教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

5/23 BSプレミアム 偉人達の健康診断「女王・卑弥呼のカミカミ健康法」(再放送)

 今回はタイトルには卑弥呼が付いているのですが、実際には卑弥呼は全く登場しません。そもそも卑弥呼の健康状態を調べようにも、卑弥呼に関してはろくに史料もないし、そもそも実在の人物かどうかも怪しまれているという状態なので、それ以上切り込みようがないです。と言うわけで、今回のテーマは「卑弥呼がいた弥生時代の人々の健康法」というのが現実。まあ弥生人なんて言うよりも卑弥呼と言った方がキャッチーなので、やや誇大表示気味のスレスレ表現でしょう。ブログやネット記事なんかでもこの手のタイトル付けをする事例が結構多くて、例えば「女優の○○が結婚?」なんてタイトルに書いといて、中身の記事を見ると「実際は噂だけで結婚はまだのようです」なんてしゃあしゃあと書いてあったり。

 

弥生人の食生活

 いきなり話がそれてしまいましたが本題に戻します。さて弥生人についての記録と言えば魏志倭人伝とかになるのだが、その辺りを見ていると、弥生人は100歳ぐらいまで生きたなんて話が書いてあるとか。もっともこれについては明らかに眉唾だが、弥生人はある意味で現代人よりも健康になれる要素はあったらしい。

 重要なのは食生活。弥生時代と言えば大陸から稲作が伝わった時代であるが、この頃に栽培されていたのは古代米である赤米。この赤米は抗酸化作用のあるタンニンを含んでいるので、非常に健康食であるということである。また呪術に使われる桃の種なども大量に出土しており、どうやら桃を栽培していたらしいということ。と言うことはこれも食っていたということか。

弥生時代の病気

 また青谷上寺地遺跡から5000点もの良好な状態の弥生人の人骨が出土したことで、弥生人の健康についてかなり分かってきたこともあるという。

 この時の人骨の調査から、結核になって脊椎カリエスを発症していた事例があったとのこと。結核はそもそもはエジプトや地中海付近で発生した病気らしいが、それが大陸を経由して中国から日本に渡ってきたらしい。この時代は中国は春秋戦国時代であり、戦乱を避けて多くの渡来人が日本にやって来ており、彼らは技術だけでなく結核も持ってきてしまったらしい。

 この結核、かつては日本でも国民病と言われていたぐらい蔓延したが、最近は抗生物質の発見によって患者は減少して過去の病気のように思われている。しかし実は近年になって耐性菌の登場などによって患者が増加、年間2000人ぐらいは結核で亡くなっているので要注意である。抵抗力の落ちた高齢者や、極端なダイエットによって栄養が不足している若い女性などに発症が多いという。

 

弥生人は豚を飼っていた?

 結核などに対する抵抗力をつけるにはタンパク質の摂取が重要だという。さて弥生人だが、この点でも画期的な生活の変化があったのだという。出土した猪の骨から、弥生人達が猪を家畜化していた(弥生豚)らしいことが判明したという。また潜水を職業としている者がいたことも頭蓋骨の調査から分かっており、いわゆる海女のように貝類を採取していた者達がいたらしい。豚肉からは安定して良質のタンパク質を摂取でき、そして貝類にはタウリンが含まれている。これはかなり健康に良い食事。

 なお弥生人と現代人を比較した場合、弥生人は現代人に比べて圧倒的に顎が丈夫だという。弥生人の元祖の渡来人は北方から来ており、彼らは凍った肉などを囓っていたために顎が丈夫な上に歯が大きいという特徴を持っており、弥生人はその特質を受け継いでいるのだとか。しかし特に江戸時代以降は食べ物が軟らかくなることで日本人は急激に顎が貧弱になったのだという。しかし元々の大きい歯は変わらないので、その結果として現代人は非常には並びが悪いことになったとか。

 そして顎が小さくなったことはもう一つの深刻な病気も生み出した。それが睡眠時無呼吸症候群。これは顎が小さいために舌が喉に落ち込んで呼吸を妨げる症状。これを発症すると脳卒中などの突然死や糖尿病等の成人病の発症率が大幅に上がることが分かっている。

 と言うわけで番組では日本人は顎を鍛えましょうと言うことで、「あいうべ体操」なるものを紹介している。これは口を大きく開けて「あ」、口を思い切り横に引っ張って「い」、口を思い切り前に突き出して「う」、舌を思い切り下に延ばして「べ」と発生することで口の筋肉を鍛えるという体操。これを10セットを1日3回することで顎が鍛えられて健康を保つことが出来る(認知症の抑制効果があるとの話もあるとか)というもの。

 

 以上、弥生人の健康について。やはり食生活というのは大事ですよという話。まあ弥生時代になって急激に食糧事情は良くなったようだし、当時は食品添加物も放射能もなかったので食事は健康的なので、ある意味では現代人より健康だった可能性はあるでしょう。もっとも医学が全然なので、現代人よりも長生きできたとは思えませんが(結核どころか盲腸炎でも命取りだった)。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・弥生人が食べていた赤米は、抗酸化作用を持つ健康食である。
・弥生時代の人骨の調査から、結核患者がいたことが分かっている。
・病気に対する抵抗力をつけるにはタンパク質の摂取が不可欠だが、弥生時代には猪が家畜化されており、これらから良質のタンパク質を得ることが出来た。
・現代人は顎が弱っており、これが睡眠時無呼吸症などの原因となっている。顎を鍛えるためには「あいうべ体操」なる方法がある。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・弥生時代には大陸からかなり多くの渡来人が来たようで、これが日本の中でも社会が大きく変わるきっかけになったようです。ちなみに以前は縄文人を新参者の弥生人が駆逐したというように考えられていたのですが、最近は両者は自然に混血していったというように変わっていってます。まあ確かに新参者が来たからと言って、何も原住民と争わないといけないって理由はないですから。そう言えば以前にNHKスペシャルの「人類誕生」でも、実はネアンデルタール人とホモ・サピエンスが共生していた(場合によっては混血していた)ということも明らかになってきているらしいです。確かに今の欧米人を見ていると、特に彼らはネアンデルタールの血が濃いような気がするんですよね・・・。

 

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