教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

8/25 TBS系 世界遺産「大西洋の孤島!断崖にふしぎな遺跡」

絶海の孤島の謎の石のドーム

 アイルランドの西、大西洋に1年の内の半年は海が荒れて近づけない絶海の孤島がある。それがスケリグ・ヴィヒール。ここには切り立った岩山の上に石造りのドームの遺跡がある。ここはスターウォーズの映画の撮影にも使用された。弟子のカイロ・レンがグレて傷心のルークが引き籠もった島である。

 こんな絶海の孤島に誰が何のためにこのような施設を築いたのか。実はこの島は7世紀に修行の場として開かれ、修道士によって様々な施設が建造されたのだという。修道士は12世紀頃までいたという。ドームは礼拝堂や修行のための庵だという。

石積みだけで建造する高度な技術

 これらのドームはモルタルなどの接着剤を用いずに石積みだけで建造されている。これはアイルランドに紀元前から伝わる高度な技だという。石を外側に向かって斜めに積み上げることで強い構造となる上に水漏れを防ぐのだという。アイルランドにはこのような石積みの建造物が多数残っているという。

絶海孤島のサバイバル術

 しかしこのような絶海の孤島での暮らしは容易ではないはずだ。まず水の確保だが、それは斜面に降り注いだ雨水が用水路を伝って貯水枡に集まる仕掛けが作られているという。また石垣で囲った平地は畑となっていた。鳥の糞などの有機物に富んだ土壌は肥えているとのこと。またタンパク源は鳥だった。この島はニシツノメドリの大繁殖地で、春から夏にかけて7000羽が飛来するという。こういうサバイバル生活自体が大切な修行だったのだという。

 

この島が修行の場となった理由

 修道士が命がけでわざわざこんな島までやって来たのは、アイルランドに特有の宗教があるという。5世紀アイルランドにキリスト教が伝わった際、この地のケルト人の自然信仰と融合して独自の信仰が生まれた。それがケルト十字だという。この信仰においては魂の再生が信じられており、死者が永遠に行き続ける再生の島が西にあると考えていたのだという(つまりは西の浄土ということか)。そしてその島こそがスケリグ・ヴィヒールだったわけである。

 二つの信仰が融合した修道院の島としてスケリグ・ヴィヒールは世界遺産に指定された。


 スターウォーズの最新作を見た時、あれはどこの島なんだろうと疑問に思っていたのですがここでしたか。寒々とした雰囲気から北方の島だろうとは思ってましたが。それにしても修道士の修行の島とは、確かにヒッキーになったルークくんが籠もる島としては最適である。ちなみにスターウォーズの完結編が近日公開とのこと。タイトルが「スカイウォーカーの夜明け」とのことだから、やはりこの作品は宇宙全体を巻き込んだ迷惑一族であるスカイウォーカー家のドタバタだということを正面に出したわけですか。

 ところでアイルランドのキリスト教は、ケルト信仰と融合してかなり独自色の強い宗教となっているのですが、よくまああれだけ分派にうるさいヴァチカンとかが異端認定して滅ぼさなかったものです・・・と思ったのですが、少し調べてみたところやはり異端扱いされていたようですね。そして隣国には開き直った異端のイギリス国教会がありますから、そことの関わり合い(アイルランドとイングランドは仇敵です)とかややこしい歴史もあったようです。まあ私は宗教史には興味ありませんので、詳細はよく知りませんが。

 


忙しい方のための今回の要点

・アイルランド西の絶海の孤島スケリグ・ヴィヒールには、石で出来たドーム状の建築物が多数存在する。
・ここは元々修行の場であり、修道士たちによってこれらの施設は建造された。
・彼らがわざわざこんな孤島を修行の場に選んだのは、元々のケルトの信仰で死者の国が西にあると考えられていたからだという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・キリスト教にしてもイスラム教にしても、メジャーな宗教ってやっぱり拡散の過程で諸々の分派が登場するんですよね。大抵はこのアイルランドのパターンと同じで現地の宗教と融合しちゃう。だけど分派が増えすぎると収拾が付かなくなって内部抗争になる場合が多い。実は異教徒との対立よりも分派同士の抗争の方が激しかったりする。
・そう言えば日本の隠れキリシタンなんかも、隠れるためにいろいろしているうちに神道が混ざっちゃったりとか独自性がかなり強くなっていたようですが。