教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/11 BSテレ東 ガイアの夜明け「新発見!「祭り」「古都」の魅力」

各地の祭が直面する深刻な問題

 岸和田と言えば勇壮なだんじり祭で有名で、各地からも見物客が集まってくる。しかしこの祭の現場では変化が起こっているという。約200世帯が居住する岸和田市中之濱町。ここは立派な彫刻を施した一億以上の価値があるというだんじりを有している。しかし最近は子どもの減少で青年団が育っていかないという悩みがあるという。そのために祭に集まった青年団の若者たちの多くは近隣の市や町から参加している。まただんじりは駒と呼ばれる車輪が必要なのだが、これに費用がかかり、だんじりの維持費に年間300万円、怪我に備える保険が50万円という経費がかかるのだという。現在この祭は多くの寄付によって支えられている

 茨城県下妻の大宝八幡宮ではタバンカ祭という奇祭がある。白装束の男たちが松明を振り回す祭であり、この火の粉を浴びると1年間は火の災いに遭わないという伝承があるのだという。しかしかつては10代が中心だった祭の担い手も、今では30代が中心となっており、体力的にかなりキツくなっているという。そこで2日間行われていた祭を、来年からは1日だけにするということが神社から提案されることとなった。

 

祭をサポートする事業を立ち上げた女性

 現在日本の各地で大小様々な祭の数は約30万件あり、その経済効果はトータルで1.4兆円と試算されている。しかし各地の祭が今、資金の不足、担い手の不足などの問題に直面しているという。特に近年は警備のためにかかる費用が増加しているという。これはかつて明石の花火大会で将棋倒しのせいで多数のけが人が発生した事件により、主催者側に警備強化が求められるようになったからだという(また野次馬的に騒ぎを起こす質の悪い観客が増えたことも原因の一つだと思う)。

 このような祭をサポートする会社が立ち上がっている。2015年に加藤優子氏が創業したオマツリジャパンは、様々な方法で各地の祭をサポートする事業を行っている。番組では目黒のサンマ祭の取材を行っているが、地元企業である永谷園をスポンサーとして仲介し、祭の会場で永谷園の製品を販売したり製品アンケートを取ることなどで企業側にメリットを提供し、祭をスポンサードしてもらうという企業と祭との仲介を行っている。企業の参加を促すことで資金面の問題を解決しようというアイディアである。祭の主催者は来年度はより多くの企業に参加してもらおうと考えているという。

 伝統ある温泉地である湯河原では秋になると竹灯籠を灯す祭がある。しかしこの祭は地元の人々が仕事の合間を見て準備をしている。しかしメンバーも50代が中心となり、この重労働がかなり苦痛になってきているのだという。そこで加藤氏は体験型の娯楽施設を運営している会社を訪れてそこと交渉。祭の準備を新入社員の研修として協力してもらうことにした。この会社の若手社員3人が祭の準備に参加、実際に祭を体験することで自らの今後の仕事の参考にすると共に、現場の人手不足解消につなげるという取り組みを行った。

日本人観光客の減少に直面する京都

 多くの外国人が訪れる京都。京都を訪れる外国人の数は2017年の353万人から2018年は450万人に増加、年間を通じて常に大量の観光客でごった返している状態となっている。しかしそのことが逆に日本人観光客から敬遠される事態につながり(私なんかもまさにそうで、今や京都は「出来れば行きたくない町」である)、京都の観光客は2015年の5202万人から、2018年には4470万人に減少したという。

 京都といってもすべての場所が混雑しているわけではなく、清水寺周辺のように異常に混雑する場所から大原のように観光客がほとんど来ない場所もあるという。そのような現在観光客が少ない場所に観光客を誘致しようという試みもなされている。

 

お寺に観光客を増やすためのアイディアを提案する事業

 大伽藍で知られるが観光客がまばらな妙心寺。その中の退蔵院が飴を使った試みで観光客を集めているという。それはスマホのアプリから流れる副住職の指示に従って庭園で飴をなめながら瞑想にふけるという試み。飴をなめることにだけ精神を集中することによって無念無想に近づけるのだという。この体験の仕掛け人が成瀬勇輝氏。彼は全国を回ってお寺などの集客のためのアイディアを提案しているのだという。先ほどのアプリも彼がスタッフと共に開発したものであり、外国語にも対応しいるという。かつてバックパッカーとして各地を回った経験が彼のアイディアにつながっているとのこと。

 そんな成瀬氏に依頼をしたのが壬生寺。壬生寺は新撰組ゆかりの地としてファンが訪れるが、副住職はもっと集客を増やしたいと考えていたという。と言うのも、老朽化でお堂が壊れて修理が必要となり、そのためには一千万単位の資金が必要となったからだという。成瀬氏は副住職に壬生寺の謂われや特徴などを細かく聞き取り、そこから何かヒントになるものを導き出そうと考える。その結果、壬生寺は水が非常に豊富な寺であると言うことから、水を使ってゆかりの新撰組と結びつけるアイディアを提案。彼が作成したミズしるべなるクジは、指に水をつけてなぞると新撰組隊士によるアドバイスのようなメッセージが出るようになっている。このほかにも様々な仕掛けを彼は提案したらしい。


 以上、祭もお寺もやはり金次第と言うこと。祭は資金もさることながら、特に地方では担い手の不足がかなり深刻な問題となっています。実際に過疎が進行しているような地方では地元の祭は集落の高齢化と共に消滅した事例が多く、これが地方文化の消滅につながっています。資金面を解決するには企業をスポンサーとしてつけるというのは普通にある方法で、実際に今では多くのメジャーな祭は大抵は企業スポンサーがついてます。しかし問題はそういうスポンサーのつかないマイナーな祭。結局は地元の寄付に頼ることになるのですが、経済的負担と人的負担で地元民自体が離れてしまっている祭なんかもあるとか。

 お寺の方は現在は檀家不足で経営が成り立たなくなるお寺も多くなり、放置されたまま廃墟となるところまで出ているとか。そう言えば住職が生活に困った挙げ句に窃盗をして逮捕されたなんて例までありました。お賽銭だけではどうにもならないので、多くのお寺では現在は副業に精を出しているところが多いです(駐車場を経営しているところや、マンション経営までしているところもある)。そのせいでお寺の本体自体がどんどん小さくなっているところまである始末。壬生寺なんかはまだ新撰組などと言うキャッチーなネタがあるのでビジネスとして成立しやすいですが、ほとんどのお寺ではそういうものがないので、そういうところは流石に成瀬氏でも厳しいのでは(そもそもそういう寺は成瀬氏へのコンサル料自身が出せない気がするが)。

 

忙しい方のための今回の要点

・各地の多くの祭があるが、資金面や担い手の面で危機に瀕している祭は多い。
・加藤優子氏が立ち上げたオマツリジャパンは、そういう祭をサポートする会社で、祭をスポンサーの企業と結びつけたり、企業の研修として社員に参加してもらうことで人的サポートを行ったりなどのアイディアを提案している。
・一方の京都などでも集客に困っている寺院はあり、そんな寺院にアイディアを提供しているのが成瀬勇輝氏。
・彼はそのお寺の特性を活かした集客のためのアイディアや企画を出し、それをスタッフと共に開発したりという事業を行っている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・この番組は経団連などがバックにあるビジネスの番組なので、すべてをどうしても金の側面から見るというということがあるのですが、実際には祭の衰退は担い手の減少というのが一番多いように思えます。若者が地元で働かずに東京などに出てしまうので、地方に若者がいなくなってしまったんです。と言うわけで、こういう点でも東京が地方の活力を吸い上げて日本全体を死に至らせつつあるということです。そういうわけで私の持論である東京解体論につながるのですが・・・。

 

次回のガイアの夜明け

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