教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

11/25 BSテレ東 ガイアの夜明け「台風から1ヶ月 命を救う挑戦者たち」

 台風19号が東日本を中心に未曾有の大被害をもたらしたが、その中でビジネスの観点から被災者たちを助けている人たちを紹介。

水害現場で大活躍するエアボート

 最初に登場するのは佐々木甲氏。彼が山梨から11時間かけて、千曲川の決壊で甚大な被害の出ている被災地に持参したのは彼が開発したエアボート。船上に搭載したプロペラの風力で進むボートである。スクリューがないので、水深の浅いところでも走行することが出来、洪水被災地のような場所での活動に最適なボートである。

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エアボート(出典:佐々木氏の会社フレッシュエアーのHP https://airboat.jp/rescue_leisure/)

 彼の本職は内装業だったのだが、仕事の合間にボート作りを進めていた。彼が救助用エアボトートの製作を始めたのは、宮城出身の彼が東日本大震災で友人を津波で失ったこと。エアボートなら助けに行けたのにとの無念の思いから、1日でも早くエアボートを完成させるべく開発に精を出したのだという。この番組では以前に取材したことがあるようだが、開発の過程ではボートが転覆沈没したりなど失敗の連続だった。しかしそれにも負けずに2年がかりで開発に成功したのだという。

 彼は自らボートを操縦して被災地を回り、孤立して取り残されていた3世帯5人を救助した。今回のこの活動は佐々木氏のボランティアとして行っている。そして今彼は、内装業を辞めてエアボート1本で勝負するべく工場を建てている。既に高知県警に一艇納入の実績があるという。現在はさらに大型のエアボートの開発を行っている。

 

水道が使えない場所のための循環型シャワー

 被災地で問題になるのは断水。上下水道が寸断されることで、被災者は長い間入浴が出来なくなる。泥だらけになった家を泥まみれになって片付ける作業を行っているのに、入浴が出来ないというのは被災者にとってはかなりのストレスである。それを解消するための開発を行っている人もいる。

 ベンチャー企業WOTAが開発した循環型シャワーは、一度使用した水をAIが汚れを判別して濾過して浄化することで水を循環させるシャワーである。95%の水を再利用できるので、100リットルの水を入れておけば100回以上シャワーが出来るという。WOTAは東大発のベンチャー企業で現在の従業員は20人。1セット500万円で現在まで約40台を販売したという。

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循環型シャワー(出典:WOTAのHP https://wota.co.jp/wota-box/)

 台風上陸から2日後の10/14。取締役の前田瑶介氏の元に富津市から停電になった山間部の入浴支援をして欲しいとの要請が入り、急遽在庫の装置を集めてボランティアで駆けつけることになる。地域のコミュニティセンターに30分で2台を設置、早速話を聞いてやって来た地元の人たちが体の汚れを洗い流した。

 10/16には長野市から要請が来る。この地域では水は出ているのだが、下水処理場が被災したために排水することが出来ず、下水処理の必要がないシャワーと言うことで要請が来たのだという。とりあえず費用の一部は行政負担で2カ所に設置して住民の役に立つ。

 しかし相次ぐ要請に限界が来る。何とか納入先から借りて機材を集めたりしているがすべての要請には対応できない状態。この辺りには前田氏も歯がゆさを感じている。そこで前田氏は鎌倉市などと協定を結び、被害が発生した時にユーザー同士で装置を融通し合えるようなシステムを確立するように動いている。

 

水没車買取を行う企業

 また水害では大量の水没車が出た。これらの水没車は大抵は廃車にされてしまうのだが、そんな水没車を購入しているのがTAU。元々は事故車の買取を行っていたのだが、ここ最近は水没車の購入依頼が急増しているのだという。

 他所では値が付かないような水没車でもTAUでは例えばエンジンに内に水が入っているかとか、状態を徹底的に見極めて値段を付ける。ただどころか廃車費用まで取られる状態だった被災者にとってはいくらかでも値段が付けば、それは次に車を買う時の足しになる。彼らにとっては実にありがたい話である。

 では購入した水没車をTAUはどうしているのか。洗浄された水没車はオークションにかけられる。そして運ばれた先がウラジオストック。ここの整備工場で部品レベルにまで分解されて整備されるのだという。現地では日本車は大人気で町を走行する車のほとんどは日本車。水没車は事故車のような板金が必要ない分、手間もかからないし、綺麗なものも多いので人気なのだとか。

 

 以上、災害の被災者を助けつつ、ビジネスにつなげるというお話。兵器産業のような人を殺して儲けるような業界と違い、社会に役に立つ価値があること幾万倍である。このような人を生かすための産業が発達して、兵器産業のような愚かな産業を駆逐してくれたらと思うが、残念ながら人間の愚かさがある限りはそれは無理なのが社会の現実。現にトランプのような愚かという言葉を全身で体現しているような人物が権力者になるようでは先行きは暗い。

 水没車をウラジオストックで修理して売っているというのには驚いたが、それが出来るのは整備費が安いのか、それとも少々の故障が生じてもユーザーが自ら修理してしまうのか。そう言えば「日本車は部品が多いので故障しても修理しやすい」と現地人がインタビューに答えていた。日本ではその後に電装系などにトラブルが続出したら修理費の方が高くつくとして、水没車をわざわざ買う者はほとんどいません(だからこそ水没車即廃車なんだが)。

 そもそもロシアは社会主義時代にひどい物不足を体験しているので、何でも魔改造してしまう文化があります。私も以前にNHKスペシャルで北極の流氷観測ステーションの話を見た時に、シャープの電卓を改造して水深計にしていたのを見ました。ファミコンを改造して戦闘機の制御に利用しているという噂まであったぐらいですから、車のトラブル対応ぐらいお手の物なのかもしれません。

 

忙しい方のための今回の要点

・水害時の救助用に、浅い水深でも移動できるエアボートの開発を行っているのが、佐々木甲氏。彼は自作のエアボートで千曲川の決壊現場での救助に当たった。
・水道が使えない時のための循環型シャワーを開発したのがベンチャー企業のWOTA。AIで水の汚れを判定して専用のフィルタで濾過するシステムで、100リットルの水で100回以上のシャワーが出来る。現在、自治体などへの導入を進めている。
・水没車は廃車になることが多いが、TAUでは水没車を買い取ってウラジオストックなどで再生して販売している。現地では日本車は大人気なんだとか。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・人を生かすためのビジネスをする者もいれば、ビジネスのために人殺しを推奨する兵器産業や全米ライフル協会のような奴らもいる。一体人間、どこまで落ちたらそこまで良心を捨ててしまえるんだろうという気がする。やはりビジネスも社会に役に立つというのが基本だと思うのだが。

 

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