教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/30 BS11 歴史科学捜査班「信長VS秀吉 戦国一の天下人はどちらだ!?」

 今回は戦国の天下人、信長と秀吉の徹底比較・・・なんて言ったらかなり力の入った企画に聞こえるが、その実態は秋の番組改編期のドタバタの中で穴埋めの総集編というのが実態である。今回は歴史タレント(なんじゃそりゃ?)の小栗さくら氏が信長推し、歴史オタ芸人の房野史典氏が秀吉推しの立場から徹底討論(というよりは単なる濃いファントークというのが実態だが)を行うということ。

信長と秀吉「戦」を比較

 まずは二人のその後を決めた戦について。信長については小栗氏は長篠の合戦を、秀吉については房野氏は中国大返しを挙げている。

 長篠の合戦については、信長にとっては最強の敵であった武田氏の騎馬軍団を、馬防柵と3000丁の鉄砲で撃退した重要な戦いである。これは鉄砲という新兵器に注目した信長の着眼点もさることながら、やはり3000丁もの鉄砲を調達できた信長の経済力に注目が必要であろう。

 中国大返しは備中高松城を水攻めしている最中に本能寺の変を知った秀吉が、直ちに毛利と講和を結んで、10日間で250キロを踏破するという驚異的なスピードで軍勢を移動させ、見事に明智光秀を討って信長の後継者に名乗り出た戦いである。とにかくこの驚異的な反転を成し遂げた判断力と行動力、さらにそのための情報収集力、さらには行軍しつつあちこちに手配をして仲間を増やしていった工作能力、すべてが長けていることを示している。

 ここで小栗氏は信長は心理戦に長けていたとして、高天神城の戦いを示している。この戦いでは高天神城の降伏を許さず、あえて玉砕させることで後詰めを出来なかった武田の弱体ぶりを際立たせ、武田家臣団の動揺を誘ったのではとしている。これに対して房野氏は秀吉も水攻めなど相手方の心理的動揺を誘う戦略をとっていると受けている。

 

信長と秀吉「城」を比較

 次の比較ポイントであるが、二人が築いた城。信長と言えば絢爛豪華な安土城で、ここには天皇を招くことも考えていたと言われる。ただしこの城は本能寺の変で築城後わずか6年で焼失してしまっている。一方の秀吉といえば大阪城だが、これは三方を川で囲まれた堅固な城で、後の大坂冬の陣では家康が大軍で囲んだにもかかわらず落とすことが出来なかった堅城である。城の堅さでは大阪城に軍配が上がるように思われるが、私が思うにはそもそも信長の安土城はここで戦うことを想定していなかったと思われるので、単純な比較は不可能であろう。

信長と秀吉「政策」を比較

 次は政策を比較している。信長と言えば楽市楽座が有名であり、これを一種のキャッチコピーとして城下町を発展させたと言われている。また生野銀山なども支配しており、これが鉄砲購入のための軍資金になったとのこと。一方の秀吉で有名な政策は刀狩りと検地が有名であるが、番組ではその前に惣無事令を挙げている。大名同士の勝手な争いを禁じることであり、秀吉がまさに自分こそが公権力であるということを宣言したことになるとのこと。もっとも信長も九州に同様の処置は行ったようだが、その後に本能寺の変があったので実効を挙げなかったようだ。

 

裏切りが相次いだ信長

 この後、二人の先見の明について議論しているが、小栗氏が信長は優秀な人材を抜擢しており、秀吉などもおかげで出てくることが出来たということを言っているが、これに対しては房野氏が「ただし信長は家臣によく裏切られている」とのツッコミを入れている。これは事実で、荒木村重、松永久秀など信長を裏切った家臣は多く、挙げ句は明智光秀の裏切りで命を落とすことになる。これについては小栗氏は信長は意外に人間的に甘いところがあったのではと答えているが、私は信長が人間的に甘かったと言うよりも、人を能力ばかりで測りすぎて、その感情に無頓着だったのではないかと感じている。つまりは信長は人の感情を理解できないタイプの人間だったのではないかと考えている。

二人の人間像

 番組はこの後、肖像画から信長と秀吉の声を再現するというコーナーがあるのだが、正直なところ出てきた音声が非常に機械的で、私としてはあまり感心しなかった。

 一番最後に人間性。小栗氏は信長がおねに送った手紙を出してきて、意外と細やかな気配りが出来る人物であったということを言っているが、ただ気配りなどの点に関しては、やはり人たらし秀吉に一日の長があるというのが私の考え。その辺りは生まれながら殿様と平民からの成り上がりとの違いが影響しているだろう。


 以上、信長と秀吉の徹底比較・・・とのことなのだが、正直なところ今まで散々知られていることを蒸し返しているだけで、殊更に感心するようなことはありませんでした(笑)。一番目玉と言える秀吉の声の再現があのクオリティでは・・・。で、来週から火曜の夜8時に移転とのことですが、その最初の回は「鬼平」・・・ってこれは以前の再放送じゃん。来週からこの番組の時間で放送されるのが「鬼平」だからその関連ってことなんでしょうけど、まさかしばらく再放送や総集編でお茶を濁すつもりなのでは・・・。

 

忙しい方のための今回の要点

・信長は長篠の戦いで示した先進性や経済力が強み。それに対して秀吉は中国大返しで見せた判断力・行動力に情報収集能力などに長けている。
・信長の安土城、秀吉の大阪城共に非常に絢爛豪華な城であるが、実際に戦いを経験したのは大阪城だけなので、単純比較は不可能。
・信長の代表的政策である楽市楽座は城下町を作るためのキャッチコピーの面もあった。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・正直、今後のこの番組がどうなるのかは結構心配。既に段々とネタが尽きてきているのを感じるし、タイトルで謳っている「科学捜査」ってのが最近は実質的にほとんどなくなってきているから。ハッキリ言ってヒストリアや歴史鑑定とスタンスに差がなくなってきている。