家光の時代となり幕藩体制も固まってきた・・・と思っていた江戸幕府を揺るがした大一揆が島原の乱。16歳の少年・天草四郎が乱のリーダーと言われているが、その正体は未だにハッキリとしていない。番組では現地に飛んで天草四郎について調べている。
正体不明の天草四郎
最初は天草地方を回って天草四郎の情報を集めているが、出生地ぐらいしかよく分かっていない。しかし実際に16歳の少年が戦闘の指揮をとることは困難と思われ、実際は天草四郎の父などが裏で操作していたのではとのこと。なお現在よく見る天草四郎の肖像画は、25年前に四郎の博物館が建設された時にイメージで描かれたものであり、元になる史料は何もないという。ただそれにも関わらず、天草地方には9体もの天草四郎の像が立っているとか。
キリシタン禁教令と隠れキリシタン
この時代は禁教令が発布されたことによって、キリシタンは激しい弾圧を受けていた。幕府の禁教令の背後には、宣教師らが布教を背景に日本の植民地化を目指していたという事実がある。またキリスト教特有の他宗教への攻撃性で、神社仏閣などを破壊したのも中央の反感を呼ぶことになっている。
この弾圧で多くのキリスト教徒が信仰を捨てたり、表向きは神社の氏子や寺院の檀家となって密かに信仰を続ける隠れキリシタンになったりしていた。
そんな彼らの多くがキリスト教に立ち返るきっかけになったのは、飢饉の発生だという。信仰を捨てたことに神が怒ったのだとの考えが広がり、キリスト教に立ち返る者が一気に増えたという。そしてどうもそういう動きを誘導していたのは牢人たちだったのではとのこと(キリシタン大名だった有馬家の旧家臣などが大勢牢人として残っていた)。
実はかなり強かった一揆勢
3万の一揆勢は原城に立て籠もる。原城は三方を海に囲まれた広大な城郭であり、巨大な櫓門と枡形を備えた堅固な城だったという。しかも籠もる一揆勢は戦闘員の8割が銃を装備していたという。一揆勢が用いた銃は天草筒という細長い銃で、元々は鳥獣を撃つためのものだという。威力はないが軽くて命中率が高いのが特徴とのこと。当時の農民は生活のために狩猟を行っていたので、銃の腕前に関しては泰平時代の鉄砲足軽などよりも遥かに高かったという。
実際に10万で原城を包囲した幕府軍の緒戦は、幕府軍側の死傷者4000人に対して、一揆勢は17人という一方的敗北を喫している。宮本武蔵もこの戦いに参戦したが、さすがの剣豪も場内からの石礫で負傷して、何の戦果を上げることもなく退場となっている。
乱の終結
ただし単に籠城しているだけでは勝算はない。一揆勢の希望は西洋諸国が援軍の艦隊を派遣してくることだった。それがわかった幕府はオランダ船に依頼して一揆軍を砲撃させる。これが一揆勢の士気を挫くと共に、兵糧攻めが効いて原城は落城することになる。
以上が天草の乱の経緯で、番組の結論は天草四郎は一揆を目論んだ者に立てられたカリスマだったという結論だが、そんなものは言われるまでもなく常識である。
なお番組では触れていなかったが、一揆のきっかけは島原を治めていた松倉重政と次代の勝家が無能な上に過酷な税を取り立てたこと。そもそも彼は火山灰で巨大建造物の建設が困難なこの地に、藩の石高から考えて不相応に巨大な島原城を建設し、さらには火山灰土で土地が痩せているにもかかわらず、異常に過酷な税を農民から徴収し、払えない者は拷問で殺すなどおよそ考えつく限りの悪行を尽くしたということがある。なおこのあまりにひどすぎる支配が乱を招いたとして、松倉勝家は斬首されている(大名としての切腹ではなく罪人としての処分をされたことになる)。天草の地の税が不相応に重いという状況は天草が天領になってからも長く改善されなかったのだが、ここの代官となった鈴木重成が腹を切って幕府に訴え、それでようやく改善されたらしい。現地ではこの鈴木重成を讃えて鈴木神社が建っている。つまりは乱の背後にあったのは、宗教的な問題も確かにあるが、実はそれ以上に食うに困ってというのが非常に大きいのである。
忙しい方のための今回の要点
・島原の乱のリーダーと言われている天草四郎だが、実はその正体も肖像も不明な点が多い。
・16歳の天草四郎自らが軍の指揮をとるというのは困難と思われ、実際には彼の背後にいた大人達の思惑でカリスマとして担がれていたと考えられる。
・原城に立て籠もった一揆勢は、銃も多数装備していたため、緒戦では幕府軍の攻撃を退けている。
・幕府軍は戦略を兵糧攻めに切り替え、オランダ船に砲撃させるなど心身両面からの揺さぶりをかけた挙げ句に原城を落城させている。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・実際は一揆の原因としては信仰は一つの核であるが、直接的なものは「食っていけない」というのが大きかったようです。フランス革命なんかもそもそもは「パンをよこせ」から始まっているし。人間は自由がないのには耐えられても、食い物のないのには耐えようがないので。そういう点では国民の大半が飢えているのにまだ体制を保てている北朝鮮というのは脅威の国家だ。
・もっとも権力者が自分の側近にだけ便宜を図って懐を肥やして開き直った上、庶民の負担だけ一方的に増やそうとしているのに、未だに権力者として君臨できている日本も大抵おかしな国ですが。