教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/9 BSプレミアム 偉人たちの健康診断「明智光秀 本能寺の変"敵は腸にあり!"」

 どうも完全に明智光秀ウィークに突入してしまっている印象があるが、この番組もテーマは明智光秀である。毎回突飛な仮説を提案するこの番組だが、今回もまたもやかなり大胆な仮説を提案している。本能寺の変の真相は明智光秀が抱えていた深刻な病にあるというのである。

f:id:ksagi:20200109231025j:plain

明智光秀も光栄の手にかかるとこんなイケメンに

 

明智光秀は認知症になっていた

 まず番組が注目するのは本能寺の変の数日前から光秀に奇行が見られていること。まず最初は家康の供応を命じられた光秀が用意させた料理が、悪臭を放っているとして信長を激怒させた事件。この時には怒り狂った信長が光秀を足蹴にしたとも言われているが、光秀はそもそも何事も細心に行うタイプ。なぜその光秀がこんなにもの失態を犯したか。

 その二は愛宕神社で籤を引いた時に二度、三度と引き直したという件。この時代の籤とは自ら三つぐらいの選択肢を紙に書いていって、それを神前で引いて方針を決めるというものらしい。だから二度、三度と引くというのはすべての籤を引いてしまうと言うことで、意味がないのだという。

 さらには笹に包んだちまきを、そのままかぶりついて食べてしまうという奇行まで残っているとか。確かにこれらを並べると異常を感じないでもない。

 で、これらの奇行から推定される光秀の症状はレビー小体型認知症だというのである。レビー小体型認知症というのは、脳内にレビー小体というタンパク質の固まりが蓄積して、それによって脳が損傷して幻覚などの症状が現れる認知症である。アルツハイマーに次いで多い認知症であるが、アルツハイマーと違って記憶力の低下などはあまりないのが特徴とのこと。症状は様々だが、嗅覚が低下したり、空間認知力が低下したり、段取りが組めなくなるなどがあるという。つまり光秀はそのために料理の悪臭が分からなかったし、籤を引こうとしても籤の場所の認識がおかしいので思った籤と別の籤を引いてしまって何度もやり直したり、笹をむいて食べるという段取りが分からなくなってそのままちまきを食べてしまうということになったのではとのこと。この病気は本人よりもむしろ回りの者の方が異常に気付くことが多く、信長も光秀の異常に気付いたのではとしている。となると、この時に信長の光秀を第一線からはずそうとしたかのような動きも説明はつく。信長にしたら「お前、最近疲れているみたいだから少し休め」ぐらいの気持ちだったのかもということになる。

 光秀が認知症とは非常に大胆な仮説であるが、光秀は実は信長よりもかなり年上だったという話もあるので、そうだとすれば全くあり得ない話ではないという気がしてくるのがポイント。ただこの番組は小早川秀秋の寝返りも、アル中の脳障害でわけが分からない状態で成されたという仮説を提案している番組なので、まあ話半分で聞いておくのが正解(笑)。なおレビー小体型認知症の初期症状として顕著なものは明瞭な寝言というのがあるとのこと。これが現れた人は、一度脳神経内科の診断を受けるべきとの話。

 

その6年前に光秀が患った危険な病

 次に番組は本能寺の変の6年前に光秀が患った病気に触れる。光秀が患った病気は風痢という病で、ウイルスによる伝染性の胃腸などの感染症であるという。状態が悪くなると脱水症状などで死に至ることもあるという。実際にこの時の光秀の状態はかなりひどく、記録によると「光秀は死んだ」と記しているものさえあるとか。なお光秀は4ヶ月寝込んで何とか回復しているが、この時に看病していた妻の熙子が感染したのかその後に亡くなっているという。

 問題はこのような感染症の後、ウイルスが残存していた場合にそれがレビー小体を発生する原因になるのだという。つまりはこの風痢がきっかけとなって光秀はレビー小体型認知症を発症したのではというのが番組の推測である。

 

犯罪心理学から見た光秀の行動

 さらに光秀の心境を犯罪心理学の観点からも見ている。光秀の犯行は恨みを溜めた上での衝動的殺人というパターンに符合するのだという。

 光秀は信長に対して過剰適応しすぎていたのではとのことである。過剰適応というのは、相手の意志を汲んでそれに応えるべく過剰に適応すること。光秀は特に信長に反抗しないように気を配っていたらしいし、信長の意を先回りして汲むところもあった。となると比叡山の撫で切りなども本意では抵抗を感じていても、信長の意志を汲んで積極的に行ったという解釈になる。ただこのタイプは相手の評価が判断の第一基準なので、それが揺らぐと一体どうすれば良いかが分からなくなって混乱するのだという。だから信長が自分をはずそうとしているのではないかと感じた時に、それで混乱し、そこから信長に対する恨みが段々と蓄積していったのではとのことである。

 また夜の行軍をしたのが良くなかったとしている。外からの刺激のない夜の暗闇の中では、段々と自分の思いにばかり意識が向いていき、その内に信長に対する怒りがついに爆発、中国方面と本能寺本面の分岐点である沓掛に到着したところで「敵は本能寺にあり!」になったのではとしている。

 ただこの番組はここで終わらずにさらに踏み込んだ大胆な仮説を掲げている。光秀軍の進軍のスピードと本能寺の変の発生時刻を考えると3時間ほどの空白があるのだとのこと。この時間で光秀は信長と対面して自身の怒りをぶちまけたのではというのである。それはこの手のタイプの殺人者は大抵は相手を単に殺すので亡く、必ず何か話すんだとか。しかしそれだといくらなんでも、そんな不満をぶちまけられた信長が危機感を抱かずにそのまま本能寺で討たれるのを待っていたことになる。それは無茶だと思ったが、実は私は以前から「信長は相手の心情を理解することが出来ないアスペルガーだったのでは」と考えているので、そうだとすると光秀に不満をぶちまけられた信長が、光秀の怒りがそこまで深刻なものであると理解できかなったという線もあり得る。となると光秀の謀反を知った時の信長の「是非に及ばず」という言葉が妙に筋が通ってしまうのだが・・・。

 

 かなり大胆かつ、そんな馬鹿なというような仮説を出してくるのはいかにもこの番組らしい。ただこうして聞いていると一応筋は通ってしまっているので、「もしかしたらそういうこともあり得るかも」という気がしてきてしまう(笑)。もっともレビー小体型認知症はともかくとして、高齢の光秀は自身の衰えを感じてきていて、お払い箱になってしまう前に最後のチャンスをという気持ちがあったのではないかという説は以前よりある。

 まあ本能寺の変の原因については、各人が言いたい放題というのが現状です。真相なんて永久に分からないかもしれません。光秀が当時の心境を記した日記でも出てくれば別ですが。「信長死ね、信長死ね」とビッシリと書いたノートが出てきたりして(笑)。

 なおレビー小体型認知症については以前にガッテンでも紹介していましたが、誰もいないはずの部屋に人が立っているのが見えるなどというかなりホラーな認知症です。薬で進行を抑えることが可能だとのことなので、特に寝言に心当たりのある方は受診してみても良いのではないでしょうか。

tv.ksagi.work

 

忙しい方のための今回の要点

・本能寺の変の数日前から光秀にはいつもと違う奇行がいくつか現れており、その症状から推測するとレビー小体型認知症の可能性が考えられる。
・レビー小体型認知症はレビー小体というタンパク質の固まりが脳内に蓄積することで発生する認知症で、嗅覚の低下、空間認知能力の低下、脳活動が低下して段取りが組めなくなるなどの症状が現れ、さらに幻覚などの症状が現れる。
・レビー小体型認知症は本人よりも周囲が異常に気付くことが多く、信長も光秀の異常に気付いていた可能性がある。
・また光秀はこの6年前にウイルス性の感染症である風痢を患っているが、このウイルスが残存していたら、それがレビー小体の発生を促すこともある。
・また犯罪心理学の観点では、光秀は信長に過剰適応しすぎたせいで爆発的な怒りを蓄え、衝動的に殺害に及んだという可能性もあるという。
・さらにこのタイプの犯罪者の特徴として、殺す前に恨み辛みを相手に話すことが多いことから、変の前に光秀が密かに信長と対面した可能性もあるのではとしている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ毎度のことながら「大胆すぎる仮説」を引っ張り出してきます。これが通説になることはまずないでしょうが、可能性の検討としてはなかなかに面白いです。

 

前回の偉人たちの健康診断

tv.ksagi.work