今回は店を構えるのではない生き方を選んだ料理人達の物語。
キッチンカーの手配を手掛けるメロウ
東京のオフィス街。昼になるとあちこちに多くのキッチンカーが並ぶ。このキッチンカーの手配を行っているのがメロウ。社員24人のベンチャー企業だが、660台のキッチンカーと契約しており、都内93カ所にキッチンカーを派遣しており、月に弁当1億円を売り上げているという。社長の石澤正芳氏は社員と共に都内で出店可能な場所を探しては地主と交渉している。弁当の売り上げは85%が事業主へ、10%がメロウ、5%が地主という配分になっているらしい。まだまだ都内も探せば出店スペースはあると言う。
このメロウが開催する説明会には多くの開業希望者が参加している。その中に既に開業を決意していた女性がいた。千明尚子氏。3人の子供を抱えるシングルマザーである彼女は、イタリアで料理修業をした経験がある。店を開くのは資金が必要である上にリスクがあること、またキッチンカーなら仕事をするのは昼間だけで育児にも時間をかけられることから、これに人生をかける決意をしたのだという。
彼女は100万円で中古の軽を購入して得意のDIYでこれを改造。トータル200万円で出店を行うことにした。メニューはイタリア仕込みのローストポークの弁当。これで1日50食の売り上げを目指すことにした。なお仕込みは保健所の営業許可を得たキッチンで行う必要があるので、レンタルキッチンを使用して本番に挑む。そしていざ初日。しかし彼女の様子を見守る石澤氏の表情が曇る。キッチンカーは昼休みの時間が勝負なのに、彼女は時間がかかりすぎているというのである。さらにトラブルが発生、仕込んでいた2つのローストポークの内、2つ目が火が十分に通っておらず生焼けになっていることが判明、この日は19食で打ち止めという散々な結果に終わる。
その後の彼女は、石澤氏のアドバイスを入れて車内の作業スペースや手順を改良、所要時間を半減させて次の販売に挑む。その結果、ようやく予定以上の60食以上を売り上げる上々の結果に。
出張シェフのマッチングサイト、プライムシェフ
さらに出張シェフという形態もある。彼らが登録しているプライムシェフというマッチングサイト。登録している50人のシェフから依頼主がシェフを選択して、自宅に呼べるサービスである。予算や味の好みなども相談できるという。
このサービスに登録することにしたのが若い和食料理人の浅見尚希氏。献立の選択からすべてを自分で考えられるこの仕事に魅力を感じたらしい。彼は自信を持って自らが考えたメニューを登録したのであるが、三週間経っても依頼は一件もなかった。そこでプライムシェフに相談に行くことに。その結果、何をメインにしているかというようなアピールがないという指摘が。浅見氏は一から設計し直しをすることに。
彼は自身がよく知っている千葉の食材をメインにすることを考える。そこで千葉の農家を訪れて、千葉で生産しているこしひかりを入手。また千葉の養蜂家が製造している百花蜜を料理に取り入れることを考える。そして様々な食材に蜂蜜を組み合わせて研究、蜂蜜ソースを使ったローストポークをメインにした和食コースを開発する。
そしてようやく彼に依頼が来る。ある宿泊施設で団体客への料理を出したいとのこと。21人の大人数のメニューにてんやわんやで臨む浅見氏であるが、顧客からは上々の反応を得てやりがいを感じる。
料理人の夢と言えば昔から自らの店を持つことであるが、それには元手がかなり必要だし、また失敗して借金を抱え込むこともある。プライムシェフに登録しているシェフの一人も、自らの店を開いたが様々な費用で経営が苦しくなって店をたたまざるを得なくなったらしい。そういうリスクを考えると、撤退の判断がしやすいこういうビジネス形態はありだろう。もっともその分、身入りは少なくなっているだろうと思うし、いつまでもコンスタントに仕事があるかというのも難しいところである。
何せよ、いずれのビジネスでも言えるのだが、自分にしかないオンリーワンをどこまで確立できるかというところ。食品関係はこれが特に厳しい(一つヒットしたら追従者もゾロゾロ出てくるし)。腕1本で生きていくというのは、どの世界でも厳しいことである。今回登場した千明氏はイタリアで料理修業した経験が、浅見氏は和食料理人として修行した経験がありということで共にプロであるのだが、それでも確実に成功できるかは難しいところである。彼らの今後の成功を祈りたいところ。
忙しい方のための今回の要点
・オフィスの昼休みに弁当などを販売するキッチンカーを手配する会社がメロウ。ここでは登録したキッチンカーを都内の93カ所に派遣するビジネスを展開している。
・一方、出張シェフの登録サイトがマッチングサイトのプライムシェフ。ここでは希望するシェフを選んで、予算や好みを知らした上でシェフを派遣してもらうことが出来る。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・参入障壁が一番低いが、その代わりに廃業も一番多いのが飲食店。特にチェーンのラーメン屋なんて、次々と開業してはつぶれてます。コンビニ残酷物語が言われて久しいですが、今はチェーン飲食店残酷物語が展開しつつある。そんな業界だけに生き残りは大変です。
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