教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/25 NHK 歴史探偵「黒船来航」

パイロット番組の2回目

 恐らくヒストリアの次の番組の形態を模索しているパイロット番組。昨年に放送が1回ありましたが、今回が2回目の模様。しかし探偵長が不要の上にうざいのは相変わらず。

 今回のテーマは黒船来航。今まで日本は黒船の軍事力での脅しの前にアタフタと何もできずに開国を押し切られたと考えられていた(多分に後の明治新政府によるネガティブキャンペーンのせいでしょう)が、幕府も結構したたかに対抗策を考えていたという話が近年さかんに言われるようになったが、その一環。

 まずは幕府の対黒船用の防御陣地であった台場を近田雄一アナが訪れるが、そこで判明する衝撃の重要事実は近田アナも渡邊アナも共にフジテレビを受けて落ちていたという話。NHKはフジテレビの2軍だったのか・・・道理で最近のNHKの番組がドンドンミーハー化しているわけだ。

 

幕府が建造した台場の戦闘力

 それはともかくとして、現存している台場は今は陸続きになっている第3台場と、現在立ち入り禁止の第6台場の2つだが、そもそもは6つ作られていた。ここには大砲が据えられて黒船を迎え撃つようになっていた。第3台場に上陸してみると、中央は一段低くなっており、回りが高さ10mの土塁になっており、ここには当時でも最大級だった80ポンドカノン砲が設置されていた。また大砲の間には土塁が築かれ、もし攻撃を受けて損傷しても、それが隣の砲に及ばないようにされていたという。

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第3台場内部

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砲台の跡

 なお一番東にある第3台場は四角形だが、後の台場は5角形になっている。また全体的に配置が西に偏っているように思われるが、これは当時の江戸湾で水深の深い可航域は江戸湾の西側だけであり、ここをクロスファイアポイントにできるように配置されていたのだという。この台場については当時のイギリス海軍が台場への攻撃は途方もない代償を払うことになり極めて困難と分析しているとのこと。この台場はペリー来航後に突貫工事で建設されている。地盤を固めるために長さ6mの杭を何千本も打ち込まれたという大工事だったらしい。

 

この台場で勝てたかのシミュレーション

 ではこの台場で黒船と戦った場合勝てたのか。それを軍事シミュレーションの第一人者や海上自衛官、軍事史の専門家などが集まってAIを使ったシミュレーションに臨んでいる(今回の番組の一番の売りはこれのようだ)。

 台場の手前4キロほどの位置に水深5mの浅瀬が広がっており、黒船はこれ以上は接近できず、黒船の大砲の有効射程は1500mなのでここから台場を攻撃するのは不可能。江戸湾西の航路を使用すれば侵入可能だが、黒船の大砲は舷側についているために前方には撃ちにくく、台場を攻撃するのは困難だという。そこでアメリカが台場を攻撃するとした場合に取り得る戦術はボートによる攻撃。またこのボートには有効射程1500mで炸裂弾を発射できるボート・ホウイッツル砲が据えられていた。またお台場の東側には死角があるので、ここからボートで攻撃することが考えられるという。

 これらのデータを元にAIでシミュレーションした結果は、アメリカ軍の熾烈な攻撃を台場は退けて1時間で米軍は撤退に追い込まれるというもの。

 

日本の想定外の事態が発生

 この結果から見ると「日本は開国しなくても勝てたじゃん!」ということになるが、実際には計算外のことが起こったという。それはペリー来航後にロシアが日本を訪れたことなどから、ペリーが2回目の来航を早めたこと。そのためにペリー来航時にはまだ3つの台場しかできていなかったとのこと。ではこの3つの台場で戦った場合だが、今度は台場の猛攻を乗り越えたアメリカ軍が台場に上陸して占領、日本側は敗北という結果に。

 

最悪の場合の秘策

 ただし日本側も対抗戦術は用意していたという。幕府が長州に対してある戦術が可能かという問い合わせをしている(この頃は長州はまだ幕府に敵対していない)。それは小舟で迎え撃つという日本が古来から得意としているゲリラ戦術である。長州はこれに対して、兵員輸送用の大船50隻と戦闘用の小舟200隻が必要と答えているようだが、これは調達不能な数字ではないらしい。

 では日本がこの小舟200隻で斬り込んだ場合であるが、日本の侍は接近戦では無類の強さを発揮する。そのために米軍ボートを数で圧倒して撃退可能という結果が出ている。つまりは日本は徹底抗戦するつもりなら可能な戦術は用意できていたというのである。

 ただ老中阿部正弘はこのような戦術を用意した上で、あくまでアメリカとは戦わないという姿勢で交渉に臨んでいる。それはもしここでアメリカを撃退しても、他の国が介入してきたり、アメリカからの再度の攻撃につながる可能性が高く、江戸湾はともかくとして他の地域は守る術がなかったという判断によるものとしている。結果としてこの政治的判断は正解であったが、幕府の権威を落とすことにはなってしまったとしている。

 

 以上、今回の番組の肝は「もし日米戦わば」であるが、まあこれはシミュレーションをするまでもなく、ペリーの軍だけなら退けるのは可能だとは私も思います。当時の幕府もそれは分かっていたでしょう。ただ今回のシミュレーション結果はやや台場の戦力を過剰評価している可能性はあります。実際にはあれだけの能力の大砲をフルに設置してフルに活用できたかは疑問ですので。もっとも台場での戦闘で敗北してもそれは日本の負けではありません。確かに武力では向こうが勝っていたが、いくらでも兵力の補充が効く日本に対して、向こうは補給は不可能なんですから、最悪は江戸を焼き払う覚悟でゲリラ戦をしたらペリーの軍は全滅か撤退に追い込まれたでしょう。

 ただこの一戦だけで終わりというわけではないので、後を考えると日本側のダメージが大きすぎるというわけで、戦闘についてはあくまで最悪の事態という想定で落としどころを模索した交渉は正解でしょう。ただこのせいで長州などの強行派は幕府に見切りをつけて倒幕に走ることになりますが。もっともその長州も自力で攘夷を実行しようとして、連合艦隊にボコボコにされてますから、攘夷なんて結局は不可能ということは後にうすうす気付かざるを得なくなったはずですが。

 

 ところでこの形態で2回も放送するというのは、ヒストリアの次の番組としてはこれが有力と言うことでしょうか。ただ私としては、所詮この形態に切り替えたとしても番組の内容が大きく変わるわけでない(実験的なものを取り入れるとしても、別にヒストリアのままでできないわけではない)し、やはり探偵長の佐藤二朗が不要を通り越して不快(何であんなに偉そうなんですかね? 喋りはグダグダで内容もつまらないし)なので、私としては絶対反対です。ただNHKは番組については視聴者の考えとかよりも、コネとか政府の意向とかで判断する局ですからね・・・。

 

忙しい方のための今回の要点

・ペリーの来航で幕府はなすすべもなく開国したとされているが、実は対抗手段を用意していた。
・幕府が江戸湾に建造していた台場は、シミュレーションの結果、ペリー軍を退けることが可能と判断された。
・しかしペリーの来航が早まったことで容易が不十分なままの交渉となった。
・ただそれでも小舟で斬り込んで撃退するという方法は可能であった。
・しかし幕府はそれらの戦術を用意しつつ、アメリカとは戦闘はしないという方針で交渉に臨んでいる。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ最初から戦闘のつもりで交渉に臨むというのは愚策中の愚策ですからね。あくまで戦術的準備は行いつつも、戦闘は避ける方向でと言うのは国益を考えた時の外交の基本ではあります。
・こうして考えてみると、やはりこの時代の幕府の方が今の日本政府よりも外交力としてまともなんですよね。今の日本政府は外交と言えば金をばらまいて向こうに媚びることだと思っているから。安倍は外国の要人と記念写真を撮るだけのためにいくらの税金を海外にばらまいたんだ?