教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/7 テレ東系 ガイアの夜明け「2020年 "健康革命"の挑戦者たち」

 新年第1回目はナビゲータとナレーションを一新しての放送となる。

健康のための事業、アシックスの肉体年齢診断

 健康に関心を持つ人が増えているが、アシックスでは歩行力など各種の運動能力を測定して、肉体年齢を測定するという事業を行っている。あと何年健康に動き回れるかなどが分かるのだとか。受診者には状況に合わせたトレーニング法なども教えてくれるらしい。人生100年時代に向けてのビジネスを紹介。

 

アデランスが取り組む毛髪からの健康診断

 男性かつらのアデランスが取り組むのが毛髪による健康測定技術開発。毛髪は細胞の固まりであるので、それを分析したら食生活や健康状態などが分かるのだという。アデランスは15社で結成された毛髪診断コンソーシアムに参加している。陣頭指揮を取るのは理化学研究所の辻孝博士。再生医療の専門家だという。髪の毛を分析することはガンの生検に匹敵するのだという。

 アデランスが健康事業に乗り出したのは、抗がん剤治療によって毛髪をなくした人のための医療用ウイッグの提供などをしていたことから始まったようである。糖尿病やガンなどあらゆる病気の診断を目指していると言うが、技術開発の鍵となるのはどれだけの毛髪サンプルを集めることが出来るか。そのために国立循環器センターなどに依頼して、各病気の患者の毛髪サンプルを提供してもらうなどの活動を起こしている。毛髪から各種病気が早期診断できるようになれば、これは社会的インパクトも大きい。アデランスでは今年中の事業化を目指している。将来的には町の美容室で健康診断が出来るようになればと言っている。

 

尿一滴から早期ガンを診断できるシステムの事業化

 東芝では血液一滴で13種類のガンを超早期発見できるシステムを開発中である。一方、この番組が以前から追跡していて、この1月についに事業化されたのが、ベンチャー企業による尿1滴からガンを超早期発見できるというシステム。開発したのはHIROTSUバイオサイエンスという従業員50人ほどの会社。ガン患者の尿には特有の匂いがあるので、それを線虫が感知、線虫の尿への集まり具合でガンの可能性を判断するのだという。用いるのは土中などにいる体長1ミリほどの無害な線虫Cエレガンス。人の嗅覚受容体は400種類、犬で800種類なのに対し、この線虫は1200種類もの嗅覚受容体を持つのだという。胃がん、大腸ガン、乳がん、さらには早期発見の難しい膵臓ガンなどの全15種類のガンに反応するという。ステージ0や1などの超早期のガンでも85%の判別精度があるとのこと。

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これがCエレガンス

 社長の広津崇亮氏は東大大学院での研究時代に線虫が分子レベルで臭いを判別することを解明し、2016年にこのベンチャー企業を立ち上げたのだという。しかしこの技術で問題となっていたのは判別にかかる時間。人間の手作業によるカウントでは1日8時間で最大5検体が限界であり、これでは大量の健康診断などには対応できない。そこで愛媛の中小企業が自動化のための装置の開発・製造を担当することとなった。自動化機械の設計を行ったのはアルファ技研社長の藤原賢司氏。かつて電器メーカーのエンジニアをしていたという人物である。そして企業を取り持ったのが大和酸素工業社長の一色貴志氏。彼は広津氏の研究をテレビで見てこれはスゴイ技術だと注目、是非何かの協力をしたいと面識のない広津氏にいきなりメールを送ったのだという。そして愛媛での研究所の立ち上げにも立ち会い、測定の自動化についてオール愛媛の中小企業で取り組むことを提案したのだという。

 こうして開発された機械の試運転。この装置では線虫の入ったシャーレを線虫が動きやすい環境でしばし保ち、その後に画像処理で線虫の数を数える。カウントに要する時間は1秒。1日8時間稼働で最大100検体の測定が可能となった。N-NOSEと名付けられたこのシステムはこの1月から実用化された15種類のガンが判定できて費用は9800円だという。ただし現時点ではガンの種類は判別できないため、これは今後の研究課題である。

 広津氏の元には保険会社から加入者に対するサービスとして提供したいなどのオファーも来ており、初年度は25万検体を予定している。またガンの種類の判別も2年後を目処に実用化したいとしている。

 

 線虫でガンを診断するというのは、以前に小耳に挟んだ記憶があるのですが、こんなに早く事業化されたとは驚きです。広津氏がベンチャーを立ち上げた時に、福岡が支援したと言っていたが、やはりそういう有望なベンチャーに対する支援というのは新しい事業を立ち上げるのには重要なようです。尿一滴でガンがかなりの確率で早期診断できるとなったら、是非とも健康診断にも取り入れてもらいたいところ。ところで最初にチョロッと紹介された東芝のシステムはこれにどう対抗するか。まあこちらは的中率99%と謳っているので、診断精度では勝っているようですが。それと自動化機械を作るとなったらそのノウハウは会社にあるでしょう。

 ところで前回も頑張っている中小企業でしたが、今回の内容もそうです。実際のところ産業や技術を根本で支えているのはこういうハイテク中小企業です。だからこそ下請け企業に負担を押し付けて切り捨てるという形で日産を「再生」させたカルロス・ゴーンは偽物だと私は判断したのですが、最近になってそのことが証明されたようです。

 

忙しい方のための今回の要点

・人生100年時代になって、自身の健康に関心を持つ人が増えてきたのに合わせ、各種の健康診断技術が開発されている。
・アシックスでは運動能力の測定から、健康年齢を診断するサービスを行っているし、アデランスでは毛髪から健康状態を判別する研究を進めている。
・一方、ベンチャー企業のHIROTSUバイオサイエンスは、尿一滴から線虫を使って15種類のガンを早期診断できるシステムを開発して実用化した。
・実用化の鍵となった自動化の機械開発には愛媛の中小企業が参加している。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・今年からナビゲータは松下奈緒氏とナレーションは眞島秀和に変更になったようですが、今回の番組を見ていると「ナビゲーターって必要なの?」という疑問が出ますね。まあ第一回だからかも知れませんが、松下氏が登場したのはアデランスのところだけで、それも無理矢理に押し込んだ感が強い(番組的に必然性がない)。この番組のナビゲータの大事な仕事(笑)だった寸劇もありませんでしたし。

 

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