今回のテーマは慢性痛。実はこの番組でも大分前に「痛みは脳が作り出す」として認知行動療法などを紹介したことがあったのだが、その延長線上の話のようである。
最新の慢性痛治療に使用される回覧板?
まず最初に登場するのはキャベツとジャガイモと梅干し。これは何に使われるものかというのがオープニングクイズになっているが、これの答えは頭痛の解消だそうな。日本では年寄りとかが梅干しをこめかみに張っているのを見たことのある者もいるかもしれないが、ロシアではキャベツを被り、ドイツでは蒸したジャガイモをつぶしてタオルで巻いて首に当てるそうな。ちなみに効果の意味はよく分からんが、ロシアのはキャベツで頭を冷やし、ドイツのはふかし芋の熱で肩の筋肉をほぐすことで緊張型頭痛を和らげようという発想だろうか?
で、今回紹介する対策としてここで登場するのが回覧板などに使うクリップボード。これを使用する方法が慢性疼痛治療ガイドラインで推奨度1A(最高ランク)の方法として紹介されているという。ここでほとんどの視聴者(私も含めて)は「?」となるのだが、これが制作者の狙い。してやったり顔が目に浮かぶようである。これを実際に使っている場面が紹介されるが、医師と患者がクリップボードを押し合いへし合いしている光景で、余計に意味は分からなくなる。
痛みの強さがある映像で変化する
とりあえずこれでつかみはOK(つまりはこの意味を知りたければチャンネルはこのままでというやつである)ということで番組は本題に入っていく。ここで痛みのメカニズムを紹介するためにゲストが参加した実験を行っている。
その実験とは腕を竹串で突くという実験。当然痛みを感じるわけだが、その後である映像を見てもらう。そしてその後に再び竹串で腕を突くと痛みの感じ方が変わるという実験である。ちなみにゲストの眞鍋かをり氏は最初の方が痛かったと答え、的場浩司氏と山根千佳嬢は二回目の方が痛かったと答えている。番組ではこの実験を20人に実施したようだが、その内の16人が二回目の方が痛かったと答えたとのことで、ここでガッテンお得意の模型を使った痛みの感じ方の紹介になる。
痛みとは脳が感じて作り出す
要は痛みというのは前頭前野が判断するものであり、体から痛みの刺激が来た時に前頭前野がその程度を判断することになる。しかしここで見た映像というのが、体に針を刺したりなどの痛そうな衝撃映像(さすがにそのまま流すことは抵抗があるのか、番組ではモザイクをかけていた)。これを見ると前頭前野が不快感に支配されて一種のパニックなり、そこに痛みの刺激が来たら一杯一杯の前頭前野が過剰反応してしまうと言うことらしい。ということは真鍋氏と他4人はこの映像をクールに眺めていたということか。
痛みの原因がないはずなのに痛みを感じる慢性痛
さてここで登場するのが慢性痛である。慢性痛とは痛みの元になった怪我や病気は回復しているにもかかわらず痛みが長引いたり、そもそも痛みの原因となるものがないにの痛みが生じるという例。番組に登場した患者も、歯の詰め物が割れたことから歯の痛みが始まり、歯科の治療を受けたにもかかわらず痛みはひくどころかひどくなっていって、子どもとの外出さえ出来なくなった例や、ストレッチをしていて股関節に痛みが生じ、整形外科で検査をしたものの異常なしと言われ、原因の分からないまま外出や運動が出来なくなった例などが登場する。
脳機能の低下が慢性痛の原因となる
この時の脳の中というと、前頭前野の機能が低下して、そもそも痛み刺激はないはずにもかかわらず脳内が不快感で一杯になっているのだとのこと。実際に慢性痛を抱える患者26人を調査したところ、前頭前野などの体積が5~11%減少していたとの研究論文も出ている。慢性痛によって脳が萎縮した(のか脳の機能が落ちているから慢性痛になったのかが定かではないが)というのである。つまりは痛みの原因は脳にあるということである。
慢性痛の最新治療法ACT
ここで最初に登場したクリップボードの意味が判明する。これはACT(Acceptance&Commitment Therapy)という療法の最初に使うもので、このボードを患者の痛みと見立てて医師と患者で実際に押し合って、痛みを真っ正面から押しやろうとしても疲れるだけであるということを患者に認識してもらうのだという。つまりは痛みを客観視するということ。痛みに苦しむ患者の頭の中は痛みのことで一杯で、常に何とかこの痛みを消したいとそれにかかり切りになっているので、その状態を解消することを目指すらしい。実際にある患者はまともに押していても疲れるだけだから、そうではなくてふっと横に逸らすということを考えたという。それだけで痛みの感覚が変わってくるのだという。
そして次の段階として、痛みのせいで○○が出来ないではなく、実際に自分にとって楽しいことをやってみるのだという。すると「痛みはあっても楽しいことが出来た」となり、その内に段々と痛みの感覚が鈍ってくるのだという。要はこれも以前に言っていた認知行動療法である。先に登場した患者さんたちも、今はこの方法で人生を楽しんでいる。
実際に治療を受けるには
なおこの療法自体は比較的新しいものなので受けられる医療機関が限られているらしく、お勧めは厚生労働省が定めた現在全国23カ所にある痛みセンター(厚生労働省のHPを参照)、それが近くにない場合には大学病院の心療内科などがお勧めとのこと。
さらに家庭で出来る方法としては痛み日記と瞑想を勧めている。これは以前の回でも紹介していたが、毎日その日の出来事などと感情、そして痛みの度合いなどを記録する。すると痛みが客観視できるようなるし、痛みがあっても楽しいことが出来たことなどが認識できるようになるのだという。また瞑想は楽な姿勢で呼吸を意識するということを3分ほど行うことで、前頭前野の働きが活発化するとのこと。
以上、慢性痛に対する対策です。番組中で患者数2300万人と言っていましたから、5人に1人は慢性痛を抱える患者がいるということになります。そう言えば私も、治療したはずの虫歯がいつまでも痛むということが続いてるんですよね・・・。
今回のキーワードは客観視でしょう。つまりは痛みに苦しむ自分自身をも視点をそこから切り離して客観的に見るということ。これは慢性痛に限らず重要なテクニックであり、例えば怒り狂ったとしても、その怒り狂っている自分を切り離して客観的に見ることで怒りのコントロールが出来るようになります。つまりは一時の感情に支配されて馬鹿をしでかさないためにも重要と言うこと。実際に何か馬鹿をしでかす輩というのは、例外なくこれが出来てません。
忙しい方のための今回の要点
・痛みは脳で感じているために、前頭前野の機能が低下したりすることにより、痛みの原因はなくなっているはずなのに脳が不快感で満たされて痛みを感じ続けるということが起こり、これが慢性痛の原因となっている。
・これを解消するためには、まず痛みを客観視すること。痛みを真っ正面から追い払うことにとらわれるのではなく、それをかわすとかやり過ごすとかいう感覚をつかむこと。さらには痛みにとらわれずに楽しいことを実際に行ってみる。こういうACTと呼ばれる方法が最近になって疼痛治療の最前線で行われている。
・この治療を受けるには厚生労働省が定めた痛みセンターに行くのが良い。
・家庭で出来る方法としては、その日の出来事や感情に痛みの強さなども含めて日記を書くこと。こうすることで痛みを客観視する効果が期待できる。また瞑想なども前頭前野の能力を高める効果がある。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・確か以前に紹介した時は「慢性腰痛の痛みは実は脳の中に原因がある」という話だったように記憶しています。要するに痛みについても感じるのも作りだすのも脳次第と言うこと。だから脳に変調が発生すると体に問題がないのにあちこちに激痛が生じるなんて症状も発生します。またずっと痛みにとらわれることで、それを感じるための脳回路が出来てしまうという話も以前に出てました。とにかく人間の機能ってかなり複雑なんです。
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