教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

5/19 TBS系 世界遺産「世界初!スペインのゴンドラ橋」

 今回の世界遺産はスペインにあるビスカヤ橋。世界初の運搬橋である。運搬橋とは高さ45mからワイヤーで吊されたゴンドラが行き来することで人や車を輸送する橋。橋というよりも半分は乗り物のようなものである。これが片道2分で移動するという。ゴンドラは現在は電動モーターで駆動されているが、かつては石炭による蒸気ボイラーで駆動していたという。駆動方式は変わったが、ゴンドラの速度は同じ時速2キロ。

 この橋が建造されたのは19世紀末だが、そもそもこんな奇妙な形態の橋を作る必要があったのは、この橋があるビルバオの町は製鉄業で栄えた町で、巨大な貨物船の出入りが不可欠だったからだという。当時の最大の貨物船が通れる高さが45mだったという。高さが必要な上に川のそばまで住宅が迫っていて橋脚を建てにくいということで、諸々の案が検討された結果、地元出身の建築家アルベルト・デ・パラシオのゴンドラ橋のアイディアが採用されたのだという。

 この当時は各地で鋼鉄による巨大建造物が建造された時代で、その中には世界遺産になっているものも多数ある。このビスカヤ橋も鋼鉄製だが、さらに最新の技術として鉄製のワイヤーが使用されている。複数の鋼鉄紐をねじってまとめることで強度と柔軟性を両立するこの技術は当時最新であり、このワイヤーがゴンドラを吊すだけでなく、橋脚を支えるのにも使用されている。

 今では町のシンボルとなっているビスカヤ橋だが、かつて一度だけ落ちたことがある。それは事故によるものでなく、スペイン内戦時にファシストの侵攻を防ぐために橋脚が破壊されたのだという。かつての暗い記憶である。その後、橋が再建されることになった時、全く新しいデザインの橋を建造する案もあったのだが、地元の住民の反対で以前にと全く変わらない橋を再建することになったのだとか。

 海の近いこの地では鋼鉄の橋は放置するとすぐにさび付くのでメンテナンスは欠かせない。しかしスペイン流で言うと、「手のかかる女性ほど可愛い」のだそうな。今も多くの人々に支えられてこの橋は動いている。

 

忙しい方のための今回の要点

・スペインのビスカヤ橋は、巨大貨物船が通過できるように高さ45mから吊したゴンドラで移動する運搬橋である。
・この橋の建造に当たっては、とうじの最新技術であった鋼鉄製のワイヤーが活躍することとなった。
・この橋は一度、スペイン内戦時に破壊されたが、後に住民の希望によって以前と全く同じデザインで再建された。

忙しくない方のためのどうでもよい点

・正直なところ、やっぱりこの橋って橋と言うよりは乗り物のような気がするんですよね。そういう分類には何か基準があるのでしょうか?
・ここで採用されている鋼鉄製のワイヤーの技術は、今でもロープウェイなどで使用されてますね。細いワイヤーを束ねると、柔軟性と強度の両立だけでなく、もしもの時にも一気に切断しないというメリットもあります。
・船を通すための橋と言えば、跳ね上げ橋なんかもよくありますが、ここの川は結構幅が広いから跳ね上げ橋だと無理だったんでしょうね。実際は一番オーソドックスな方法は、手前から勾配をとって最大高45mの橋を通すという方法ですが、確かにここだと住宅を薙ぎ払わないと無理です。今だったら海底トンネルにするでしょうね。
・かつて鉄鉱石が産出したという言い方をしていたということは、今は産出していないと言うことでしょうか。鉄鋼の町ということは現在の主力産業はどうなっているのでしょうか? もしかしたらここもラストベルトになってるかも。