教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

8/19 BS11 歴史科学捜査班「人間国宝が語る!江戸怪談 恐怖の真実」

 今回は講談師にして初めて人間国宝に指定されたという一龍齋貞水氏をゲストに迎えて、江戸時代の怪談を取り上げるという典型的な夏休み企画。

実は夫婦仲の良かったお岩さん

 まず江戸怪談の定番とも言えるお岩さんが登場する四谷怪談であるが、このモデルとなったお岩さんは実在の人物とのこと。現在も新宿区左門町に四谷於岩稲荷田宮神社というお岩さんを祀る神社があるという。実際のお岩さんは、夫の民谷伊右衛門と共に民谷家を再興した賢夫人であり、夫婦仲も良好だったとのこと。そのために江戸では家内安全、開運、無病息災の神として庶民の人気になったという。200年後に四代目鶴屋南北が、このお岩さんを取り上げて怪談のネタにしたらしい。全くの架空の話よりは、ある程度の元ネタがある方がリアリティが出るという考えだろうか。それにしていきなり旦那に殺されたことにされたお岩さんもあの世で驚いたろう。なか当時の庶民に怪談が人気あったのは、封建時代で鬱積した武士に対する不満なんてものもあったのではないかとのこと。つまり現実には武士に意趣返しは出来ないので、せめて創作の世界でとのことのようだ。日本でも「必殺シリーズ」とかがこの流れかもしれない。他にも「地獄少女」とか?

 だからか一龍齋貞水氏も怪談で重要なのは人間ドラマだと言っている。悪い人はとことん悪く、哀れな人はとことん哀れに描くのが大事とか。そして最後に怨霊が現れて見事に恨みを晴らすという展開になるようだ。日本の幽霊はターゲットがハッキリしていてそこは揺るぎなく、外国の幽霊のように誰彼構わず無差別に脅すような節操のないことはしないというのは一龍齋貞水氏の言。それにそもそも日本の幽霊はあくまで心理攻撃であり、外国の幽霊のような物理攻撃はしない。あくまで本人の罪の意識に訴えて自滅させていくわけである。そういう意味では結構道徳的だな。

 

日本全国にある番町皿屋敷伝説

 次に登場は怪談ではお岩さんと双璧の番町皿屋敷のお菊さんである。ここで一龍齋貞水氏の名人芸の披露があるのだが、こういうのが入るところがいかにも夏休み企画。さてこのお菊さんだが、舞台は市ヶ谷だと言われており、近くにはお菊さんが帯を引きずりながら屋敷から逃げたという伝説の残る帯坂がある。なおお菊伝説は播州(姫路城内にはお菊井戸があります)やら彦根やら全国にあり、これはやはりお菊さんのような理不尽な目に遭う女性の奉公人があちこちにいたということではないかとのこと。

 また当時の江戸は薄暗い水路脇など、いかにも何かが出そうな場所があちこちにあったので、怪談の舞台には事欠かないとのこと。中には異色の名作「おいてけ堀」なんてのもある。昔、まんが日本昔話でもやっていたが、魚を釣って帰ろうとすると「おいてけ~」という怖い声が聞こえるという奴。常田富士男氏や市原悦子氏の名調子が懐かしいな・・・。

怪談が身体に与える影響

 この次はようやくこの番組らしい実験を行っている。怪談を聞くとゾッとするとか背筋が寒くなるなどと言われるが、体温に変化があるのかという実験。怪談を聞くことが出来る怪談ライブbarで若い男女4名が被験者となった実験では、女性2人にはあまり変化はなかったが、男性の手のひらの温度が明らかに低下していた。人間は恐怖や危機を感じると交感神経が優位になって体表の血管が収縮するので体温が低下するという、いかにもごもっともな医師による説明が入る。まあ予定調和な実験ではある。

お化け屋敷は現代でも大人気

 最後は江戸時代からのお化け屋敷の技を受け継ぐという大正11年創業の丸山工芸社の3代目社長、柳誠氏を紹介。彼が手がけるのは生き人形と言われるいわゆるリアルな人形。ただ彼の会社は最近になって近所の火事でもらい火事になってしまい、江戸時代からの貴重な人形を多数灰にしてしまったとか。お気の毒な次第。ただ今でも夏になるとあちこちからお呼びがかかるそうな。令和になってもお化け屋敷は大繁盛しているようである。ところで柳氏も73歳とのことなのだが、後継者はいるんだろうか?


 以上、いかにも夏休みネタの内容でした。正直なところ、全然歴史も科学もしてませんね(笑)。来週は織田水軍の話だそうですから、それに期待しましょうか。

 


忙しい方のための今回の要点

・四谷怪談の主人公であるお岩さんは実在の人物であり、実は夫の民谷伊右衛門と二人三脚で民谷家を再興した賢夫人であり、家内安全の神として信仰もされている。
・番町皿屋敷の伝説は市ヶ谷が舞台とされているが、全国に同様の話が広がっていることから、当時の奉公女性がさらされていた理不尽な仕打ちの象徴であるようだ。
・怪談を聞けばヒヤッとするなどと言われるが、実際に恐怖による交感神経の働きで表面体温の低下が起こる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・怪談が流行したのも夜が暗かったから、自然に人間が恐怖を感じる余地があったというのもあります。現在の不夜城の東京では、おかしな奴の犠牲になるリアル恐怖はありますが、怪談の出る余地はなさそうです。
・一龍齋貞水氏も言ってましたが、世の中が平和だから怪談が流行するのでしょう。リアルにいつ命が奪われるか分からない状況では、怪談なんて流行する余地はないです。日常生活が安全だから、非日常的な「なんちゃって恐怖」を体験したくなるんでしょう。