教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/28 テレ東系 ガイアの夜明け「"余った服"の行方を追跡!」

日本では半数の衣料が新品のまま捨てられている

 前回食品ロスの問題を扱っていたが、今回は衣服ロス。あるメーカーが業界のタブーに反して、在庫の新品の衣料品をゴミ処分場で処分する光景を見せてくれた。ブランドイメージが毀損するのを嫌がるブランドはメーカーに廃棄を確認することを義務づけられているのだという。このような服はブランドからキャンセルなどで在庫として抱え込んでしまったものである(それなら責任はブランド側にある気がするのだが・・・)。捨てられた服は刻まれて最後は焼却される。この悲しい現実を消費者に知ってもらいたくてあえてこの光景を公開したのだとか。日本では年間約29億着の服が供給されるが、その半数の15億着が売れ残るという。これらの多くは処分されている。これが衣服ロスである。

 

在庫衣料品を激安販売する会社

 この衣服ロスの問題に正面から取り組む企業がいる。新品の衣料が100円といった破格の値段で販売して人気を集めているのが、マルイにも出店しているカラーズ。ここで販売しているのはメーカーが抱えた在庫商品だという。この店を経営するショーイチの社長・山本昌一氏は、衣服ロスの問題を解決したくてこのビジネスを始めたのだという。目標は日本の、いや世界のすべての衣服ロスをなくすことだという。

 彼はメーカーの在庫品をメーカーの望む条件を守ることを約束して仕入れている。その条件とは例えばブランドが分からないようにタグを切断するなどである。彼は直接にメーカーに出向いて在庫品を価格交渉するのであるが、その価格交渉はかなり厳しい。ショーイチでは仕入れた商品が売れなければ最終的には価格を100円にまで下げるために、いかに安く仕入れるかがビジネスとしての勝負となるのである。その代わりに仕入れは一括で全部まとめて現金払いで仕入れている。メーカー側はキャンセルなどによって抱えた在庫をいつまでも置いておくわけにもいかないし、運転資金としての現金は貴重である。そこでお互いに妥協点が発生する。こうして仕入れた商品をショーイチでは店舗やネットで販売する。

 今年の冬は異常事態が発生していた。台風や暖冬の影響で百貨店の売り上げが激減し、大量の返品が生じたのだという。なお百貨店売り上げ減少の原因には消費税増税が大きいはずだが、経団連広報番組のこの番組はそこには絶対に触れない(触れられない)。百貨店売り上げ減少を伝える紙面が映った時に、その新聞の見出しに「街角景気、増税・台風で悪化」とあるのが一瞬映ったのが精一杯というところで、これは「お察しください」という意味だろう。なおもし「増税の影響で景気が低迷」なんて流したら、社長が官邸に呼びつけられて安倍に「放送免許を停止するぞ!」とヒステリックに脅迫されるというのが今のテレビ界の現状らしい。

 

山本氏が世界進出を果たす

 ショーイチでは現在取引業者は2300社に増え、年商は16億円と成長したという。しかし「世界の在庫屋」になりたいといっている山本氏は世界戦略としてバングラディッシュに進出を図る。世界中の衣服の製造を請け負っているバングラディッシュでもやはり衣服ロスは問題になっていたのだという。そこで山本氏はバングラディッシュに乗り込んだのだが、価格面(輸送料がかかるのでさらに安く仕入れる必要がある)などの問題や、在庫を処分したことを発注先に知られたくないなどなかなか条件が折り合わない。何社かを訪ねたが苦戦していた山本氏の元を現地の在庫衣料のブローカーが訪ねてくる。珍しく日本のバイヤーが来ていると聞いて訪ねてきたのである。早速商談が始まる。白熱する価格交渉の結果商談成立。山本氏は仕入れた衣料品を船便で日本に輸送することにする。こうして輸入した商品は到着次第ネットで販売、好評を得ている。

 

大手アパレルも衣服ロス削減に取り組み始めた

 また大手アパレルのワールドも衣服ロスの問題に取り組んでいた。スーツは様々な体型の人に合わせるために大量の在庫を抱える必要がある。そこで受注生産のアンビルドタケオを立ち上げた。受注生産することで在庫を抱えないというビジネスモデルである。

 アパレル業界では定価で売れると推測した量の2倍を生産するというのが慣習だという。これは店頭の商品が切れないためだという。しかしこの慣習が多くの衣服ロスを産み出すことになっている。そこでワールドでは在庫品を値引きしてして販売するアンドブリッジという店を立ち上げた。人気のブランドの新品が50%引きから90%で販売されている。これは在庫品だけを売り切るための店だという。今後店舗を増やしていきたいという。ワールドでは賛同する他社の商品も増やしていきたいという。

 

そして山本氏の新たな取り組み

 一方バングラディッシュの山本氏は新たな取り組みを開始していた。それは在庫の服ではなくて、在庫の生地に目をつけたもの。メーカーが抱えた在庫のデニムを、工場の閑散期などに安くジーンズに仕立ててもらって、日本でオリジナル商品として販売するというものである。メーカーにすると在庫の生地を処分できる上に、工場の閑散期に仕事ができるというメリットがある。さらに攻めに出た山本氏は現地の日本人と協力して、買取のための現地法人も立ち上げている。

 

 食品ロスに次いで衣服ロスとは着眼点がなかなか良いです。確かにこの問題は大きな問題なのだが、今まで業界のタブーやなんやで触れられなかった領域。実際にこの問題を突きつめれば、ブランドのぼったくり価格設定の問題などにも行き着いてしまうから難しいんです。ワールドなんかもブランド側の会社ですから、果たしてどこまで本気でやれるかは注目したいところ。

 

忙しい方のための今回の要点

・日本では年間29億着売られる衣服の実に半分が売れ残り、それらの多くは廃棄処分されている。
・この衣服ロス問題に取り組んでいるのがショーイチの社長・山本昌一氏。彼はメーカーが抱えた在庫品などを安く仕入れて激安販売をしている。
・山本氏は日本の在庫品だけでなく、衣料品輸出量世界二位のバングラディシュにも注目して世界進出を図っている。目標は「世界の在庫屋」になることだとか。
・一方、大手アパレルのワールドも衣服ロスの問題に取り組んでおり、在庫を抱えないためにオーダーメイドスーツを手がける会社や、在庫品販売専門のショップなどを立ち上げている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・以前からブランド衣料の話はいろいろと聞いていましたが、こうしてあからさまに舞台裏を見ると、なんて不健全な業界なんだという気がしますね。そもそも以前からブランドなどの価格設定のいい加減さには呆れてましたが・・・。
・資源の有効活用という点では衣服ロスの問題も無視できません。そもそも余るほどに作る必要があるのかという問題もありますが、まだ着られる服を捨てさせるために業界が意図的に仕掛けている流行なんかもどうかと思いますね。ただそこのところに手をつけたらこの業界の根本構造を変革する必要があるので、さすがにワールドもそれは絶対出来ないでしょうが。
・そういう意味では衣服ロスはメーカーで廃棄される衣服の問題もありますが、現実には家庭で廃棄される服の問題が大きいように思います。結局はこれも食品ロスと同じなんだよな・・・。

 

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