今回は最先端科学について紹介。テーマはウニとクモ糸。
磯焼けの海のウニをクローバーで商品化する
近年、日本の近海で問題となっているのが磯焼けという現象。これは浅海の海藻類が全滅してしまう現象。海の砂漠化などとも言われている。そしてこの磯焼けした海にはウニがゴロゴロいるのが特徴。しかしこのウニは餌が不足している中で暮らしているので、中身がほとんど入っておらず商品価値は全くない。
磯焼けの原因は温暖化などによる海水温上昇などで一時的に海藻が減少した時、岩の表面にサンゴモが繁殖する。このサンゴモが出す物質がウニの幼生に触れると、ウニの成長を促す効果があるのだという。その結果ウニが大発生することになり、残った海藻を食べ尽くして磯焼けになってしまうのだという。
磯焼けの対策にはウニの駆除が必要なのだが、商品価値のないウニを捕まえてもコストがかかるだけなので放置されているのが現状。そこでこのウニを商品化できないかという研究が行われた。
ウニの養殖などでは昆布やわかめなどの海藻が餌に与えられているがコストが高い。しかし実はウニは雑食性なので実は結構なんでも食べるのだという。今でもウニにキャベツやトマトを与えている例もあるという。そこで九州大学の栗田喜久助教が餌にいろいろな草を与えてみたところ、クローバーが特に食いつきが良いということが分かったのだという。
このクローバーウニの実用化を目指しているのが宮城大学の片山亜優助教。彼女の研究の結果、クローバーで育てたウニは色目も市販品と遜色ない上に、高血圧予防に効果があると言われているαリノレン酸を大量に含むことが分かったのだという。なお味についてはコジルリの舌を信用するなら「非常に美味しい」そうである。まだクローバーの栽培コストなどの試算が出来ていないが、これが採算に乗るなら磯焼けの海からウニを採取するのが事業として成立することになり、磯焼けの対策が出来てなおかつ美味いウニを食えるという一石二鳥が成立する。
クモ糸を人工的に作る
もう一つはクモの糸の研究。しなやかで丈夫(同じ細さなら鋼鉄よりも強い)なクモの糸を人工的に合成するというのは研究者にとって長年の夢であった。近年、クモの糸に関するDMAを細菌に組み込み、培養することでクモの糸のタンパク質を合成させて、それを糸にするということに企業が成功したという。この糸はTシャツに使用されたり、プラスチックと組み合わせて軽量で丈夫な車のドアを作るなどがなされているという。
ただしここで合成できたのはあくまで、クモの糸っぽい糸。実はまだ本物のクモの糸の合成は出来てないという。実はクモのDNA配列は36億個と人間の31億個よりも多く(クモの方が人間よりも高度な生物ということか?)、さらには糸の生成に関するDNA配列は少しずつ異なったほとんど同じ配列が繰り返されているという特徴があるために、現在の遺伝子解析の技術では解析が困難なのだという。と言うのも、現在の遺伝情報を読み取るために使われるシーケンサーは遺伝子の断片の情報を出力するので、その断片の両端を見ながら重なるところをつなげていくという方法で全体像を明らかにしているのだという。つまりはほぼ同じパターンが繰り返されるとなると、どことどこがつながるのかが分からないというわけ。
この難題に挑んだのが慶應義塾大学の河野暢明特任講師。彼はDNAを切断しない新型シーケンサーを用いて、2年かけてクモのDNAの解析に挑んだのだという。その結果、クモの糸に纏わるタンパク質は今まで知られていた7種だけでなく、39種類もあり、その内の20種類は未知のタンパク質であることが判明したという。これによって本物と同じクモ糸が合成できる可能性だけでなく、タンパク質自体を素材として使用できる可能性も出てきたとのこと。クモ糸のタンパク質は衝撃吸収性などに優れるため、タンパク質で車体を作った車なんてことが考えられるとか。すると生分解性があるので廃棄も簡単とのことだが、一つだけ気になったのは、しばらく乗らずに放置していたら車が腐っていたなんてことにならないだろうか? また車にカビが生えたとか、キノコが生えてきたとか。
以上、最先端の科学について紹介という、もっともこの番組らしい内容でした。この番組にはこういう内容こそをドンドン放送して欲しいところ。昔は民放にも「夢の扉」などのこの手の紹介をする番組があったのですが、現在は放送内容の低レベル化でその手の番組は壊滅してますので、そこは「みなさまの公共放送NHK」こそが頑張るべき分野。
ウニのクローバー養殖は是非とも実用化願いたい。磯焼け問題だけでなく、これで美味しいウニが手軽に食べられるようになれば万々歳です。この前東北に行った時に宮古でウニを食べましたが、さすがに価格の高さには閉口しましたので(笑)。
忙しい方のための今回の要点
・今、日本各地の浅海で海藻が死滅する磯焼けが問題となっている。これの原因はウニの大発生にあるのだが、これらのウニは餌が不足しているために中身がほとんど入っておらず商品価値がない。
・そこでウニの餌を研究したところ、クローバーが餌に使えることが判明した。
・クローバーウニは栄養価に優れている上に味も良く、実用化が期待されるところ。
・軽くて丈夫なクモ糸を再現するために様々な研究が行われてきたが、最近ついにクモのDNAの解析に成功し、クモ糸に含まれるタンパク質が判明した。
・これらのDNAを最近に組み込んで培養することで、クモ糸を再現して新素材としての使用が期待されている。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・ひさしぶりに本来のサイエンスZEROらしい内容を見たという印象です。やっぱりこういうのがこの番組の王道です。しかし取材やらネタ集めやらが大変だから、なかなか作りたくないんだろうな。その上に視聴率もとれないし・・・。現代は、良い番組を作れば作るほど視聴率が落ちるというのが現実。だから民放とかはくだらないバラエティばかりになる。視聴率を狙う必要がないNHK(だからこそあんな低視聴率大河「いだてん」をまだ続けられるんだろ?)だからこそ、視聴率とは異なる価値観をキチンと提示して欲しいところ。
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