教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/9 BSプレミアム ダークサイドミステリー「魔女狩りの恐怖 なぜ人は、隣人を追いつめたのか?」

 今でこそ魔女っ子は大人気?だが、16~17世紀の中世のヨーロッパでは魔女狩りの嵐が吹き荒れ、全くの無実の人々が意味もなく6万人も殺害されたという。キリスト教の悪夢とも言われるこの残虐行為がなぜ発生したのかを紹介している。

 

突然に普通の人々が断罪される

 まず魔女とはなんであるかであるが、神に対する悪魔(サタン)がその先兵として送り込んだ存在らしい。悪魔と性的交わりを持つことよって手先となった者が魔女で、魔女は人々に災いをもたらすために存在するという。

 魔女狩りの特徴はごく普通に暮らしている人が隣人などに突然に「魔女だ」と告発されるところから始まる。魔女として告発されると取り調べが始まる。裁判ではまず被告は裸にされて体を調べられる。悪魔と交わった時の印を調べるのだという。その印とはほくろやイボやシミであるというから、当然のことながら誰にでもあるものなので被告はもれなく有罪となる。次に通常の裁判なら客観的証拠を吟味するはずなのだが、魔女である客観的証拠など存在するわけもないので、決定的証拠である自白を引き出すことになる。そのためにはあらゆる拷問が合法化されている。親指をネジで押しつぶしたり、針ダラケの椅子に座らせたり、天井から吊し上げるなどあらゆる拷問が「自分は魔女である」と自白するまで続けられる。しかも拷問はそれでは終わらない。次は他の魔女が誰かの自白を要求される。拷問に耐えかねた被告は適当な名前を「自白」する。そして次の犠牲者が生まれるという循環になる。

 

背景に垣間見える社会不安

 なぜこのような蛮行がなされたかであるが、当時は社会的不安が大きかったとことが影響しているという。当時のヨーロッパは小氷期に突入して、天候不順による不作が相次いだ。そのような危機に際しては当時の人間は3タイプの思考をする。1.たまたまの偶然 2.神が我々に怒っている 3.誰かが悪意をもって引き起こしている。1.はある意味で一番理性的な判断だが、問題の解決に結びつかないので受け入れがたい。2.は自分達に責任があるという考え方になるので、一般人にはやはり受け入れがたい。そういうわけで必然的に3.の考えに行き着くのだという。そして人々が互いに告発し合う魔女狩りの状態になる。一旦そういう状態になると、それに疑問を感じている人でも自分が狩られる側にならないために狩る側に迎合することになる。よくあるクラス内での集団いじめの構図に類似している。

 

魔女狩りのバイブルの存在

 このような魔女狩りの元になったまさにバイブルが存在するという。それは15世紀後半にドイツで活躍した異端審問官であったハインリッヒ・クラーマーが記した「魔女への鉄槌」という本。そこには魔女の危険性のアピールから魔女に対する解説、魔女裁判の行い方から拷問の仕方まで詳細に記しているという。彼は「魔女が世界を支配しようとしている」という妄執に取り付かれて、あくまで魔女を滅ぼすしかないとの異常な情熱(キ○○イによくあるタイプの情熱)でこの書を記したようだ。この書には「特に女性が悪魔に取り込まれやすい」と女性に対する敵意が剥き出しなのだが、どうやらその理由は彼が若い女性を見た時に感じるムラムラした欲望を認めることが出来ず、それを「悪魔の手先である女性が自分を堕落させようと誘惑している」と超他罰的に解釈した結果だという。そこで素直に「だって俺だってスケベ心はあるから」と認められたらこういう異常行動にはならないが、悪い意味で真面目であったというか、そもそも最初から精神バランスがおかしかったんだろう(そもそも自分の欠点を認められない自己愛性の人格障害であったと思われる)。しかしこの○チガ○本が、当時実用化された活版印刷で大量に出版されたこともあり、社会不安の中でクローズアップされ、後の魔女裁判のまさにバイブルになってしまったという。

 

魔女狩りの暴走とようやくの終焉

 中には魔女狩りをビジネスにする者まで登場したという。1640年代に魔女狩り将軍と呼ばれたマシュー・ホプキンスは各地を回って村などの依頼を受けて、数百人の無実の人々を魔女として処刑したという。人の心の弱さを利用して子供をそそのかして親を「魔女だ」と告発させる卑劣な方法まで著書に残しているらしい。本当に悪魔と契約した人間がいるとしたら、実際はこういう男だろう。

 また魔女狩りの被害に遭ったのは何も庶民の女性だけではない。ドイツのバンベルクでは1600年代前半に魔女狩りの嵐が吹き荒れ、あらゆる階級の900人が殺され、その中には市長なども含まれているという。当時のバンベルクはカトリックの司教が治める広大な領地の一部だったが、そこにヨーハン・ゲオルグ2世という魔女狩り主義者の異常者が領主として就任し、片っ端から魔女狩りを始めたのだという。そして市長がそれに反対したら今度は市長が魔女にされてしまい、そこから芋づる式に上流階級までが魔女として殺害されたのだという。結局はこの事態は1631年にバンベルクを脱出した人たちが周辺の都市の権力者に助けを求めるまで続いたらしい。当時は既にルネサンスの時代であり、大都市には科学を重視する知識人などが多数いて、魔女狩りに対する否定的な考えが強くなっていたという。神聖ローマ帝国の最高裁判所は皇帝の名の下にゲオルグ2世に不当な裁判を禁止する命令を発し、ゲオルグ2世が当時ドイツで起こっていた戦争の煽りで逃亡した途端に魔女狩りは収まったという。なお私は彼の魔女狩りは単に妄執に取り付かれていただけでなく、富裕層の財産などの横領を狙うという金目当ての目的もあったのではないかと読んでいるのだが、番組はそこまでは踏み込んでいない。

 そうしてこの頃辺りからようやく理性を重視する方向に社会が動き始め、各地で魔女狩りを禁止する法律が制定されるなど魔女狩りは終息を迎えたという。しかしその後でもアメリカで魔女狩りが起こったり、今日でもSNSでのデマから集団リンチが発生したりなど、魔女狩り的な行為は完全にはなくなっていない。

 

 この時期にあえてこれを放送するのは、明らかに今のSNSやネットとかでの集団攻撃などを想定しているんでしょう。これは放送側からのメッセージであるのを感じます。今でもコロナで患者叩きや医療関係者叩きまである状況を見ると、残念ながら民衆ってのは本質はこの頃から進化していないってことが分かりますから。

 まあ魔女狩りの話って聞けば聞くほど「馬鹿らしい」と感じると共に憤りを抑えられなくなりそうになるのですが、しかし今でも群集心理ってのはこういう方向に行きやすいっていうことに気付いてハッとすることはありますね。またこういう心理を巧みに利用する扇動家もいる。ヒトラーなんてまさにその天才でした。この魔女の役割をユダヤ人に持っていったのが彼のやり方ですから。ユダヤ人を迫害する一方で、それを指揮する自分を神聖化させてたんです。

 番組では「正義中毒」という言葉を使ってましたが、ネットとかで集団リンチしている者って、必ず「自分は正義を執行している」っていう大義名分と高揚感をもってるんですよね。そしてどんなひどいことをしても正義の名の下に許されるという意識。この意識は要注意です。自分がそういう状態に陥っていないかを冷静に判断する頭は常に必要。とりあえず、カッと頭に血が上りそうになったら一旦深呼吸して5つ数えるぐらいは必要。

 

忙しい方のための今回の要点

・16~17世紀に吹き荒れた魔女狩りの旋風で、ヨーロッパでは6万人もの罪なき人々が殺害された。
・魔女裁判にはマニュアルが存在し、告発された者は拷問などで無理矢理に自白に追い込まれると共に、共犯者として他の人物を巻き込んでいくようなシステムになっていた。
・背景には当時のヨーロッパは小氷期の影響で天候不順による不足が続いて、社会的不安が高まったことがある。
・魔女狩りのバイブルとなったのは、15世紀後半の異端審問官ハインリッヒ・クラーマーが記した「魔女への鉄槌」。彼の妄執に基づいて出版されたこの本は、活版印刷で大量に発行されたこともあり、不安に満ちた社会に大きな影響を与えた。
・魔女狩りの犠牲者は庶民の女性だけでなく、時には上流階級に及んだ。バンベルクでは市長までが魔女狩りの犠牲となった。
・後に科学的考えに基づいた理性的な判断力を持つ知識層の登場で魔女狩りは消えていったが、今でもデマによる集団リンチなど、集団心理に基づく同様の愚行はなくなってはいない。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・コロナ感染の患者叩きなんか見てると、明らかに魔女裁判的なものを感じますね。確かに中には行動に軽率さがあった者もいますが、それを責めて何の意味があるってこと。感染したのは結果論であって、中には特に迂闊な行動もしてないのにどこからか感染したって人もいる。そもそもどこにどれだけ感染者がいるかも検査していない状態で、完璧な防御するのは不可能。
・ましてや医療関係者の家族に対する差別まであるって言うんだから、そこに至っては唖然。現在まさに最前線でギリギリの状態でコロナと戦っている人たちに後から石投げて、それであんたにどんな得があるの?って言いたくなる。

次回のダークサイドミステリー

tv.ksagi.work