教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/23 BSテレ東 ガイアの夜明け「残業を減らす!45時間の壁」

 法律によって1ヶ月の残業時間の上限が45時間に定められたことから、各業界で対応にてんやわんやである。特に混乱しているのが、元々労働集約型(ハッキリ言ってブラック職場の代表格)の上に人手不足で喘いでいる飲食業界。番組では大戸屋の取り組みについて紹介している。

 

残業削減の波の中で様々な事情が

 番組で追跡しているのは大戸屋の3店の店長。それぞれタイプも事情も異なる。一人は猛烈社員で長時間労働に自身の存在意義を感じており、残業規制に反対という立場の人。もう一人は逆に残業規制には賛成で、みんなが幸せになる働き方をしたいと言っている人。さらにもう一人は残業規制で給料が減るとローンの支払いや生活費が心配という人である。

残業を減らしたくない猛烈社員

 大戸屋の中でもトップクラスに集客が多い新宿東口店店主の安藤隆仁氏は典型的な猛烈社員。滅私奉公に一種の陶酔が入っているというある意味で「すごく昭和な人(41才とそう年でないにもかかわらず)」。しかし彼の考えとは関係なく、残業削減は本社からの命令としてやって来る。それも当然で、今回の残業規制には法的罰則が付いている。つまりは残業時間の上限が守れなければ企業としての大戸屋が処罰されるので社長も必死である。しかし現場は人手不足が甚だしく、大忙しの店舗を切り回している彼は、どうしても人手不足を自身の残業でこなしてしまうところがある。そこで外国人アルバイトを受け入れることにする。しかしアルバイトが休んだりするとどうしても自分で穴を埋めてしまう。そのせいで残業時間が減る見込みは全く見えない。

 

残業は減らしたいが売り上げ不調な店長

 中野北口店の店主の石田卓氏は安藤氏とは全く別のタイプ。彼は長時間労働は誰も幸せになれないということで、理想は残業時間30時間以下。しかし彼は店舗の売り上げ低迷による赤字続きという大問題を抱えていた(こんな状況だけを並べたら、典型的な「できない社員」に見えてしまうのだが・・・)。彼が残業削減の秘密兵器として考えていたのがタイミー。時間単位のアルバイトを紹介するサイトで、バイト代は即日決済というシステムである。コストをかけても残業を減らそうという取り組みである(とここまで聞いただけで、何となく前途に不安を感じるのだが・・・)。とりあえずタイミーのアルバイトの導入で7月の残業時間は56時間には減った。

残業手当が減ると生活に困る店長

 大戸屋吉祥寺店店主の上原勇一郎氏は終業後も一人で店内のチェックを行っていた。彼は人に仕事を教えるのが苦手なために、人に教えるよりは自分で残業して済ませてしまうというタイプ。おかげで残業が減らない。また彼はローンや子供の学資なども必要なので、残業がなくなると収入が減るのではという不安も抱えている。その結果、7月の残業は71時間と減る様子がない。

 

これに対して社長は

 一方で社長の山本匡哉氏は残業削減だけでなく売り上げ低迷の問題も抱えていた。売り上げ低迷のきっかけは今年3月のバイトテロとのことなんだが、番組では触れていないもっと構造的なものもあるような気がするが・・・。番組で紹介されているだけでも価格戦略の失敗なんかもあるらしい。なおインタビューを聞いていると、法的規制が導入されたから仕方なしに残業規制に取り組むが、本音では滅私奉公長時間労働の大戸屋戦士を求めているような、いかにもブラック業界らしき考えが滲んでいたりする(笑)。

人手不足が解消せずに時給アップを要求

 新宿東口店の安藤氏の残業時間は社長のハッパにかかわらず減少していなかった。問題は人手不足が解消しないこと。スタッフ会議では「バイトの給料を上げられないか」という話がスタッフから出る。外国人アルバイトなどは特に時給に敏感なので、他社がわずかでも時給が高ければ容易にそっちに流れてしまうのである。残業が全く減らなくて本社から呼び出された安藤氏は、そこで時給のアップを社長と談判する。社長の山本氏はやむなく時給の70円アップを約束する(何だかんだ言っても安藤氏は稼いでいる上にバリバリの大戸屋戦士だから社長も要求を聞いたのだろう)。

 

スタッフに仕事を移管することで残業を削減

 アルバイトに仕事を教えるのが苦手の吉祥寺店の上原氏は、スタッフ教育に力を入れるようになっていた。なるべくアルバイトに仕事を教えることで自身の残業を減らすことにしたのである。在庫チェックなどもアルバイトが行うようになったことで上原氏の残業も減った(何となくその分、他のスタッフに負荷がかかっているような気もするが)。ただ残業時間は減ったものの気になるのは給料。もし給料が減るようなことがあれば考えることもあるという含みのある発言をしている

最後通牒を突きつけられた店長

 さて中野北口店の石田氏は大変なことになっていた。切り札と考えていたタイミーだが、これが大失敗していた。タイミーは単発のアルバイトなので、その度に仕事を教える必要があり、それがとんでもないロスになってしまっていた(大体予想通りだ)。結局は石田氏の仕事はかえって増える羽目に。売り上げは低迷したままなのに、石田氏の残業は80時間に増えるというとんでもない事態になってしまっていた。当然のことながら石田氏は呼び出しを食らって社長から「このままでは店長から降ろす」という最後通牒が突きつけられる。

 

それぞれのその後

 社長の山本氏は仕込みの作業工程を見直して分単位での時間短縮を図ることにする。今までは使用していなかったカット済みの肉なども使用することにした。また店主経験のある本社スタッフが人手不足の店を手伝う支援部を創設した。これで安藤氏の負担も減少し、10月の残業はようやく39時間に減少した。

 一方最後通牒を突きつけられた石田氏は営業時間を短縮して残業時間を減らす決断をしていた。また単発アルバイトへの依存を減らし、外国人バイトを導入することにした。またこの店にも応援が派遣されることになった。その結果、石田氏の10月の残業は43時間に収まった。

 残業時間が減ることに不安を感じていた上原氏は仕込みをスタッフに任せるようになっていた。山本社長も「残業を減らしたからといって収入がへるようなことにはしない」と約束して一安心とのこと。

 

 というわけで何となく「目出度し目出度し」で終わってるのですが、果たして本当に事態はそう単純なものかは疑問です。安藤氏のところも石田氏のところも、いよいよどうしようもなくなって応援を送った状態なので、あくまで一時しのぎ感が強いです。それに正直なところ、本当に残業が減ったんでしょうか? 本音を言うと私は「実は裏でサービス残業を強いてるんじゃないか?」という不信感があります。それでなくてもこの業界はサービス残業が恒常的というブラック業界(特にワタミなどはひどかった)だったので、それが一朝一夕で改まるとは思いにくいです。その後の追跡が必要に思います。1年後ぐらいに再取材したら、結局は猛烈社員に戻っている安藤氏と、店長からはずされてしまった石田氏に、高給料を求めて転職した上田氏なんてことになってるかも。

 

忙しい方のための今回の要点

・残業時間の上限45時間が施行されることになったが、飲食業界の大戸屋では対応に苦戦している。
・慢性的な人手不足の上に煩雑なオペレーションの中で残業時間削減に取り組む現場の店長を3名紹介。
・彼らはそれぞれ独自に残業時間削減に取り組んだがなかなか実効が上がらず、結局は本社から応援を送ることで凌いだようである。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・飲食業界は労働搾取型のビジネスモデルで成立してますからね。本来なら業態の構造自体を根本的に変える必要があるのですが、このアベノミクス不況(景気が良いのは安倍の取り巻きだけ)下では難しいところです。庶民が貧困化しすぎて単価のアップは売り上げ減少に直結しますから。
・恐らくこれから来る流れとしては、AIなどによる自動化で極限まで人出を減らすと言うこと。しかしそれは回り回って雇用の減少につながり、結局はさらに不景気に拍車をかけるという現代のジレンマ。だから所得の再分配が重要なのですが、庶民から吸い上げて上に撒こうとしている腐敗しきったアホが権力握っている状態ではお先真っ暗。

 

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