教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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12/30 BSテレ東 ガイアの夜明け「町工場が食卓を変える!」

 今回は生き残りをかけて町工場がその技術を活かして挑んだ新商品について紹介。

無水調理鍋バーミキュラで急成長の愛知ドビーの新製品

 最初は鋳物ホーロー鍋のバーミキュラ。これを製造する愛知ドビーは元々は機械部品を下請け製造していた鋳物工場。しかし下請けの仕事の今後を考えた時に不安を感じた社長の土方邦裕氏(45才)と弟で副社長の智春氏(42才)が、会社の生き残りをかけて製造した新商品だった。それが無水調理が出来る鍋として大ヒット。今や愛知ドビーは総合的なキッチン用品の会社へと脱皮をしようとしていた。

 ここで満を持して投入する新製品がフライパン。フライパンの最近の流行はアルミ製などの軽いもので、鋳物のフライパンは重量が大きくなるのが難点。デザインを担当する松本和也氏は自動車メーカーでF1マシンをデザインしていたという人物。彼は重量を抑えるためにフライパンにの肉厚を従来の3ミリから半分の1.5ミリにすることを計画する。

 しかしこれは試作の段階で大難航。鋳物は溶けた金属を鋳型に流し込むのだが、鋳型が薄いために何度流し込んでも穴が開いてしまう。そこで鋳型の流路そのものを再設計し直して何とか試作に成功。出来上がった鋳物にホーロー加工して試作品の製造に成功した。出来上がったフライパンは女性でも軽々扱える重量で、ホーローフライパンの特徴である熱伝導の高さによる温度の高さを活かしてシャキッとした炒め物が出来るものに。この春に新商品として市場に投入する予定とのこと。

 

三重の町工場が開発した保温調理の出来る土鍋ベストポット

 一方、愛知ドビーのように町工場からの脱却を図るメーカーは他にもある。三重の町工場の中村製作所は切削加工の専門工場。先代時代からの売りは「空気以外はなんでも削ります」と銘打った切削技術。先代社長のガンでの急死を受けて24才で工場を継いで18年の山添卓也氏(42才)は地元の伝統工芸品の萬古焼に自らの切削技術を組み合わせて、保温調理の出来る土鍋・ベストポットを開発していた。

 ベストポットはその構造と密閉性の高い蓋(この蓋が密着するところに中村製作所の加工技術が生きている)のおかげで、米と水を入れて沸騰させると後は30分放置しているだけで土鍋ご飯が炊けるという器具で、あらゆる料理を保温調理できるために体験会などでも好評で、売り上げを徐々に伸ばしていた。ただこれらの体験会から上がった要望としては「IHでも使えるようにして欲しい」というものが多く。それが課題となっていた。

 磁力を使うIHは元々土鍋とは相性が悪い。山添氏は最初は発熱体であるカーボンをそこにつけて試作実験をしてみたが、その結果は保温性が悪くなって保温調理が出来ないものになってしまった。そこで他の町工場と協力してアイディアを練る。

 協力したのは東大阪(下町ロケットの舞台である)のIH用のカーボンを加工しているオーシン。会長の石田誠氏は、カーボンは放熱性が早い上に高価であることから、伝熱性の高いステンレス(これ自身もIHで発熱する)を組み合わせ、鍋全体を今以上にさらに加熱する方法を提案する。早速近くの金属のへら絞り加工を専門とする天吉に依頼して鍋に取り付けるためのステンレスを製造。これを鍋にはめ込んでそこにカーボンを貼り付けて保温テストを実行したところ、従来のガス用の鍋と遜色のない保温効果を出すことが出来た。

 この土鍋はIH対応のベストポットとして発売された。この商品には伊勢丹のバイヤーへも注目して店頭で販売されることになった上に、ミシュランガイドにも載った懐石料理屋での採用も決定。中村製作所も世界に羽ばたこうとしている。

 

 町工場をアイディアを持った若手二代目が新商品で大きく成長させようとしている物語である。地味なハイテクというところがいかにも日本の町工場らしくて心躍ります。実際には日本の産業を底支えしていたのは大企業ではなくてこういう町工場であり、これが技術大国日本の原点とも言えます。こういうイノベーションこそ産業を発展させる元になるので、大いに頑張ってもらいたいところ。もっとも彼らのように成功した例ばかりではなく、中には構想倒れの二代目が、とんでもない事業を打ち立てた挙げ句に先代が築き上げた会社をまで倒してしまう例もあるので、この手の「創業者気質」には功罪両面があることには注意しておく必要がある。

 一般的にどんな事業も立ち上げ期のイノベーションと挑戦が必要な時期に求められる経営者と、ある程度企業が成長してから安定軌道に乗せてそれを保っていく時期に求められる経営者では求められる資質が違うのでそれは要注意。ザクッと言えば、創業者は時には大博打を打つ大胆さが必要だが、その後を継ぐ経営者はリスク管理をキチンと出来ることが重要となる。一人の人物で両方を兼ねていたら理想だが、大抵はそんな経営者はいない。途中で創業者型の経営者から安定成長型の経営者に引き継ぎが出来た会社は良いのだが、それが出来ずに創業者型の経営者がカリスマとしていつまでも居座ってしまった場合、急成長した後に急破綻する事例が多い。その最たる例の一つがダイエーの中内功である。

 さらに言えば大企業が長期の低落傾向になってきた時に、それを再度持ち上げるタイプの経営者というのもいて、そういう人物は志向としては創業者型に近くはあるのだが、実はその資質には微妙なズレがある。だから多くの企業の創業を手がけた名経営者を企業再建に起用しても、結局は失敗する場合が多かったりするんだが・・・。

 

忙しい方のための今回の要点

・鋳物工場の愛知ドビーは、無水調理可能なホーロー鍋のバーミキュラの開発によって下請け工場から脱することに成功した。
・その愛知ドビーが次に投入する製品はホーローのフライパン。重量を抑えるために肉厚を1.5ミリに抑えるのに苦労したが開発に成功、この春に新商品として投入される。
・三重の町工場の中村製作所は、その切削技術を使用して保温調理が可能な土鍋・ベストポットを開発して成長中。この度、IHに対応した新製品を東大阪の町工場と協力して開発、市場に投入することとなった。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・ところでこの番組、今年でナビゲータの江口氏とナレーションの杉本哲太が降板して、後任は松下奈緒氏と眞島秀和に変更だとか。10年だったらしいし節目と言うところか。女性の起用というのはいかにも今時というところだが、財界の広報番組らしく比較的無難なチョイスという印象。ただ彼女の場合、美人で知的という印象だが、一つ間違うとそれが鼻持ちならないという空気と紙一重なので、そこのところが要注意。
・ちなみに私はこの番組については役所広司+蟹江敬三の頃の印象が強いです。そのせいで江口氏に代わった直後は「若いな、軽いな」と感じてました。しかしその江口氏も知らない間にえらく落ち着いたものです。

 

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