教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

5/15 歴史秘話ヒストリア「五・一五事件 チャップリン暗殺計画」

 今回の主人公はチャップリン。このチャップリンがあの海軍将校が巻き起こしたテロ事件に巻き込まれる可能性があったというお話。

チャップリンと日本人秘書

 世界的喜劇スターだったチャップリンはイギリスの芸能一家に生まれ、世界中を回った経験があるという。だから彼は自分を「世界市民」と考えており、当時としては珍しく人種的偏見とかのない人物だったらしい。そのチャップリンが運転手として雇ったのが日本からの移民の高野虎市。彼はチャップリンの信頼を得て、運転手から秘書のような立場にまでなる。

 そしてチャップリンは世界を回って日本にも立ち寄るという計画を立てる。高野はその手配で日本にやって来て、犬養首相の息子で秘書の犬養建とチャップリンの歓迎会などの打ち合わせを行う。

 ヨーロッパを訪れたチャップリンはそこで心配すべき状況を目撃する。ヨーロッパでのファシズムの台頭である。「愛国心は狂気であり、愛国心がもてはやされすぎた結果に行き着くのは新たな戦争だ」という主旨の言葉を彼は残している。

 一方の高野も日本の雰囲気に懸念を感じていた。当時の日本は満州侵攻をきっかけに反米意識が高まっており、さらには経済の問題などで国内には不穏な空気が漂っていた。そんな中でチャップリンを迎えて犬養首相らが参加する歓迎会はいろいろと安全について注意する必要があった。

 

チャップリン暗殺計画

 実際にこの頃、五・一五事件の首謀者である古賀清志はチャップリン歓迎の場を襲撃し、参加した政財界の要人と共にチャップリンを暗殺する計画を立てていた。チャップリンを暗殺して日米関係を悪化させることで、海軍の軍縮条約等を破棄して海軍を拡充することを目論んでいたらしい。

 そんな中でチャップリンが来日。熱烈な歓迎を受ける。そして東京に到着。ホテルに向かう途中で高野はチャップリンに皇居に対して礼をするように依頼する。半信半疑ながらもそれに従うチャップリン。この光景は新聞に報道されて、チャップリンの親日ぶりがアピールされることになる。これは反米意識が高まる中で高野がチャップリンの身の安全も考えての行動だったようである。

 そして事件当日、この日は首相官邸で歓迎会の予定で高野は犬養建と打ち合わせしていたのだが、日本に来てからの高野の様子におかしなものを感じていたチャップリンが、突然に予定の変更を依頼、結局はこのおかげでチャップリンは難を逃れることになる。なお事件の二日後、チャップリンは犬養首相暗殺の場を訪れて彼の死を悼んでいるとのこと。

 帰国したチャップリンは「モダンタイムズ」や、ヒトラーを風刺した「独裁者」などの傑作映画を製作する。独裁者などは当時のアメリカにはヒトラーの手腕を評価する者もいたためにかなりの批判もあったらしいが、チャップリンは「彼は笑い飛ばされるべき人間である」とあくまで制作を続行、大失敗の予想もある中で映画は好評だったらしい。

 

それぞれの道

 ただその時にはチャップリンの傍らに高野の姿はなかったという。高野はチャップリンの恋人との対立でチャップリンの元を去ったとのこと。その後の高野は日米親善のための活動を行っていたという。

 しかし第二次大戦が勃発、高野は収容所送りになる。やがて終戦となるが高野はしばらくは収容所から出されなかったらしい。ようやく収容所を出た高野は、戦争のせいで市民権を剥奪されて日本に送還されそうになった移民達のために戦うことになる。

 一方のチャップリンは、戦後の赤狩りで彼の世界市民的考えが共産主義的と批判されてアメリカを追放されることになったとのこと。彼は活躍の場をヨーロッパに移すことになる。

 結局はその後、高野とチャップリンは再会することはなかったのだが、二人はその信念に従って生涯を全うしたということである。

 

 結局はチャップリンがテロに巻き込まれなかったのは、「何となく不穏な空気を感じた」ということでしょうか。そうだとしたらかなり際どい偶然的なもののようです。もしかしたらもっと裏があるかもしれませんが、今となっては分からないでしょう。

 チャップリンがファシズムに嫌悪感を感じていたのは「独裁者」の作品にもろに現れていますが、やはり当時としては先進的な考えを持っていたのでしょう。その挙げ句に悪名高き「赤狩り」に引っかかるとは・・・。今だにハリウッドではあれは黒歴史として記憶が残っています。現在のハリウッド関係者にはリベラル的な人間が多いのはその反動があるのでしょう。それにそもそも平和がなければ映画どころでないですし。

 今回の内容、タイトルはなかなか衝撃的なんですが、何か内容が今ひとつ斬り込みが浅いような印象も受けます。センセーショナルな見出しで読者を引いて、読んでみると「何じゃ?」となる週刊誌記事やネット記事のような・・・。チャップリンの生涯をもっと濃く描いて、「実は五・一五事件に巻き込まれる可能性もあったのですが、これこれこういう経緯ですんでの所で切り抜けたのでした」でも良かったような。

 

忙しい方のための今回の要点

・チャップリンは五・一五事件で暗殺される恐れもあったのだが、直前の予定変更で辛うじてそれを切り抜けていた。
・チャップリンの秘書として長年共に活動してきた高野虎市は、チャップリンの恋人との対立でチャップリンの元を去った後、日米親善のために活躍していた。
・ファシズムを否定し、愛国心に批判的だったチャップリンは、戦後に赤狩りにあってアメリカから追放されている。

忙しくない方のためのどうでもよい点

・実は私はチャップリンの素顔って今回初めて見るのですが、なかなかの男前ですね。
・再現ドラマで犬養首相を演じていた俳優が、本人にかなりイメージが似ていたのも驚きです。この番組って、何気にそういうところには気をつけてますね。

 

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