教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/2 NHKスペシャル「体感 首都直下地震 DAY1 あなたを襲う震度7の衝撃」

 30年以内に70%の確立で発生すると言われている首都直下地震。もし発生したら甚大な被害が想定されているにもかかわらず、実際の対策はほとんど何らなされていないに近い(災害対策よりも利権ピックの方が優先されている)。もし首都直下地震が発生した場合に起こりうる事態を想定ドラマなどで4日間にわたって、実際のタイムスパンに従って放送するというNHKがかなり力を入れている企画である。

 

東京都で直下型地震が発生

 まず最初は想定ドラマから始まるが、舞台は架空の某放送局のスタジオ。冬の夕方4時頃に直下型の地震が始まる(災害想定で一番被害が大きくなる時刻らしい)。混乱するスタジオ内。想定外の大地震が発生したらしいことが分かったことから、スタジオでは報道のために情報を集める(ネットやらラインやらを駆使していたが、正直なところ本当に首都直下が来た場合にこれらが機能するのかについては私は非常に疑問を感じている。)。そして災害情報の放送をしようとするがメインキャスターの消息が不明(藤原紀香がメインキャンターだったらしく、写真だけでの出演だったが、どうやら彼女は地震発生直後にビルの崩壊に巻き込まれて死亡(?)したようだ)、やむなくスポーツキャスターだった女性アナウンサー(小柴風花)が放送を担当することになる。同時多発的な火災がドンドンと広がっていき、取材に出ていた記者が爆発に巻き込まれて死亡したり、惨状はスタジオにも伝わってくる。さらに上空のヘリコプターからの映像を見ていると、人口密集地で大勢の死体が。これは郡衆雪崩によって圧死した犠牲者。放送では無闇に帰宅をしようとせずに、安全な場所に避難することを訴えるが・・・。というのが大体第1日目の内容。

 

郡衆雪崩の恐怖

 今まで考えられていなかった新しい観点としては、郡衆雪崩で大きな被害が発生すると想定している点。郡衆雪崩とは大勢が狭い場所に殺到した時に、将棋倒しになって下敷きになった人々が圧死するという事故。明石の花火大会での事故例が日本では有名である。東京は渋谷や原宿など、それでなくても通常時から人口密度が異常に高い地域があるから、それらの人々が地震でパニックになって避難を急ごうとすると確実に発生することが予測できる。対処方法としてドローンを飛ばして民衆に避難情報を伝えようという社会実験なども開始されているようだが、ドローンのモーター音がうるさすぎて肝心の情報が全く聞こえないし、実際に大混乱の中で悠長にドローンなんて飛ばしてられるのかというところに大きな疑問があり、私の感想としては「これは絶対に上手くいかない」と確信した。

 

同時多発的な火災が延焼を広げていく

 火災は東京の各地にある木造住宅の密集地で発生すると推測される。推算で東京都内で800カ所以上で同時発生が予測される。これに対して消防車は600台程度。また専門家の話によると、消火の時は一方から水をかけるだけだと火を反対側に追いやることになり、延焼を広げてしまうので最低2方向からの放水が必要だという。そう考えるとまず消火は不可能ということになる。さらには渋滞する道路、木造密集地の狭い道路が消防車の進入を阻む(さらに阪神大震災の時には消火栓や防火水槽から水が出なかったということも起こっている)。すると火災はあっという間に燃え広がり、場合によって避難所さえも飲み込んで膨大な犠牲者を出すこともあり得る。なお火災が激しくなった場合、その上昇気流で火災旋風という炎の竜巻が発生して被害をさらに増加させることがある(東日本大震災の気仙沼で発生したし、関東大震災ではこれが避難民を巻き込んで4万人近くの死者を出した)。これについては明日登場するようだ。

 

しかし実際にこの程度なのか?

 かなり衝撃的なドラマにしていたが、すべて被害想定に基づいたリアルな話である。ただ正直なところリアルに阪神大震災を体験した身としては、これでもまだまだ想定が甘いなという気も起こる。まず都内の5割で停電が発生しているというのに、普通に携帯やラインなどが使用できている点。そこまでのバックアップシステムは整っているのだろうか? 停電や火災などが発生したら、基地局などに被害が出てネットワークがダウンする可能性が高いそもそもテレビ放送自体も普通に出来るかどうかということに私は疑問を感じている。それにテレビ放送が出来たとしても、ほとんどの被災者はその情報を受け取る術がなかろう。東京の異常な密集状態を考えると、死者想定2万人という数字は私には「1桁は少ないんじゃないか」というのが本音である。やはりすべての根本は東京の異常な人口集中にあるので、根本的かつ最有効な解決法は東京解体しかないというのが私の揺るがない考えである。それにも関わらず政府は東京利権ピックなどでさらに集中を進めようとしているのだからどうにもならない。

 

 番組の構成としてはドラマの緊迫感はなかなか良く出ていた。主演の小柴風花が若手俳優にしては迫真の演技であったのは高評価(某朝ドラ女優なんかだったら完全にぶち壊しをしていただろう)。ただ解説部門の井ノ原+小野アナという構成はどうだろうか? この手の番組になると小野アナの喋りがどうもたどたどしくなるし、イノッチも軽いノリでというわけにもいかないので、何となくギクシャクして見えた。

 

忙しい方のための今回の要点

・首都直下地震を想定しての再現ドラマを放送。想定は冬の夕方4時頃にマグニチュード7クラスの地震が発生。
・都内では木造密集地域を中心に800カ所以上の火災が同時発生。消防車は絶対数が足らない上に、道路の渋滞や密集地帯の細い路地に阻まれて消火活動が出来ず、火災は次々と広がっていく。
・また避難民が殺到することで将棋倒しなどで圧死者が出る郡衆雪崩も想定されている。

 

忙しくない方のためのどうでも良い点

・上でも言いましたが、私の正直な感想は「これでもまだまだ想定が甘い」です。
・また東京がこの災害に直面した時、いわゆる「首都消失」状態になり、地方も大混乱になるでしょう。そもそもテレビの全国放送自体が不可能になるといいます。恐らく西日本では大阪辺りをキー局にしての放送をする体制を急遽構築しようとするでしょうが、東北や北海道では対応できない可能性が大。それに肝心の東京からの情報が全く入ってこなくなるという可能性が大きい。
・何せよ、あらゆる災害においてすべてが想定内に収まるということはまずなく、何か不測の事態は起こるものです。東日本大震災での原発事故なんかも「想定外」だったわけですから(原発はいかなる災害でも絶対事故を起こさない完璧な施設という無茶苦茶な想定になっていた)。

 

翌日の内容

tv.ksagi.work