教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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4/19 サイエンスZERO「シリーズ原発事故20 克服できるか 廃炉への難題」

 未だに廃炉作業が難航している福島第一原発。廃炉を実現するには多くの技術的課題がある。

 

敷地内に蓄積されている汚染水をどうするか

 現在差し迫った問題としてあるのが汚染水の問題。メルトダウンした炉内に地下水が入り込んでいるので、毎日17トンもの汚染水が発生しているらしい。それに含まれる放射性物質は吸着濾過(どうやらゼオライトを使用している模様)で除去しているのだが、それでも取り切れないのがトリチウム。水素の同位体である放射性物質のトリチウムは、化学的性質が通常の水素原子とほとんど変わらないために分離が不可能である。またこのトリチウムはそもそも原子炉を稼働すると必然的に発生するものらしい。目下の汚染水のトリチウム濃度は環境基準とされている値の16倍。今のところは敷地内にタンクを並べて保管しているが、このペースだと2022年の夏頃にはもうスペースがなくなるという。国は大気中に放出するか、薄めて海洋に排出するということを考えているが、ようやく回復軌道に乗り始めている福島の漁師達は何よりも風評被害を恐れている。確かに放射線が検出されなくなったと言われてもまだ福島の海産物は世間に避けられているというのに、そこに「放射能を含む排水が海洋放出された」となれば、科学的安全性云々の議論をすっ飛ばして風評被害が起こるのはほぼ間違いない。

 

燃料デブリの取り出しが難航

 さらに溶け出した燃料が辺りの金属やコンリートなどを巻き込んで固まった燃料デブリをどうやって取り出すかの技術開発も困難である。まさに放射性廃棄物そのもので超強度な放射能を帯びているために人間が直接に作業することは不可能なので、密閉された環境下でロボットなどを用いて遠隔操作で取り出す必要がある。そのためのロボットやシステムの開発も進められているが、なかなかに大変な問題が多々あるようである。なおメルトダウンが起こっているのは1~3号炉で、2,3号炉はロボットカメラなどでデブリの状態の確認が出来ているが、1号炉についてはまだそれも出来ていないという。また状態を見たと言っても恐らくザッと見ただけだろうから、いざ解体を始めたら「まさかこんなことに」という状況が発生するのはほぼ間違いない。

 目下のところ20~30年は廃炉までかかるだろうとの見積もり。もっとも私にはそれも希望的観測にしか見えない。この間は際限なく対応の費用がかかるわけである。このような状況を考えると、やはり原子力発電は安全性云々の問題を抜きにしても、経済的にも割が合わないものであることは明らかであり、とにかく全廃するしかないのが「現実的」対応であろう。

 

 汚染水の処理の問題は難しいところである。確かに現状で現実的な手は海洋放出しかないようだが、福島沖でそんなことをすれば風評被害は必至。かといって、太平洋の公海上に船で運んで廃棄なんてことをしたら、国際的にボロカスに批判されるのは確実だし。「科学的には安全」と言っているようだから、それなら東電本社の飲料水にでも使ってもらうか。

 トリチウムと言えば本来は核融合炉の燃料物質だったはずだから、核融合技術が実用化されていたら、精製してそちらの燃料に回すというのが一番合理的解決法に思えるのだが、残念ながら核融合技術はまだ開発途上で頓挫しているに等しい状態で、実用化の目処は全く立っていない。それにもそもそも核融合技術自身も本当に安全であるかどうかは保証はされていない。ザッとネットで調べたところ、核融合で生成するトリチウム水を濃縮する技術の開発の方の研究も行われているようなので、まずはその技術を実用化してトリチウム水の容積を増やすのが近々ではもっとも現実的対応か。

 

忙しい方のための今回の要点

・福島原発では現在は大量に出る汚染水の処理が問題となっている。このままでは2022年の夏頃には保管スペースがなくなるという。国は薄めての海洋放出を考えているが、風評被害を恐れる地元漁師などの抵抗が強い。
・また廃炉のためには強度の放射能を帯びた燃料デブリの取り出しが不可欠。しかし人間が直接作業するのは不可能なので遠隔操作で作業する必要があり、技術開発が必要である。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・結局は「原子炉は絶対に事故を起こさない」なんてのはファンタジーであることが明らかとなり、さらに一旦事故が起こると取り返しの付かないことになることも明らかとなった。さらにはあらゆる事故を未然に防ぐための措置というのを行っていると、とてつもなく費用がかかるということも明らかとなってきている。つまりは原子力は既に経済的にも破綻しているわけであり、今や原子力を支えているのはそれを取り巻く利権だけというのが現状。つまりは原子力全廃こそがもっとも「現実的」対応なのである。

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