教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/5 サイエンスZERO「超省エネ社会の実現へ!次世代パワー半導体」

次世代パワー半導体とは

 青色LED開発でノーベル賞を受賞した天野浩教授。彼が今開発に注力しているのが次世代のパワー半導体とのこと。電気自動車などに用いられるこの素子は大幅な省エネに貢献する可能性を秘めているとか。

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天野浩教授

 ますパワー半導体のパワーとは何なんだだが、従来のシリコンの半導体は微少電流をスイッチングして計算などを行うのには向いているのだが、大容量の電流を扱うと発熱などのロスが大きすぎるのだという。それを克服するのが窒化ガリウムなどからできたパワー半導体であると言う。

 例えばこの窒化ガリウムの半導体を電気自動車の直流を交流にに変換するためのインバータに使用すると、その時点で電気効率が30%アップさらには周波数を上げることが可能になるのでさらに効率が30%もアップするという。

 

製造コスト低減のための画期的技術開発

 ただこの窒化ガリウムの問題点はコスト。現在ではシリコンに比べると桁が違うぐらいのコスト高だという。そのコスト高の原因は歩留まりの悪さ。シリコンはかなり綺麗で欠陥のない結晶が作られるのに対し、窒化ガリウムはどうしても欠陥が多くなってしまうのだという。

 その原因は製法にあると言う。現在は高温高圧下で窒化ガリウムと良く似た構造の人工サファイアの基板上にガリウムと窒素を含むガスを噴射して結晶を成長させるのだが、温度を下げる時にサファイアと窒化ガリウムの縮み方の違いで歪みが生じて、それが結晶の欠陥につながってしまうのだという

 その問題に挑んでいるのが大阪大学の森勇介教授。彼が考えたのが人工サファイアの上小さな窒化ガリウムの結晶を並べた基板。種から成長した窒化ガリウムが大きくなり、歪んだ時には種結晶が壊れることで基板からはがれると考えたという。さらにはナトリウムを用いて液体の中で結晶を成長させることで急成長を抑えることで綺麗な結晶ができると考えたという。しかしこの方法で作った試作品は思ったほど綺麗にできていない。原因は種の上に真っ直ぐ成長する部分と斜めに成長する部分があって、それぞれで結晶の構造が微妙に違うからと判明した。そこで彼は基板を何度も上下に動かすことで斜め方向に成長した結晶だけを表面に持ってくることに成功したという。天野教授によるとこれは「画期的発想」らしい。そうして作った基板上に摂政を成長させることで綺麗でムラのない結晶が成長したという。こうしてできた結晶の上の部分だけを削って使用し、下の基板は再使用することでいくらでも綺麗な結晶が作れるということになるとのこと。

 

電気自動車へのリモート充電技術

 さらにはパワー半導体を使った電気自動車の技術としては、リモート充電があるという。これは電磁誘導を使った技術で、道路に埋めたコイルの上を電気自動車が通過する時に電気を蓄えるという技術。この研究を行っているのは東京大学の藤本博志准教授。コイルの上を電気自動車が通過する時に、電気自動車が100メートル以上走るのに必要な電気量を送ることが可能という。自動車の走行状態を調べてみると、信号機の手前30メートル以内に滞在している時間が全走行時間の1/4滞在しているということが分かったことから、この部分にコイルを設置すれば充電無しで走行し続けられる計算になるという。またこのシステムは高周波を用いるほど効率が高くなるとのこと。現在は炭化ケイ素を用いているが、これを窒化ガリウムに変更するとさらに高効率になるとのこと。

 ちなみに天野教授の推算では新しい町の設計と共に考える必要があるので時間はかかるとのことだが(そりゃそうだろう)、電気自動車の方は5年後には実用化を目指しているらしいから、そんな遠い話ではないとのこと。


 なかなかすごい未来の話です。ただ天野教授もチラッと触れてましたが、人体への影響の調査と電子機器に与える影響のテストは重要でしょう。車が充電を始めた途端にiPhoneがボンと火を吹いたら洒落にならない(笑)。実際に電磁誘導なんで、効率化のためにあまりに周波数を上げて有効範囲を広げたら、車の中に積んでいたフライパンが熱々になんて可能性もあり得るような気はする。またそんな状態になったら、当然ながら人体に無害というのも考えにくい。実は人体に対する電磁波の影響というのはまだ未知の部分が多く、発がん性があるという研究から、全くの無害という説まで錯綜しているので、そこのところについて「利権から離れた」客観的研究というのは不可欠。

 

忙しい方のための今回の要点

・現行のシリコン半導体では大電力の扱いに非効率であるために、それに変わって開発されているのが窒化ガリウムなどのパワー半導体。
・これを電気自動車のインバータなどに用いることで大幅に効率がアップする。
・しかし窒化ガリウムは結晶に欠陥ができやすく歩留まりの悪さからコスト高であるのが問題であった。しかしこれも画期的な技術によって解決されつつある。
・また道路に敷設したコイルから電磁誘導で電気自動車に給電するシステムの研究も進んでいる。これも窒化ガリウムを用いればさらに高効率化が期待されている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・画期的な未来が見えてきそうです。これが現実化したら今のハイブリッド車のような中途半端なものでなく、全面的に電気自動車に移行になりそうです。ただガソリンスタンドはすべて廃業を余儀なくされますから、その辺りの社会的状況の調整ってのも課題になります。もっともこれは科学ではなくて政治の話。

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