ピレネー山脈の中、国境上の小国
スペインとフランスの国境上、ピレネー山脈の高地の中に小国家アンドラ公国がある。国土は東京23区よりも狭く、人口わずか8万人。
この国の国土の1割以上を占めるのがマドリウ渓谷。これが世界遺産となっている。標高2500メートルの草原には家畜が放牧されている。これらの家畜は麓の持ち主から牧童が預かって管理し、新鮮な草を食べさせるようになっている。誰の家畜にも新鮮な草を食べさせられるように中世から続いているシステムだという。このような放牧があることで雑草が除去されるし、排泄物は肥料となり景観が維持されているのだという。
自然の石を利用しての建造物
マドリウの各地に石造りの小屋が残っているが、それは牧童が寝泊まりしていた小屋だという。家畜が入らないように小さく作られた入口の奥では、寒さを凌ぐための暖炉の付いた小屋となっている。漆喰などの類いは使わず、石を積んだだけで作られている。なお現在、マドリウの牧童は1名だけとのこと。
マドリウ渓谷は氷河で削られた渓谷である。削られた石が地滑りで落ちてきており、昔から地元民はこれらの石を積み上げて段々畑などを築いてきたという。
小国が生き残れた秘密
9世紀頃、ピレネー山脈には小国がひしめいていた。しかしそのほとんどがスペインやフランスに吸収されて消滅、アンドラだけが残った。アンドラが生き残れた理由は、フランス大統領とスペイン北部のウルヘル司教を共同元首としている体制にあるという。つまり両大国の間で中立的に動いてきたわけだ。
国を支えた特産物
また国を支えた特産品もあった。マドリウ渓谷を通る街道はスペインとフランスを結ぶ主要街道であり、これを通じて18世紀にはフランスから鉄鉱石が入ってきて、これがマドリウ渓谷の豊富な雪解け水による水車を動力とした精錬所で鋼に鍛えられ、街道を通ってスペインに輸出されたのだという。
現在はこの街道は格好のトレッキングコースとなっている。高山の自然を楽しめるこのコースは観光客を呼び込んでおり、これが現在のアンドラにとっての収入になっているとか。
マドリウ渓谷が世界遺産に認定された理由は、人と自然が作り出した風景ということにあるとか。自然そのままでなく、牧畜や精錬といった人の営みが加わって現在の景観をなしているということらしい。
ヨーロッパにリキテンシュタインなどのように、中世の地方領主の国が生き残った小国がいくつかあるのは知ってましたが、スペインとフランスの国境にこんな小国があるということは知りませんでした。このような国が生き残れたのは、大国の間で上手く立ち回ったということもあるかもしれませんが、高山の国であってスペインやフランスにしたら無理に攻めて併合するメリットがほとんどなかったということが大きいような気がします。ヨーロッパの中でスイスが今日まで生き残ってきたのと同じように。これが何かの地下資源でもあったら、今頃はどちらかの国に併合されていたでしょうが。
忙しい方のための今回の要点
・スペインとフランス国境のピレネー山脈中の小国家アンドラは、国土の1割以上が世界遺産であるマドリウ渓谷である。
・この渓谷では家畜の放牧が行われており、それが雑草を除去したりなどの景観に貢献している。
・マドリウ渓谷にはスペインとフランスを結ぶ街道があり、かつてはここを通ってフランスからもたらされた鉄鉱石を、豊富な水力を用いて鋼に精錬してスペインに輸出していた。
・現在はこの街道はトレッキングコースとして人気があり、国自体の収入源も観光が主である。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・長閑というかなんというか、自然の美しい山国です。観光に行くには良いところでしょうね。ただ私のような者には住む気にはなりませんが。