教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/23 BSプレミアム ザ・プロファイラー「エヴァ・ブラウン」

 エヴァ・ブラウンと言っても「誰?」というのが本音だが、あの独裁者ヒトラーの愛人で、最後は総統の地下要塞でヒトラーと運命を共にしたという。

17歳の時にヒトラーと出会う

 エヴァがヒトラーと出会ったのは、ミュンヘンの写真館で働いていた17歳の時だという。そこに店主に連れられて現れたのが40歳のヒトラーだった。政治に全く興味を持っていなかった彼女はヒトラーのことを全く知らなかったらしい。ヒトラーの方は彼女のことが気に入ったようで、それから店に現れる時には彼女に手土産を持ってくるようになったという。

 彼女は教師の父親に厳格に育てられたが、彼女自身は成績は良いがいたずら好きの問題児だったらしい。16歳になると修道会の女学院に入学させられたが、この頃のエヴァは恋愛小説や映画に夢中で、ハリウッド女優になりたいという夢を抱いていた。そして17歳で近所の写真館で働き出したのだという。

 エヴァが父にヒトラーのことを尋ねたところ、「あいつは自分が万能だと思い上がっている青二才だ」と否定したが、エヴァは父への反発からヒトラーに近づくことになったのだという。

 

ヒトラーに対して積極的に接近を図る

 しかしこの頃のヒトラーには姪のゲリという特別な女性がいた。2人は2年同居し、叔父と姪という関係を超えた深い関係だったらしい。しかしこのゲリが自殺、ヒトラーは憔悴しきるが、ここでエヴァは髪型や風貌などをゲリそっくりに変えたのだという。そしてエヴァはヒトラーと深い関係になっていく。

 こうしてヒトラーに接近していくエヴァに対して、番組ゲストはかなり計算尽くで近づいているのではという意見と、純粋に恋に恋する少女だったのではという意見の両方が出ていたが、確かにこれが分かりにくいところ。猛烈に計算高い面がある一方で、恋に憧れているような部分も見える。まあどんな女性もそういう複雑さは持っているものなんだろうが。ただ彼女はハリウッド女優としての成功を夢見ていたというように、どことなく演技型人格の片鱗がチラチラ見えている気がする。

 

2度の自殺未遂を経て、ヒトラーの恋人に

 エヴァがヒトラーと出会ってから3年、ナチは第1党となりヒトラーは政治のために全国を飛び回っていた。しかしエヴァの存在は秘密にされていた。ヒトラーは独身であることが女性の人気を得るのに有利と考えていたからだという。そんな中でエヴァが自殺未遂を起こす。これに驚いたヒトラーはエヴァに気を使うようになる。彼女の部屋に電話を引いてすぐに連絡を取れるようにし、何かがあるとプレゼントを贈ったりするようになる。しかし首相になり、ついには総統になったヒトラーは多忙であり、彼自身がエヴァの前に現れることはほとんどなかった。また独裁権力者となったヒトラーの回りには常に多数の女性の影がある状態になり、このことはエヴァの嫉妬と焦りをかき立てる。そしてエヴァはついに2回目の自殺未遂をする。睡眠薬を大量に飲んだのである。しかしこれは姉がすぐに発見したので命を取り止めた。なおエヴァはヒトラーとのことを日記に記していたが、エヴァの自殺の理由が親に知れることを恐れた姉が、その部分の日記のページを破いたとのこと。そしてエヴァの日記自身はその後になくなったが、彼女が破いた部分だけが後に残っているらしい。

 2度目の自殺未遂の3ヶ月後、ヒトラーはそれまで秘密の存在としていたエヴァに初めて公式行事への参加を許した。それがニュルンベルクの党大会だったらしいが、ヒトラーの支持者が10万人も集まって熱狂する姿をエヴァは目にしている。この時にエヴァは「地球で最も偉大なヒトの恋人の私」と語ったそうだ。その一方でヒトラーはこの大会でユダヤ人差別の法を定めている。

 どうも自殺未遂で相手をコントロールしようとしているうざい女というイメージと、その逆の命まで懸けて愛しているという純粋さの両方が垣間見えて難しい。またやはり演技的人格も垣間見える。「地球で最も偉大なヒトの恋人の私」なんてのは自己陶酔の極致である。それにファザコンを加えた辺りが彼女の人格の根本だろうか。

 

山荘の女主人とその最期

 ヒトラーはミュンヘン近郊のオーバーザルツベルクの山荘にエヴァを住まわせる。エヴァ24歳。ヒトラーはここでエヴァと暮らすことがあったという。くつろいだらしい様子を示すビデオも残っている。

 3年後、戦争が始まるとこの山荘は総統大本営となり、ヒトラーは日夜作戦会議をここで開いていたが、その一方でエヴァは戦争とは全く無縁の姿をビデオに残している。ただこの頃になると、彼女は山荘の女主人として振る舞うようになり、家族を山荘に招くようになっているようになったという。ただ家族の中で姉はヒトラーのユダヤ人迫害を公然と避難しており、エヴァは「あなたが強制収容所送りになっても私は助けない」と言ったという。

 しかし当初は破竹の快進撃を続けていたナチスも、段々と追い詰められていくことになる。特にノルマンディーの上陸作戦後は首都のベルリンにまで戦火が及ぶようになっていた。さらにはヒトラーの暗殺未遂事件まで発生する。絶望的な戦況の中でヒトラーは総統官邸の地下壕で戦闘の指揮をとっていた。そこにエヴァが現れる。そして二人はここで結婚式を上げると、その後に自殺したという。

 

 なかなか難しい女性である。ただどうも最後までヒトラーの栄光と自分自身の栄光を重ねて陶酔していた部分があるのは明らか。そしてその夢から覚めないように死を選んだということだろう。典型的な演技型人格が見られる。これに対してヒトラーは相手に対する束縛が非常に強いタイプだったようだ(ゲリはこれが原因で自殺したとされている)。要は共にパーソナリティ障害を抱えているタイプで、それが共鳴したようなところが感じられる。また父親に厳しく育てられた彼女は、反発しつつも逆に父親を求めるファザコン的な要素も見られ、それが随分と年上であるヒトラーに引かれた要因の一つか。彼女の父は最初はヒトラーを嫌っていたが、彼女が山荘に住む頃にはナチス党員になっていたとのことだから、彼女にすると「父をも手に入れた」という満足感があったように感じられる。

 まあ何にせよ男と女のことなんかは難しいところで、独身の私が云々言ったところで説得力も薄い。ただこれで見る限り、ヒトラーの政策に対してエヴァはほとんど影響を与えていないというか、全く無縁だったことは感じられる。

 

忙しい方のための今回の要点

・エヴァ・ブラウンは17歳で写真館に勤めていた時にヒトラーと出会い、段々と彼に引かれていくことになる。
・しかし独身であることが女性の人気を得る上で有利と考えていたヒトラーは、エヴァの存在を秘密にする。
・ヒトラーとの不安定な関係に悩む彼女は2度の自殺未遂を起こしている。
・ヒトラーは彼女を山荘に住まわせ、そこで親密な生活を送る。また彼女も山荘の主人として振る舞うようになっていく。
・しかし戦況が悪化していく中、彼女は総統の地下壕を訪れて結婚式を上げた後、二人は自殺する。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・彼女の存在については政治的評価はほとんどないでしょうね。彼女は例えばヒトラーのユダヤ人迫害などについては止めも唆しもしていないようです。彼女にとってはヒトラーの政策なんてどうでも良く、「絶対権力者であるヒトラーの恋人である私」が一番重要だったように見えます。そういう意味では実は視線は常に自分にだけ向かっていたんではないでしょうか。ヒトラー本人に対してどこまで惹かれていたかには疑問の余地はあります。

 

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