教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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2/24 BS-TBS にっぽん!歴史鑑定「鎌倉殿と北条義時」

 今回の主人公は北条政子の弟で鎌倉幕府執権になった北条義時。来年度の大河ドラマの主人公として注目されている(らしいが、三谷幸喜が脚本という時点でまず期待できないと考えている)とのこと。北条義時は権力獲得のために様々な陰謀を繰り広げた腹黒男などと見られることがあるが、そうではないというのがこの番組の解釈。

 

頼朝の側近として重用された義時

 北条義時は北条時政の次男として生まれる。べつに嫡男の宗時がいたためにあくまで彼は分家扱いであった。挙兵した頼朝と共に参戦する義時だが、平家方の大庭景親の軍勢に惨敗、頼朝軍は散り散りになってしまう。義時は時政と共に何とか逃げ延びるが、兄の宗時は討ち死にしてしまう。これで義時の人生が切り拓かれることになる。

 頼朝が鎌倉で勢力を固めていた時のエピソードとして、政子の妊娠中に頼朝が浮気したことに激怒した時宗が伊豆に帰ってしまう。うろたえた頼朝は義時を探させたという。頼朝は義時も時宗と共に鎌倉を出てしまったのではないかと心配したらしい。しかしそんなことは全く知らない義時はいつも通り鎌倉の自分の家にいたという。頼朝に呼び出された義時は忠義のものだと頼朝に感謝されて、恩賞まで賜ったそうだが、当の義時は事態が分からずに「はぁ?」という状態だったとか。この時の義時は何もせずに恩賞をもらったわけだが、中世内乱研究会顧問の細川重男氏に言わせると、義時というのはいつも自分では何もしないのに回りで勝手に騒動が起こって巻き込まれてしまうタイプだとか。この時の義時の本音は「あのー、もう帰ってよろしいでしょうか・・・」というところだったのではとのこと。とにかく義時は頼朝に気に入られていたらしい。義時は頼朝の側近として取り立てられていたという。

 

頼朝の死後、御家人同士の権力争いが発生する

 そして頼朝が征夷大将軍になると、北条氏もその中枢に居並ぶことになる。しかし間もなく頼朝が急死する。息子の頼家が後を継ぐが、18才と若かったため有力御家人13人の合議制が取られることになる。義時は頼朝の側近の筆頭としてその13人の中に入っている

 しかしこの合議制も長くは続かない。まずは梶原景時が他の御家人の信頼をなくして失脚、三浦義澄と安達盛長が相次いで病死と1年で3人が欠けてしまう。そして御家人同士での権力闘争が起こることになる。頼家は関わりの強かった比企氏と接近していき、比企氏が権力を握ることになる。そんな時に頼家が病に倒れる。頼家と比企氏の娘の間に男子がいたので、それが次期将軍となれば比企氏がさらに勢力を強めることになることを恐れた北条時政が陰謀を巡らす。まず比企能員を自分の館に誘い出して暗殺、さらに幕府軍を差し向けて比企氏の館を襲撃して比企氏を滅亡させる。この際に比企氏の娘と頼家の間に生まれた一幡をも殺害している。この時の幕府側の大将が義時だったということで、彼もこの陰謀に荷担していたのではと考えられるのだが、先の細川氏によると彼は単に将として参加したというだけとの読み。

 時政はさらに頼家を将軍位から引きずり下ろし修善寺に追放してしまう。そして頼家の弟の実朝を将軍位につけ、自らは執権となる。しかもその後頼家は時宗が送った刺客に暗殺される

 

さらに暴走する時政に対し、義時がついに立つ

 時政はさらに権力を固めるために幕府に対する忠誠心の高い畠山重忠の排除を画策する。そして彼に謀反の疑いをかけて攻め滅ぼすことにする。しかしこれに異を唱えたのが義時だったという。畠山重忠と義理の兄弟の関係にあり、彼のことをよく知る義時は、重忠が謀反など起こすはずがないと主張したのである。しかし時政はそれでも強引に義時に重忠を討たせる。やむなく重忠を討ち取った義時であるが、重忠の首を見ると涙にくれ、鎌倉に戻ると父の時政を激しく糾弾したという。しかし時政の画策はそれで留まらず、ついには後妻である牧の方と共に、実朝を暗殺して娘婿である平賀朝雅を新たな将軍にしようと画策する。この陰謀に気付いた政子から実朝を助けるように頼まれた義時は、実朝を屋敷にかくまうと共に、時政と牧の方を鎌倉から追放、さらに平賀朝雅を殺害させて陰謀を未然に防ぐ。こうして義時は鎌倉幕府の二代執権となる。

 実朝を支えていた義時だが、思いもかけない事件が発生する。鶴岡八幡宮で実朝が頼家の息子の公暁に暗殺されてしまうのである。この暗殺について義時の陰謀ではという説もあるのだが、細川氏によると「実朝は義時にとっての最大の権力基盤であり、それを義時が暗殺してしまうということはあり得ない」とする。「公暁が勝手に暴走して実朝を暗殺しちゃった可能性が大きいんじゃないかしら」とのこと(この先生、バリバリの関西弁なんです)

 

承久の乱が発生するが、これに勝利し全国を掌握

 実朝を失った幕府は、四代将軍に後鳥羽上皇に皇子に就任してもらおうと願い出る。実は1年前に北条政子が後鳥羽上皇の乳母と「もし源氏の血が途絶えた時には後鳥羽上皇の皇子を将軍する」という密約を交わしていたので、ことはスムーズに進むと思われた。しかしここで後鳥羽上皇が皇子を送るのを先送りにし、幕府と朝廷の間に不穏な空気が漂うことになる。さらに後鳥羽上皇が地頭の罷免を要求。これは鎌倉幕府の権限に踏み込む内容であり、義時はこれを拒絶する(ここでこの要求を呑んだら、間違いなく御家人衆が動揺する)。そして1000人の兵を送って回答を伝えると共に皇子を出せないのなら別の子をと要求(要求というよりも脅迫だ)。後鳥羽上皇は摂関家ならと九条家から将軍を送ることにする。これで一件落着と義時は思っていたのだが、何と後鳥羽上皇が兵を挙げ義時追討の宣旨を出す。名指しで追討令を出されてしまって義時は動揺しまくったようだが、それを助けたのが姉の政子。彼女は北条の屋敷に集まってきた御家人衆に頼朝の恩を訴えて味方につくように呼びかける。これで鎌倉の御家人衆は団結、後鳥羽上皇の軍を撃破する。後鳥羽上皇は隠岐に流され、反乱に荷担した武士や公家は処刑され、これによって義時は東国のみならず全国を支配することになる。

 

 というわけで義時は最終的に日本を支配することになったわけですが、決して腹黒い陰謀家ではなかったというのが今回の番組の肝。細川氏が関西弁で「義時がそんなことをやってるわけがない」とバシバシ話すのはかなりインパクトがあったが、ただ彼の話を聞いていると義時があまりにお馬鹿に見える。実際は陰謀のかなりの部分は義時も関与していたのではというのが私の考え。そもそも実朝暗殺の一年前に、源氏の血が絶えた時の密約まで交わしているというのは極めて胡散臭い。もっともそれだと政子も共犯ということになるが、それもあり得ないことではない気もする。

 もっとも若い頃は確かにそんな陰謀家ではなかったのかもしれないが、権力の頂点に立って行くにつれ「カエルの子はカエル」で時政と同様の陰謀家になってしまった可能性はある。権力というのは握ってしまうと今度はそれを失わないための工作が必要になるものである。ましてやこの時代、権力を失うというのは単なる失脚で終わらず命も失うことにつながるので。義時はその頃になって内心「親父、今頃になってあんたの考えが分かってきたぜ」と思っていたかも。

 

忙しい方のための今回の要点

・義時は頼朝に側近として重用され、頼朝の死後に頼家を支える13人の御家人による合議制が敷かれた時もその一員となる。
・しかしこの合議制はすぐに崩壊して御家人同士の権力争いが繰り広げられる。
・頼家は重臣の比企氏に近かったため、比企氏の権力が強くなることを警戒した北条時政が比企能員を暗殺すると共に、幕府軍を比企氏の館に差し向けて比企氏を滅亡させる。
・さらに時政は頼家を将軍位から引き下ろして、弟の実朝を将軍につけ自らは執権となる。さらに頼家の暗殺も行っている。
・時政は権力を強化するために畠山重忠に謀反の容疑をかけて義時に討たせる。重忠に謀反の意志などあるはずがないと考える義時はこれに反発することになる。
・その後、時政がついに実朝暗殺を謀るにいたり義時は実朝をかくまうと共に父の時政を鎌倉から追放、自らが二代目の執権となる。
・しかし実朝が公暁に暗殺されてしまい、次の将軍を後鳥羽上皇の皇子から迎えようとするが、後鳥羽上皇がこれを渋ったことから朝廷との関係は悪化、ついには後鳥羽上皇が義時追討の宣旨を出して承久の乱が起こる。
・義時は動揺するが、政子が御家人達に頼朝の恩を訴えて御家人衆は結束、後鳥羽上皇軍を打ち破る。後鳥羽上皇は隠岐に流され、義時は全国を支配することになる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・最初に私が「三谷幸喜脚本では期待できない」と言ったのは真田丸の失敗があるからです(NHK的にはあれは成功としているのでしょうが、真田幸村という切り札を切りながらあの程度のドラマしか作れなかったのは失敗です)。三谷幸喜の限界は「普通の人間の普通の感情を描けない」ということに尽きると私は見ています。彼は「変わった連中の滑稽なドタバタ騒ぎ」を描くのは非常に上手いですが、当たり前のごく普通の人間になるとリアリティを持って描くことが全く出来ません。多分彼自身が人間をよく知らないか人間嫌いなんだろうと見ています。だから大河ドラマの脚本には一番向いていないと考える。

 

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