教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/29,5/2 NHKスペシャル「未解決事件File.08 JFK暗殺」

JFK暗殺の真相は?

 つい最近、ダークサイドミステリーの再放送で「JFK暗殺はオズワルド単独犯行説で間違いなく、あまりに釈然としない事件であるせいで陰謀論がはびこる」という主旨の放送をしていた直後なのであるが、今回はまさにその陰謀論とされるものの最たるものの一つであるCIAによる暗殺説を取り上げている。しかしながら唐突にこういうものが出てくる過程があまりに説得力がある。

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暗殺されたJFK

 さてこの内容が注目されるようになったきっかけの一つは、あの事件も関連の資料が公開される50年の期限になり、トランプ政権も資料を公開すると言っていたにもかかわらず、突然に「国防上の問題がある」として資料の公開を拒絶したということがある。ここに来て資料公開を拒絶するのは、やはり政府中枢に近いところの事件関与があったからに間違いないという話になってしまう。

 

暗殺事件の真相に迫る66人の専門家

 JFK暗殺の真相を30年追い続けているという元ワシントンポスト記者のジェファーソン・モーリーによると、事件が起こるやいなやオズワルドは共産主義者であり親キューバであるという情報が流された。これこそがまさに情報操作で怪しいのだという。彼は未だに関係者の証言を求めているが、明らかに証言を拒む者がいるという。こういう状況がさらに怪しさを増させることにもなる。

 NHKが66人の専門家と共に内部資料その他を調査したところによると、やはりCIAの関与が浮上してきたという。専門家の一人であるディック・ラッセルによると、日本が非常に重要なポイントであるという。犯人とされるオズワルドは海兵隊にいたことがあり、共産主義にかぶれてソ連に亡命したことがあるとされているが、その経歴の中に彼が厚木にいたという事実があり、そこにCIAの陰謀があるというのである。

 

オズワルドの生い立ちとCIAの接近

 オズワルドは母親と二人暮らしだったが、母親は彼をあまり省みなかったようである。オズワルドは変わり者として学校でもいわゆるいじめられっ子の立場であり、それから逃げ出したくて海兵隊に入隊したようだ。しかしそこでもマルクス主義にかぶれたオズワルドは変わり者、裏切り者扱いだった。

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犯人とされたオズワルド

 そんなオズワルドに目をつけて接近したのがロバート・ノーランと名乗る男。実は彼は実名をリチャード・ナゲルというCIAの工作員だったという。ナゲルがオズワルドと会ったのは銀座の「クィーンビー」という米軍将校相手の高級クラブだったという。ここのホステスがアメリカの情報を集めるためにKGBに使われていることを知っていたナゲルは、オズワルドをホステスと接近させる。オズワルドはここでミドリと名乗るホステスと接近、ついにはソ連への亡命を決意する。そこにはナゲルを通してのCIAの陰謀があったという。

 

スパイあぶり出しに利用されたオズワルドのソ連亡命

 海兵隊を除隊してソ連に亡命を試みたオズワルドは、モスクワのアメリカ大使館に出向いてアメリカ国籍の放棄を訴えたという。しかしこの時のオズワルドの態度について、複数の大使館員が「オズワルドは言われた通りに話すよう教えられたのではないか」と語っているという。何者かが背後にいた可能性を感じているのだという。オズワルドがソ連に亡命した直後からCIAによる監視対象になったことも明らかになっているし(当時はCIAはそれを否定していたらしい)、そもそもオズワルドの亡命自体が仕組まれたものだったとみる専門家がいる。

 オズワルドはCIA内にいるとみられていたモグラ(ソ連のスパイ)を探るために利用されたのではないかとしている。オズワルドに関する情報がCIAに流れることで、モグラが調査のためにそれにアクセスしようとするので、その動きを追えばモグラがあぶり出せるとの考えだったのではと言う。つまりオズワルドは囮にされたのだという。オズワルドは使い捨てのポーンであり「使える馬鹿」だったのだという。

 

ソ連に失望して帰国したオズワルドが起こした事件

 しかしソ連の実態はオズワルドを落胆させる。アメリカが貧困が支配する国だとしたら、ソ連は抑圧が支配する国だったのである。

 そしてソ連に幻滅したオズワルドはアメリカに帰ってくる。帰って来た時には彼はロシア人の妻・マリーナを伴っていたという。そして帰国した彼の世話を焼いていた男がジョージ・ド・モーレンシュルトであるが、彼は事件発生後に謎の自殺を遂げた人物であり、CIAと自らのつながりを認めていたという。

 また妻のマリーナは帰国後のオズワルトが極めて不安定な状態になっていたということを語っている。オズワルドは非常に感情的になり、DVなどもあったという。またJFK暗殺の半年前に別の事件を起こしたことも証言している。彼は過激なファシストと言われていたエドウィン・ウォーカー将軍を狙撃したという。

 

事件を餌にしてオズワルドを利用するCIA

 その事件はCIAの手によって犯人不明の事件となったのだという。そしてCIAはこの事件を利用することにする。マリーナによるとこの事件の後、モーレンシュルトが来たという。ディック・ラッセルによるとモーレンシュルトはウォルトン・ムーアの友人だったという。モーレンシュルトはムーアからオズワルドの面倒を見るように言われていたという。

 そして元CIA高官のロルフ・ラーレンの証言が注目されている。彼はCIAの一部の人間が暴発してJFK暗殺に動き出したと見ている。彼は長年ケース・オフィサー(プロジェクトリーダーのようなもの)を務めていた。ケース・オフィサーは内部の工作員を自由に操ることが出来るが、ウォーレン事件でオズワルドが逮捕されなかったことこそがCIAのケース・オフィサーが通常使う手法だという。

 ラーレンによると、オズワルドに対してウォーカー事件のことを知っているということを匂わせたCIAが、罪の隠蔽と報酬を餌にオズワルドを釣ったのだという。実際に事件の前にオズワルドはマリーナに、これから生活が良いように変わるというようなことを語ったという。

 

ケネディ暗殺の動機のあったCIA関係者

 さらにラーレンは関与したケース・オフィサーを名指しにしている。彼が名指しにしたのはジェイク・エスターラインとウォルトン・ムーアの2人だという。特にエスターラインはCIAがキューバに攻め込んだヒッグス湾事件の指揮官だったが、この時にはケネディがキューバの空爆に反対したために計画は失敗、エスターラインは多くの部下を失うことになったという。さらに作戦失敗に対してケネディはCIAの長官と副長官を解任し、CIAの解体をも模索していたという。エスターラインはケネディに対して強い恨みがあったはずである。

 当時のCIAは反共を愛国とし、そのためなら少々の暴走は許されると考えている連中もいた。そんな連中からはJFKは危険な人物と見なされていたという。実際に当時のCIAの中にはケネディに対する不満が爆発寸前であり、その結果「愛国無罪」的な暴発者が出る素地があったという。

 

オズワルドを欺して犯人に仕立て上げたCIA

 陰謀にとって重要なのはオズワルド単独の犯行という結論に落とし込むためのカバーストーリーだという。貧困で不安定な家庭で生まれ育ち、ソ連への亡命経験もあるオズワルドは犯人役としては格好の人物だった。ただし難点はオズワルド自身はケネディに対する恨みを全く持っていなかった(オズワルドがケネディに対して不満を言っているのは誰も聞いたことがないという)ことだが、結局は彼が犯人にされることになった。

 オズワルドのような人物をそそのかすのには常套手段があるという。まず「これは国を守るためで副大統領も了解している。心配しないでも仕事を終えたら逃がしてやる。」と伝えるのだという。

 オズワルドは教科書ビルから3発の弾丸を放ったとされているが、1発は別の場所から狙撃されている可能性が高いという。現地の目撃者も別の方向から銃声が聞こえたという証言をしているのだが、なぜかその証言は捜査報告書では無視されている。

 また事件後のオズワルドの逃走経路はかなりドタバタとした慌てたものであったらしいが、それはこのような時は常套的に「逃走用には車が待っているからそこに行け。」と伝えているのが通常だからだという。だから事件後にオズワルドはそこに行ったが、車がいないのをみて初めて「はめられた」と悟ってドタバタと逃走しようとしたからだろうとのこと。実際に逮捕されたオズワルド自身が「はめられた」という言葉を放ったことは知られている。

 またオズワルドが逮捕された後も、オズワルドが犯人と思わせるための世論工作が積極的になされているという。メディアにはオズワルドが共産主義者だったという情報が流され、キューバからの移民による反カストロ団体(CIAが事実上飼っていたらしい)がこの情報操作に関与していたことも明らかになっているとのこと。

 

 以上のように、こうして通して見てみると「陰謀論」として片付けてしまうにはあまりに筋が整然と通っており、説得力があるものである。これに比べると当時の政府が出した報告書の内容の方があまりに無理筋が多いのが目立つ。なおこの事件に対して私が一番に抱いていた違和感は「共産主義者のオズワルドにとって、ケネディを暗殺する理由がない」ということである。当時のケネディは決して反共一直線というわけではなく、むしろソ連側などからは「対話可能である指導者」と思われたからである。だから彼を排除することは共産主義者側からは得策と思えず、むしろ彼のことを「弱腰」と感じる国内の強行派の方が暗殺の動機が強かったこと。

 だからオズワルドの犯行だとしたら、いわゆる「歴史に名を残す」とかの売名的なテロリストであるという可能性しかないのだが、それなら逃亡しようとしたり、逮捕された後も犯行を否定したりなどというのが説明が付かないのである。そういう犯人だったら、むしろ堂々と出頭してきて「自分が大統領を暗殺した」と胸を張って主張するはずだからである。

 と言うわけでこの件に関しては、私自身も以前から「CIAによる内部犯行説」が一番有力であると考えている。そもそも現在に至るまで証拠隠滅が完全になされていて、真相が明らかにされていないことこそが、こういう陰謀に長けているCIAが関与している可能性を濃厚に感じさせるものである。

 

忙しい方のための今回の要点

・JFK暗殺の真相を究明するべく集まった66人の専門家による結論は、CIAの一部の暴走車達がJFK暗殺を目論見、オズワルドをその犯人として仕立て上げたというものである。
・オズワルドはソ連に亡命した時点からCIAに捨て駒として使用されていた可能性が高いという。
・ソ連に幻滅して帰国した後のオズワルドは、過激なファシストと言われていたエドウィン・ウォーカー将軍を狙撃する事件を起こしている。
・その事件はCIAによって犯人不明とされ、オズワルドはこの事件を利用して陰謀に引き込まれた。
・当時のCIAはケネディと対立関係にあり、特にジェイク・エスターラインはキューバ攻撃事件に関連して、ケネディに対して強い個人的恨みもあった。
・オズワルドは事件後には外国に逃走させると聞かされて欺されていた可能性が高いという。
・オズワルド逮捕後、CIAは明らかに彼が犯人と思わせるための世論工作を行っている。


忙しくない方のためのどうでも良い点

・未だに生存している関係者の口がやけに硬いことこそが、CIA主導説の根拠のような気もします。まあ決定的な証拠は多分永久に出ないでしょうが。まさかCIA内部のケネディ暗殺指示書のようなものなんて残ってないでしょうから。