教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/5 NHK 歴史秘話ヒストリア「サムライとフランス軍人 幕末ラストミッション」

 今回の主人公は映画「ラストサムライ」のモデルにもなったというフランス軍事顧問団について。

 

 

幕府軍強化のために招かれた軍事顧問団

 彼らが日本に派遣されたのは、江戸幕府に依頼されて幕府軍を近代軍に訓練するためであった。訓練を受けるのは幕府がこの時のために編成した伝習隊だった。しかし彼らが目にした兵士たちは、服装は和服をベースに改造したもので、腰には刀を下げ、頭には彼らの目には珍妙な傘を被っていた。まず最初に彼らがやったことは服装を洋装に変えさせることだった。

 そして基本の団体行動から始まる。しかし武士にとっては行進でさえ大変だったらしい。そこを訓練を重ね、伝習隊を近代軍へと変えていった

 さらに軍隊には士官の養成が重要であった。士官の一人の新井郁之助はフランス語を覚えることから大変だったようである。そして彼らは最新式のシャスポー銃を贈られる。従来の銃が弾の装填に30秒はかかったのが、シャスポー銃は元込め式なので7秒で弾を装填することができた

 

 

初の戦いで戦果を挙げるが、戊辰戦争に巻き込まれることに

 そんな彼らの真価を発揮する舞台がやって来た。江戸の薩摩屋敷を攻撃することになったのである。しかし薩摩藩邸は密集地にあるために下手をすると他の屋敷を巻き込みかねない。そこで砲撃で門を破壊する戦術が採用される。正確な砲撃が必要な作戦だったが、これを伝習隊が担当して見事に作戦は成功する。

 しかしその後の彼らは戊辰戦争の動乱に巻き込まれることになる。旧幕府軍と新政府軍が衝突した鳥羽伏見の戦いでは、兵力的に圧倒的に有利とみられていた旧幕府軍は指揮官のミスもあって新政府軍に敗北、大阪城に駆け付けた軍事顧問団は慶喜が江戸に逃亡したと聞いて愕然とする

 江戸に進軍してくる新政府軍に対し、顧問団は陸軍と海軍で迎え撃ち、新政府軍を挟み撃ちにする策を立てる。顧問団が鍛えた伝習隊が迎え撃ち、榎本武明率いる幕府艦隊を動員すれば十分に勝算のある作戦であった。顧問団はこの策を陸軍総裁の勝海舟に提案するが、あっさりと却下される。既に慶喜の意志は新政府に対して恭順と決まっており、勝もその意向を受けて抗戦の意志はなかったのである。この決定に顧問団は納得いかなかったがどうにもならなかった。

 

 

本国の中立の命に反して幕府軍と行動を共にするブリュネ

 さらに彼らには本国から中立を保つようにとの命令がくる。フランス本国は内乱状態になった日本において、幕府と新政府を両天秤にかけていたのである。そして江戸城は明け渡される。

 しかし兵員たちは納得しなかった。伝習隊は戦いの場を求めて北に向かう。また榎本の元に新井郁之助がいた。彼は顧問団に合流するように依頼する。顧問団は選択を迫られる。副団長ブリュネは彼らと共に戦うことを選択する。自分たちの今まで行動を無駄にしたくない意志がプリュネにはあったという。団長のシャノワンヌはプリュネ離脱の報をすぐには本国に伝えておらず、時間稼ぎに協力したのではと見られている。

 

 

甲鉄奪取作戦を立案するが策は失敗する

 旧幕府軍は五稜郭に立てこもる。この五稜郭でブリュネは要塞の改造や北部を守るための四稜郭の建設などを行ったという。しかしブリュネには懸念があった。幕府艦隊は嵐などで4隻の艦艇を失っていたうえに、幕府がアメリカから購入した新型艦船甲鉄を含む新政府艦隊が北上してくるとの報が伝わっていたのである。

 これに対してブリュネはアボルダージュ作戦を提案する。これは2隻の艦船で甲鉄を挟み込み、移乗戦闘で甲鉄を奪取するという戦法だった。しかし出撃した3席の艦船の内2隻が離脱し、作戦に参加できたのは1隻のみ。荒井はその一隻で作戦を実行するが失敗する。この策が失敗した時点で最早打つ手はなくなった。ブリュネはここで離脱することになる。そして新政府軍の総攻撃の前に五稜郭は陥落する。

 戦後、荒井は開拓使仮学校(北海道農学校の前身)に勤め、英和辞典の編纂に協力したという。一方本国に帰還したブリュネは日本をもう一度訪問したいと願いながらそれが叶わぬまま生涯を終えた。ブリュネは日本で描いた多くのスケッチを残したという。生涯日本に対する愛着を持っていたのだという。

 

 

 幕末の動乱期に日本人たちと心を通わせたフランス人の話。サムライは日本人だけでなく、彼らもだったんでしょう。ところで新政府軍を海軍を使って挟み撃ちにする作戦とか、宮古で甲鉄を奪取する作戦については別の回では別の者が提案したように描いていた気が・・・(宮古沖海戦は土方が関与した作戦という面がかなり強調されてたし)。やはり近代軍における作戦立案については彼らはプロだったということでしょう。

 今まで歴史的にはあまり注目されていなかった人たちに脚光を当てたという点では面白い。ただ番組の内容的にあまり情報が少なかったのか、団長を演じるミュージシャンの○○がというくだりが長すぎていささか怠かった。最近は再現ドラマにイケメンを起用したり、この番組も人気取りのためにそういう方向に向かったか?

 

 

忙しい方のための今回の要点

・幕府軍を近代軍に鍛えなおすためにフランスから送り込まれた軍事顧問団は、近代的教練に戸惑う武士たちに基礎からの鍛錬を行い、近代式兵隊へと鍛え上げる。
・彼らに鍛えられた伝習隊は薩摩藩邸攻撃において戦果を挙げる。
・しかし戊辰戦争の動乱に巻き込まれ、慶喜が新政府に恭順の姿勢を示したせいで彼らは存在意義を失う。
・本国から中立を保つようにとの命が届くが、副団長のブリュネは幕府軍の残党と行動を共にすることを決意する。
・ブリュネは五稜郭の改良や北方防御のための四稜郭の建設などに従事、さらに劣勢となった海軍を立て直すために新政府軍の甲鉄を奪取する作戦を立案するが失敗。これで万策が尽きたブリュネは離脱する。
・戦後、本国に戻ったブリュネは日本で知り合った人々との再会を願いながら果たせずに生涯を終えた。

忙しくない方のためのどうでもよい点

・フランス本国の思惑とかいろいろあったようですが、結局最後は人間同士の結びつきだったんでしょうね。それにしても本国の命に反した形のブリュネは後で処罰の対象にならなかったんでしょうか?

 

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