教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

5/10 サイエンスZERO「探検!火山島"西之島"」

小笠原諸島の西之島で行われた上陸探査

 2013年に小笠原諸島の西之島で起こった噴火によって発生した新島の調査報告。噴火は西之島の南で起こり、これで誕生した新島は徐々に拡大し、ついには従来の西之島を飲み込む形で成長し、結果としては直径2キロの新たな大地となった。また今回の調査後の2019年12月に再度の噴火も起こっているという。

 西之島は東京都心から南へ約1000キロ、一番近い父島からでも約130キロという絶海の孤島である。ここの調査が行われたのは2019年6月。50時間の長時間航海の後に島に到着したのは鳥、昆虫、植物、カニ及び貝、火山の専門家の10人。全く新しい大地で生物がどのように広がっていくのかを研究するのを目的としている。

 

鳥たちは生き残っていた

 彼らがまず目指したのは、ごく一部だけ旧西之島が残っている部分。ここは元々は海鳥の大繁殖地だった。そこがどうなっているか。調査隊はボートで上陸するが、島の生態系を乱さないように衣服などはすべて取り替えてから探査に向かう徹底ぶりである(服に植物の種などが付着していたりするのが怖い)。当然ながら自分達の排泄物も持ち帰る必要がある(便の中に種なんかでもあったらそれも問題)。

 まず最初はカツオドリの調査が行われた。溶岩に囲まれた土地に多くのカツオドリが子育てを行っていた。しかしこの時期まで子育てが行われているのは時期としては遅いというがその理由は不明とのこと。仮説としては狭いところに密集しているためにヒナ同志のケンカが起こるため、これを避けるために時期をずらして子育てをしたのではとのこと。

 

新しい大地に進出した鳥たち

 では新しい大地に進出したカツオドリはいるのかどうかであるが、新しい溶岩ビーチを調査したところ、鳥は見つからなかったが巣の跡が発見されたという。この巣は海のゴミを集めて作られている。通常は枝や枯れ草を使うのだが、島に植物がなかったために苦肉の策としてゴミを使用したのではと思われる。さらには調査中に岩陰に潜んだヒナも発見している。

 さらにはドローンでの調査によるともっと内陸のゴツゴツした火山岩の部分にも巣を作っているのが発見されたという。過密になった旧島からフロンティアスピリットで新天地に進出した個体もいるのだろうという。こういう個体がいることで、例えば高波で海岸地帯の巣が全滅することがあっても、生き残る個体が出ると言うことになるという。

 

鳥が土壌を作るメカニズムも

 また旧島近くの溶岩台地で新発見があったという。それは溶岩台地の先端部分に築かれた多くの巣の跡で、植物がないにもかかわらず、そこで土壌が生成し始めているのが観察されたという。従来は植物が繁殖してから虫に食われることによって有機物が生成し、これが細かい岩石と混じり合うことで生成すると考えられていた。ここには植物がいないのに土壌が生成した秘密は鳥の死体にあるという。過酷な環境のために多くのヒナが死んでいるのだが、この死体が虫に食われ、それが有機物として細かい岩石と混じって土壌が生成したと考えられるという。植物が存在しない新島における鳥による土壌生成という新しいパターンが発見されたことになるという。これからこの土壌に種子が飛来したら、植物が繁殖することが考えられる。これは従来の生態系生成メカニズムのシステムの逆になる。

 今後、さらに西之島については長期にわたっての定点観測が計画されている。非常に興味深い話である。

 

 あんなゴツゴツした溶岩の島なんかで住める生き物なんていないだろうと思っていたのだが、鳥たちの思いの外のたくましさに驚かされた。もっとも旧島がごく一部でも残っていたので、そこがベースとなって生態系の拡張が起こったのだが、これが完全に根絶してしまっていたら、外から鳥が飛来して住み着くまでにはかなりの期間を要することになったろう。

 それにしても鳥の死体をベースにして土壌が生成するというのには驚いた。ただ動物の死骸を苗床にしてと言えば、菌類の繁殖が想像されるのだが、西之島には菌類は存在していないのだろうか? 昆虫だけでなく菌類も存在すれば、土壌の生成はさらに加速するような気がする。

 

忙しい方のための今回の要点

・小笠原諸島の絶海の孤島・西之島が火山の噴火によって大幅に拡張したので、その新大地の生命の探査が行われた。
・一部旧島がそのまま残っていた部分では、多くのカツオドリが時季外れの子育て中であり、これは密集のために時期をずらしたのではとの仮説を立てている。
・ここから周囲の溶岩台地に移動した個体もあり、海のゴミなどを使った営巣の跡が見つかっている。
・また植物が一切存在しないのに、溶岩上の巣の跡では土壌の生成が観測された。これは鳥の死骸を虫が食べて分解し、その有機分が細かい岩石と混ざって生成したものであると考えられている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・こういう絶海の孤島で生命が繁殖するには、行動半径の大きい鳥の存在が重要ですね。将来的に植物が繁殖するきっかけも、恐らく鳥が種を運んでくることになるでしょう。これからどういう生態系が確立していくやら。もっとも火山もまだ完全には落ち着いていないようなので、途中でご破算になる可能性もありそうですが。

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