教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/15 日テレ系(読売テレビ) 所さんの目がテン!「砂防の科学」

絶滅危惧種?の砂防研究者

 大人になったらなりたいものランキングを取ったところ、1位はサッカー選手、2位が野球選手、そして3位が学者・博士だそうな(ホンマかいな?)。しかしそんな中で研究者が減少していてて将来いなくなるのではと心配されているのが砂防学だという。

 砂防学とは土石流などを研究するスペシャリストで、日本においては災害対策などに重要な役割を果たすもの。しかし平成2年には30校あった砂防教育を行う大学が、令和元年には24校に減少するなど、現役の砂防研究者は自分が引退したら後継者がいないのではと懸念する状況だとか。と言うわけで今回は砂防について紹介とのこと。

昔の日本の山ははげ山だった

 砂防の基本は実は広重などの浮世絵を見れば分かるという。それはやけに山に木が少ないこと。これは誇張でも何でもなく、実は江戸時代や明治などは日本の山は薪の切り出しによる大量の伐採などではげ山が多かったのだという。だから雨が降ると大量に土砂が流れ出し、大被害をもたらしていたという。山といえば森林というのは積極的に植林しだしてから以降のことだとのこと(この認識には私にもなかった)。

 この状況の改善のために、明治29年に河川法、明治30年に森林法・砂防法が制定され、土砂崩れへの対策がなされるようになったという。これ以降、砂防ダムの建設、植林、山肌の整備などが行われたとのこと。

 

砂防ダムの効果

 砂防といえば砂防ダムのイメージがあるが、番組ではこの砂防ダムの効果を実験で示している。それによると上流から土砂を流しても、砂防ダムがあれば下流の被害が食い止められる(まあ当たり前だが)。しかしこうして一回土砂を溜め込むともうダムは砂で埋もれてしまう。こうなるともうダムの仕事はそこまでなのかと思うが、さにあらずとの話。ダムが土砂に埋もれてしまっても、それが川の傾斜を緩めることになり、土石流の流速を抑える効果があるのだとか(と言っても、その土砂を防ぐにはやはり新たなダムが必要だと思うが)。

流木に対応する新型砂防ダム

 また最近になって新たに発生しているのが流木の問題だという。山に植林したは良いが国内林業が輸入木材に押されて壊滅状態のために、手入れされずに放置されている山林が各地にある(それはまさに私自身が全国で目の当たりにしている)。こういう山林に大量の雨が降れば、土砂が流木を巻き込んで流れてくることになるという。流木は水に浮くために、従来の砂防ダムでは食い止められずに下流に殺到することになっていた。そこで開発された新型の砂防ダムは格子状になったダム。格子状になっていることで水がそこを流れるので、流木だけが土砂を巻き込んでそこで食い止められることになるのだとか。これも砂防学の進化によるものだとか。

 

河川生物のための魚道

 ただ砂防ダムなどを作ると、下流から魚などの生物が遡上できなくなるとの問題が発生する。それを解消するための設備が魚道。様々な魚道が設置されているが、中には傾斜面に石を並べただけという簡単なものもある。しかしこれも石を設置することで流れが緩やかになり、魚が遡上しやすくなるのだという。実際にカメラを突っ込んだところ魚が確認されている。


 以上、超マイナー分野であるが実は重要である分野に注目。こういう企画はドンドンとやって欲しいところですね。これこそテレビ局の使命です。こんなところに注目して扱える番組って、実際に今はこの番組ぐらいですからね(ガッテン向きではないし、せいぜいがNHKスペシャルかサイエンスZERO辺りが防災に絡めて軽く扱う程度)。

 ところで冒頭のアンケート、実際にどこで取ったものなんでしょうか? 今は実は学者よりもユーチューバーなんかの方が人気なのでは? ちなみに私の子どもの頃の憧れの職業は学者でした。ロボットものや特撮ものに出てくる博士に憧れてました。将来はああいう白衣を格好良く着る職業に就きたいと思ってました。結局は公的機関の研究者にはなれずに民間企業の研究者になりましたが、白衣ではなくて作業着を着てます(笑)。実は白衣って作業しにくいので、今でもあれを着てるのは医者ぐらいなんですよね。

 


忙しい方のための今回の要点

・災害防止に重要な役割を果たすのが砂防学だが、実は今は研究者が減少している。
・江戸から明治にかけて日本の山ははげ山が多く、雨が降ると土砂崩れが頻発していた。
・砂防ダムは流出する土砂を食い止めるだけでなく、土砂に埋まった後も川の傾斜を緩めて土石流の速度を落とす役割を果たしている。
・最近は流木が砂防ダムを乗り越えることが問題となっているため、それに対応して格子状になった最新のダムも設置されている。
・生物遡上のための魚道なども設置されていたりするが、単に斜面に石を並べるだけでも水流が軽減され、魚が遡上しやすくなる。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・昔の山ははげ山だったという観点は私もありませんでした。もっともはげ山がひどかったのは都市近郊の山でしょう。山村の方に行くともっと山と共生していたと思いますよ。
・山の問題の解決には、日本の林業の再生が必要というようなことも言ってましたが、これがまた実に難しいんですよね。単に経済効率だけを考えると、熱帯雨林を伐採して持ってきた方が安上がりと言うことになってしまう。今こそ、単なる経済効率だけでない新たな価値観が必要なんですが、それを現在の経済システムに組み込む方法が未だに確立されていない。炭素税とかCO2排出枠の類いもその一環なんですが、これも未だに社会的な合意が得られているとは言えない。トランプみたいな目の前の利益しか考えない馬鹿にかかれば「今儲からないから反対」となってしまうし。

 

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