教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/16 BS11 歴史科学捜査班「古代史ミステリー 最新技術で『古墳』解明!」

 古市・百舌鳥古墳群が世界遺産認定されたことで、にわかに古墳フィーバーとなっているが、そもそも古墳とはなんであるのかを最新科学で調査する・・・とのことだが、ほとんど同じ主旨の内容が以前にヒストリアであった記憶が・・・。

tv.ksagi.work

大仙古墳のとんでもない規模

 まずは古墳といえば仁徳天皇陵こと大仙山古墳というわけで、博物館で150分の1の模型で古墳の解説。古墳には円墳、方墳など様々あるが、一番メジャーで巨大古墳が多いのが前方後円墳。大仙山古墳も前方後円墳である。その墳墓の長さは486メートルもあり、世界三大巨墳墓と呼ばれているクフ王のピラミッド、秦の始皇帝陵などと比較しても、高さでは負けているが大きさでは勝っている。

 この古墳は当然のように人力で作られているのだが、大林組の試算によるとのべ従事者数が680万人、工期は15年8ヶ月、総工費800億円というとんでもないものになるという。古墳の表面には石が並べられ、各段の周囲には巨大な円筒埴輪が並べられていた。この円筒埴輪には魔除けの意味もあったのではとの話。またこのような巨大な古墳が築かれたのは朝鮮などから来る使者に大和政権の力を誇示する意味もあったという。

古墳ネットワークの存在

 なお大仙古墳は宮内庁が立ち入り禁止にしている(考古学の発展を全力で阻止するのが宮内庁のお仕事です)ので、古墳が当時の姿に復元されている八幡塚古墳で番組は取材している。また前方後円墳には大きさこそ違えど、同じ設計と思えるようなものが地方にも存在しているという。これは地方豪族と大和政権との結びつきを示し、技術者などを派遣していたのではとの話は先のヒストリアでも出ていたところだ。

 

古墳製作は住民が自主的に参加していた

 さてこの古墳の製作だが、住民を権力で強制的に動員したのかといえばさにあらず、農閑期などに農民が自発的に作業に参加していたと考えられるとのこと。そのために人によって石の積み方などに性格が反映しているとか(几帳面に積む者と大雑把に積む者がいるらしい)。ちなみにピラミッドの製作もかつては奴隷などを強制労働させていたと考えられていたが、近年では労働者が自発的に作業参加していたとか、一種の公共事業だったという説が有力であり、大分様相が変わってきている。やはり奴隷をこき使ってだと、このような巨大建造物を建設するのには無理があるということのようだ。やはり作業従事者が高いモチベーションを維持していないと巨大建築は不可能である。

竪穴式石室から横穴式石室への変化

 なお最初の頃の古墳の石室は、竪穴式石室といって石棺がそのまま埋められており、古墳はあくまで一人のためのもの(さらに誰かを入れようとすると掘り返す必要がある)だったのだが、後の時代には横穴式の石室が造られるようになり、中に親族などを追葬したりできるようになったという。この頃になると巨大古墳も減ってきて、古墳も権力をアピールするものよりも、段々と普通のお墓になってきたのだとか。

内部探査に参加するが・・・

 番組では最後に古墳を掘らずに内部の探査を行うという兵庫県立大学の後藤忠徳教授の調査に同行している。彼の手法は地中に電磁波を照射して、その反射から内部の構造を明らかにするというもの。石室などの空洞があると反射率が変わるので分かるそうだ。そして京都市の史跡である大枝山古墳群を訪れていざ新たな古墳の調査・・・のはずだったのですが、この夏の炎天下のせいで測定装置が故障してしまって調査は断念という尻切れトンボの情けない結果に・・・。それをそのまま放送しているということは、余程製作に余裕がなかったのだろう。


 以上、古墳についてですが、ハッキリ言ってヒストリアでやっていた内容とほとんど被ってますね。まあそうそう新しい話は出ては来ないでしょうが、少しは切り口を変えられなかったのか? まあ実は最も切り口を変えるはずだったのが一番最後のところだったんでしょうが、それが頓挫してしまったせいで番組全体がとっちらかってしまった印象です。本来なら再調査に同行してその時のデータを番組に使用するところなのですが、その余裕がなかったんでしょうね・・・。あまりに格好悪すぎる内容であることは、制作者自身が一番分かっているでしょうが。

 


忙しい方のための今回の要点

・巨大古墳は朝鮮からの使者などへのアピールのために作られた考えられる。
・古墳の製作は強制労働ではなく、農閑期などの農民が自発的に参加していたと考えられるという。
・当初は石棺をそのまま埋める竪穴式石室が中心だったが、段々と横穴式石室が採用されるようになり、普通の墓としての要素が強くなっていく。
・現在は掘らなくても内部を調査できる技術なども開発されている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・古墳の話になるとどうしても触れないわけにいかないのは、「宮内庁は考古学を妨害するために存在しているのか?」という話です。現在天皇陵といわれている古墳も、実際は誰が埋葬されているかは不明です。中には明らかに言われている天皇と時代が異なるのが判明した古墳などもあるのですが、宮内庁は勝手に天皇陵に指定してあくまで調査は拒否。ここまで来ると、何か明らかになったら困ることがあるのではないかと勘ぐりたくもなってくる。一体宮内庁って何のために存在してるのですかね?