先月の「糖質」に続いて第2回は「塩」。人類の生存に不可欠にして、それでいて摂りすぎれば高血圧などの病気につながる恐れがある。特に日本人は塩分の摂りすぎが以前より指摘されている。なぜ我々がそこまで塩に魅せられるのかを生物進化の観点から解説している。
人間は2gの塩分で生きていける
厚生労働省が掲げている塩分摂取量の目標値は男性7.5g未満、女性が6.5g未満である。これに対して日本高血圧学会は6g未満を掲げており、WHOが掲げているのは5g未満である。当然ながら日本人の実際の塩分摂取量の平均はこれらよりもずっと多い。では人類は一体どれだけの塩分を摂れば生きていけるのか。その情報はアフリカで生活するマサイを見れば分かるという。彼らは塩を摂取することがなく、その食生活はほとんどが牛や山羊などの乳であり、そこに含まれている塩分だけで必要な塩分を賄っているという。その含有量は2gとのことなので、少なくとも人間はこれだけの塩分で生きられるということである。
塩分を取り過ぎるとどうなるか。血液中の塩分が増えると薄めるために水分が増えるので、それが高血圧につながる。高血圧になると血管壁が傷ついて動脈硬化や脳卒中などの危険が高まる。さらに最新の研究によると、マウスに塩分の多い餌を与え続けると、脳内に塩分を求めるような物質(麻薬中毒患者が麻薬を求める時と同じもの)が発生するということまで分かってきたという。つまりは濃い味付けはクセになるということである。
人類の陸上進化が塩を必要とするようになった
人類はなぜ塩を求めるようになったか。それは4億年前に遡ることになるという。この頃、人類の祖先は海中から地上に上がった。すると海水から容易に摂取していたナトリウムを摂取できないようになる。ナトリウムは体内で電気を伝えるのに必要なので、ナトリウムがないと生命を維持できない。そこでナトリウムが含まれる食べ物を判別できるように、舌が塩分を敏感に察知できるように進化したのだという。さらには体内のナトリウムを尿などで排出してしまわないように、腎臓がナトリウムの再吸収能力を持つことになった。こうして99%以上のナトリウムが血液中に再吸収されるようになったという。体内には200gの塩分を保っており、1日で失われるのは1.5g程度とのこと。
さらに塩を求めるようになった理由
では人類がいつから塩を大量に取り始めたかだが、8000年前に変化が起こっているという。ルーマニアに世界最初の塩作りの後が発見されており、日本でも縄文人はアマモなどの海藻から塩を作っていた(アマモ塩というのが今も売っていた記憶があるが)。
人類が塩を作り始めた頃はちょうど農耕が始まった時期だという。農耕によって穀物や野菜を大量に食べるようになった結果、野菜類に含まれるカリウムによって体内からナトリウムが排出され、ナトリウム不足に陥ったことから、ナトリウムを意識的に摂取する必要に迫られたのだという。
そして冒頭に登場したマサイ族だが、彼らも最近は食が近代化し始めたことから、塩を摂取するようになってきているという。イランなどではペルシャ帝国の頃から大量の塩が料理に使用させているが、それはこの地で岩塩が発見されたからだという。岩塩は金と同じ額で取引されており、岩塩採掘中に生き埋めになってミイラ化したソルトマン(まるでマーベルの新ヒーローのようだ)なるものまで発見されているとか(塩漬けで保存されたことになる)。
塩を好むような構造になっている人類の味覚
人間がここまで塩を好むのは、味蕾にある感覚細胞はいずれも塩分が関係するのだとか。甘みを感じる細胞の中に、糖分と塩分を同時に感じるセンサーがあり、塩分が加わることで甘みがより強く感じられるようになっているという。同様に旨味や脂味も塩分と連動しているのだという。これは食物から積極的に塩分を求める必要があることから得た仕組みだったのだが、それが世の中が変わった今となっては徒となっているとか。腎臓は40歳から小さくなって能力が落ち始めるので、腎臓を長持ちさせるには減塩が重要であるとのこと。
塩分をどう抑えるかは、特に味噌汁と漬け物の国の日本では重要課題です。しかも困ったことに、高齢になるほどこれらの食べ物を好むんだよな。
番組冒頭で、マサイ族は1日に2gしか塩分を摂っていないのでそれだけで人間は生きていけると言っていたが、マサイの食生活を見ていると野菜をほとんど食べていなかったからカリウムは摂取していないだろう。そう考えると野菜を大量に食べる人間なら2gだと足りないのでないかという気がするが・・・。まあWHOが言っている5g未満にはする必要はあるんだろう。
しかし糖分と塩分を合わせて考えると、ラーメンってまさに自殺フードだな。だけどこれがうまいから困る。人間というのは欲求に弱い動物なので、その欲求をどうコントロールするかが問題となってくる。私も食欲には何度も敗北しており、そのせいで持病を抱える羽目になってしまってるんで、偉そうなことは何も言えませんが。
忙しい方のための今回の要点
・塩は人間が生きていくのに不可欠だが、摂りすぎると高血圧や脳卒中の原因となる。マサイの食生活などから2g程度でも人間は生きていけるという。
・人類の祖先が地上生活を始めた時、ナトリウムをどうやって確保するかが生存にとって重要になったので、人間の舌は塩分を敏感に感じるようになっている。またナトリウムの体外排出を抑えるために腎臓が発達した。
・また農耕が始まって穀物や野菜類を大量に摂取するようになった結果、これらに含まれるカリウムによって体内のナトリウムが排出されるようになったため、製塩によって塩分を造り出すという文化も同時に発達した。
・ペルシャでは岩塩が採掘されたことにより、今でも料理に大量の塩を使用する。
・また人間の味覚は塩分によって甘み、旨味、脂味などが増強されることも分かっており、味付けで塩味が重要になる原因となっている。
忙しくない方のためのどうでも良い点
・私はそんなに塩っぱいものが好きな方ではないですが、それでも塩分摂取量はやはり過剰でしょうね。塩っぱい味付けを好む関東人は関西人よりも塩分摂取量が多いと思われますが、それは統計には出てるんだろうか。
・さらに塩っぱい味付けをするのが東北です。私が東北に旅行した時は、なぜこんなに良い素材に対してこんなに塩っぱい味付けをするのかと残念になりました。
・長野が県を上げて減塩に取り組んだ結果、一転して長寿県になったという話も聞いたことがあります。昔は長野の蕎麦と言えば塩っぱいものだったんですが、最近は長野に旅行すると味が薄すぎるぐらいのそば屋も結構あります。
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