教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

11/10 NHKスペシャル「ダヴィンチ・ミステリー1 幻の名画を探せ~最新科学で真実に迫る」

 ルネサンスを代表する天才画家と言われているレオナルド・ダ・ビンチだが、その真作とされている作品は14点と極端に少ない。そのために、今日でも彼の作品はどこかに埋もれているのではないかと考えられている。今回、そんな中で彼の作品の可能性があるとされた2作品を科学的な観点から検証した。

 

レオナルドの作品の可能性が浮上した「糸巻きの聖母」

 その1つが「糸巻きの聖母」と呼ばれる作品。今まで個人コレクターが購入してからほとんど表に出ることはなかったのだが、この度ルーブルで修復が行われることになったのを機会に徹底的に調査されることになった。

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糸巻きの聖母

 この作品がレオナルドのものではないかと言われるようになった理由は、レオナルドの元を訪れた人物が、この作品のことではないかと思われる記述を残しているからだという。ただ同じような構図の作品は世の中に多数あり、多くは模写だという。その中からこの作品がレオナルドの作品であると断定するには何か決め手が必要である。またこの記録には糸と籠が描かれているという記述があるのだが、絵を見る限りではそれらは描かれていない。それがこの作品がレオナルドのものだと判断するための障害となっている。

 

もう1つの候補「プラドのモナリザ」

 もう1枚の候補がプラド美術館にある通称「プラドのモナリザ」と呼ばれる作品。モナリザそっくりの絵であるが、モデルがいささか若々しい上に背景が一切描かれていないことから、レオナルドの作品ではないとされていた。しかし汚れを落とす作業をした結果、鮮やかな背景が現れたことからレオナルド作品の可能性が浮上したのだという。

 今まではタッチなどから判断されていたのだが、近年は科学的解析が非常に進んでいる。まずは赤外線反射撮影法という方法が行われた。これは下絵の木炭を検出する方法だという。これで分析したところ、プラドのモナリザには本物のモナリザと同じ修正の跡などが現れたことから、下絵にレオナルドが関与している可能性が浮上した。

 一方、糸巻きの聖母に同様の分析を行ったところ、何と垂れ下がる糸や籠らしきものが下絵に描かれていることが判明したのである。先の記録を書いた者が見たのは下絵だったとしたら話が合うということになったのである。

 

詳細な分析の結果は?

 しかしこれだけでは断定は出来ない。他の作品にはないレオナルド特有の特徴が確認される必要がある。レオナルドの作品の特徴は肌に透明感があり、筆の跡が全く見られないということだという。

 古い作品は変色したニスに覆われているため、慎重にこれをはがす作業が行われた。その結果、プラドのモナリザにはアゴのところからわずかに筆の跡が見つかった。これはレオナルドの描き方とは異なる。またモナリザにある肌の透明感がこの作品にはない。このことからこの作品はレオナルドのものではないと判断されることとなった。この作品はレオナルドと一緒に弟子が同時進行でこの作品を描いたのではないかと推測されている。

 一方の糸巻きの聖母からは高価なラピスラズリの使用が確認され、筆跡と肌の透明感もレオナルド特有のものであることが確認されたことからレオナルドの作品である可能性がさらに一段と高くなった。

 

レオナルドの超絶技法と科学分析

 ここで更なる科学調査が行われる。それはレオナルドが用いた技法に関するものであった。X線ラジオグラフィという装置で透過すると絵の具の濃淡を判断するという技法だという。これを使うと絵の輪郭が現れるのだが、驚くべきことにレオナルドの作品はX線を通すと絵が見えないという現象が発生することが分かった。

 これはレオナルドの用いた技法のためだという。彼は絵の具を油に溶く時に極端に希薄に溶いて、それを何重にも重ねて描いている(もっとも濃いところでは15層も塗り重ねているらしい)ということが判明したのだという。この技法のためにX線を通した時に濃淡が写らないことが分かったのである。またこの技法はとんでもなく手間のかかるものであり、レオナルドの作品に対する姿勢が覗える。「レオナルドは作品を完成させることを考えていなかったのでは」との声まで出ているぐらいである。

 さて問題の糸巻きの聖母であるが、絵の具の断片を詳細に調査したところ、非常に薄い層が何層にも重ねられていることが明らかとなり、さらにX線を透過してみたところ見事に絵は消えてしまった。このことからついにこの作品はレオナルドの作品であると判断されることになったのである。

 

 まるで科学捜査のような話でなかなかに興味深かったのですが、確かにプラドのモナリザは最初に見た時に素人目でも「ちょっとレオナルドとは微妙にタッチが違うような気がするな」と感じられましたが、糸巻きの聖母の方はレオナルドのクセ絵そのものでしたから、こっちはレオナルド臭いとは感じました(笑)。もっともレオナルドの作品の模写という可能性はあるので、それをトコトンまで検証したということでしょう。今後もこの調子で候補作品を調べていくんでしょうね。ただ一つだけ気になったのは、このやり方だとレオナルドが技法を完成させた以降の作品は分かりますが、例えばレオナルドの修業時代の作品なんかが出てきたとしてもそれは判断しようがないですね。まあそんな作品は、本人にとっては黒歴史として表に出ない方が良いのかもしれませんが・・・。

 

忙しい方のための今回の要点

・今回レオナルド・ダ・ビンチの作品である可能性があるとして、「糸巻きの聖母」と「プラドのモナリザ」が詳細に調査された。
・調査の結果、プラドのモナリザは筆のタッチなどがレオナルドのものと異なることが明らかとなり、彼の弟子がレオナルドと同時に描いた作品と判断された。
・一方の糸巻きの聖母は、レオナルドが用いた薄い絵の具を何層にも重ねるという技法が使用されていることが明らかとなったことから、レオナルドの作品であると判断された。

 

忙しくない方のためのどうでも良い点

・糸巻きの聖母は個人コレクターの所蔵とのことですが、レオナルドの真作とのルーブルのお墨付きが出たことで、恐らく価格は暴騰でしょう。こういうのってまさに目利きの世界です。そう言えばつい最近も「?」な曜変天目茶碗とかいろいろあったっけ。

 

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