教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/12 NHK 歴史秘話ヒストリア「特攻 なぜ若者たちは飛び立ったのか」

 日本が大戦中を通じて行った特攻。多くの若者たちの命が無駄に散ることになった。当の特攻を行った若者たちは何を思って飛び立ったかと言うことを、特攻隊員の手記を元に紹介している。

学徒出陣を余儀なくされた学生の葛藤

 今回紹介するのは信州生まれの上原良司。1922年に生まれた彼は、幼い兄弟たちに「自分の思ったこと、言いたいことは誰の前でも隠すことなく話せ」と言っていたという。

 1937年に日中戦争が始まる。彼にとってはまだ戦争は遠いものだった。しかし彼が慶応大学に入学した半年後に太平洋戦争が始まる。この時に彼は他の多くの日本人同様に快哉を叫んだという。ここまで敗戦の経験のない日本人は戦争の悲惨さなど想像の及ばないものであったのである(現在のアメリカ人と全く同じである)。ただもし自分が動員されたらとの不安は過ぎっているようである。「戦死こそもっとも望むもの」といかにも軍国洗脳されているこの時代の若者らしい考えを述べるものの、その一方で自らの死に対する恐怖もあることも率直に彼は書き残している。彼自身は自らを自由主義者と言っているように、自由の価値を信じる人間であったらしい。

 

軍隊で出くわした理不尽な暴力

 そして彼の懸念していたことが起こる。学徒出陣で彼は3年の途中で戦場に送られることとなる。そこで彼が直面したのは理不尽な暴力だった。軍隊では暴力大好きの上官が何かにかこつけては無意味な暴力を正当化していた(今でも日本の体育会系の一部にある体質であり、典型的だったのが日大アメフト部)。彼はその理不尽さに対する怒りも示している。

 そんな彼の選択肢となったのはパイロットになること。戦線の拡大によりパイロット不足に陥った軍部は学生たちを即席パイロットにする特操なる育成コースを定めていた。彼は誇りを抱えてパイロットの訓練を受けるが、ここでも待っていたのは理不尽な暴力だったという(もうこれは日本軍とは切っても切れない根っから体質になっている)。

 

戦況悪化の中で浮上した特攻という愚策

 そのような中でも彼はパイロットとしての訓練を受けていたのだが、戦況の悪化と共にとんでもない戦術が浮上してくる。それが特攻。それを提案したのは当時の総理であった無能極みの東条秀樹だった。これに対して陸軍航空本部は猛反発する。航空本部長の安田武雄中将は「今日の航空不振は第一線将兵の責任ではない中央当事者の責任である。親の責任を子供の犠牲によって償うことが出来ようか。」という極めて妥当な当たり前のことを言って反発したのだが、こういうまともな人物は当然のように更迭され、その後任には東条の腰巾着の後宮淳大将が就任する。しかし特攻戦術を採用するという後宮に対して、今度はその部下から「戦果が挙がらないのは航空がだらしないからだという発想のようだが、装備と用兵の問題だ」という極めて妥当かつ強硬な反対意見が相次ぎ、特攻の件は一旦は棚上げとなる。

 しかしその頃、前線で陸軍機が敵に体当たりするという事件が起こり、陸軍はそれを壮挙と徹底的に讃美、新聞なども煽って一気に世間は特攻へと流れていく。サイパン島が陥落するなど戦況が悪化する中でまともな考えは最早通用しない状況となり、特攻がとうとう採用されてしまう。

 

特攻は志願者によるという「建前」

 こうして特攻に多くの兵が送られるのだが、あくまで彼らは自らの志願ということになっていた(建前上は)。ただ実際は志願者を募るものの、もしそこで拒絶するような者でもいれば、臆病者、卑怯者と徹底的にネチネチと虐められるわけであるから、兵は上官の意志を「忖度」(安倍政権の大好きな言葉だ)して全員志願ということになるわけである。

 特攻は最初こそそれなりの戦果を上げたが、やがて米軍の対空戦力の強化などによってほとんど効果が上がらなくなるようになるが、それでも多くの兵がひたすらに無駄死にさせられた。もう既に特攻行為自体が一種の組織維持のためのセレモニーになってしまっていたのだという指摘もある。上官たちは「いずれは自分達も後に続く」といって部下たちを送り出したようであるが、実際に後に続いた上官はほとんどいない

 なお東条は陸軍の飛行学校を訪れた時に「敵の飛行機は何によって落とすか」と聞き、「高角砲」「機関銃」などという声に対して「魂によって落とす」という精神主義剥き出しの愚か極まりないことを言ったらしい。精神力さえあれば竹槍でB29を落とせるという馬鹿丸出しの考えである。流石に無能の極みの東条である。こんな馬鹿がトップなんだから勝てる戦争でさえ勝てるはずもなく、ましてやこれは最初から勝算のない戦争だった。

 上原は特攻の理不尽さに対しての憤りの感情と、お国のために命を懸けるという一種の使命感と高揚感の両方を抱えて出撃していき、そして散ったようである。

 

 すみません。どうもこういうネタの時は、当時の軍部の不条理さに対しての深い憤りを抱えている私は、どうしても書きながらも怒りを抑えるのに苦労してます。ハッキリ言って当時の軍部は日本を滅ぼすためにあったのかとさえ言いたいぐらいです。そもそも国民を犠牲にして守る国体とは一体何なんだ(国民いなくして国は存在しないだろう)。もう根本から馬鹿げています。やや冷静さを欠いているのが自覚できますので、上の記載内容も番組の要約としては不十分な部分はあります。

 とにかく私としては二度とこんな馬鹿な時代は来させてはならないということを強く考えています。だからこそあの戦争を賛美する輩、戦争をするべきなどと妄言を吐く輩には怒りを禁じ得ないわけです。

 なおそもそも番組はもっと冷静で淡々としたものですので、念のため。

 

前回のヒストリア

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