから。同じく要人テロである忠臣蔵赤穂市吉良町も既に友好関係を結んでいるという。しかしこれが住民をも巻き込んだ戦争となると話が変わる。戊辰戦争で血を流した会津若松に対して萩市が1987年に「もう100年以上経ったから」と友好都市提携を申し入れた時は、会津若松は「まだ100年しか経っていないから」と断ったという。戊辰戦争では会津はかなり多くの血を流しているし、しかもその後に長州を中心とした新政府に徹底的に迫害を受けるというオマケまでついてしまっている。ここまで行くとやはりこじれてしまうだろう。同じ日本人でこれなら、これが外国との間なら・・・というところである。

 話がそれたが、今回の番組内容については実際に実験した辺りは面白かったが、実のところ内容的には今まで言われていたことで新味はない。SPによる分析にしても「この時に籠を遠ざけるべきだった」と言われたら「そりゃそうですよね」としか言い様がない。意外に番組の切り込みが甘いなと思わずにはいられなかった次第。もっとも先週の元刑事よりは随分マシですが。