教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

6/13 NHKスペシャル「混迷のアメリカ~コロナ時代 世界で何が起きているのか~」

アメリカで爆発した人種差別に対する抗議デモ

 現在、アメリカを中心に広がった人種差別に対する抗議デモが世界的な広がりを見せつつある。そのような状況に至った背景を緊急レポート。なお今回の番組、いきなり武田真一アナウンサーがNHKの「これでわかった世界は今」の中でのCGアニメーションが差別的であると世界的にも批判を受けたことに対する謝罪から始まるという異例さ。なお問題のアニメーション、私は見ていないのだが問題になっているのは知っていた。どうやら「黒人たちは金が欲しくて騒いでいる」というような内容だったらしい。

 事件の発端は黒人のジョージ・フロイド氏(46歳)が警察官に8分46秒もひざで首を圧迫するという暴力を振るわれた挙げ句に殺されたという事件。フロイド氏は途中で「息が出来ない」と訴えていたにもかかわらず、警察官は首を押さえ続けており、そこには強い殺意さえ覗えるものである。実際にアメリカでは警察官による黒人への暴力行為が日常化しており、被害にあった黒人が殺されたことも何度もあり、以前から問題となっている。ただ今回の件が象徴的だったのは、この一部始終がカメラで撮影されてSNSで一気に拡散したこと。特に日常的に差別を感じている黒人の怒りを爆発させることになった。

 

コロナで明らかとなった「命の格差」

 しかも今回これだけ怒りが爆発した背景には新型コロナの感染爆発もあるという。ここでも黒人と白人での命の格差というものが明らかになったという。10万人の中での黒人の死者数は2倍以上だという。アメリカは医療保険が整備されていないせいで民間の医療保険に入ることになるのだが、黒人貧困層は高価な保険料が払えないために保険に入られず、そもそも医療にかかることが不可能な事例が多いという。またコロナで病院に運び込まれても、自宅に追い返されてそのまま死亡したという例もあるらしい。

 また今回のデモが今までと違うのは若者を中心に多くの白人も参加したことだという。平等意識に敏感な者達が「白人として恥ずかしい」と人種差別に対して声を上げているのだという。今までデモなどには参加したことがないが、今回は参加した言う者も少なくない。これをもって2020年を境に世界は大きく変わるだろうと予測する者もいる。

 

いつまで経っても消滅しない人種差別

 ここまでデモが拡大した背景としては、かつての公民権運動などによって制度上は黒人差別は撤廃されたことになっているにもかかわらず、社会のありとあらゆる場面で実質的には差別が厳然として存在するということがある。実際に黒人に対する暴力装置として警察が露骨に弾圧を行っているということはこの頃から発生している。1991年には飲酒運転の疑いのあった黒人運転手に対し、白人警察官4人が激しい暴力を行うという事件があった。この事件の犯人である警察官たちが白人陪審員の裁判で無罪判決を受けたことから、ロサンゼルス暴動が発生したこともある。

 アメリカ初の黒人大統領であるオバマ大統領の登場は黒人たちに差別撤廃への期待を膨らませた。しかしこれは逆に危機感を感じた白人至上主義の団体が増加することにつながったという(どの国にも残念ながら一定数のクズは存在する)。その後も警察官が黒人を殺害するなどの事件は相次ぎ、2015~2019年で警察官によって射殺された黒人は1195人に及ぶという。結局はオバマ政権でも差別の問題は根本的には解決せず、ましてやその後に成立したトランプ政権は半ば公然と差別を煽っているような政権である。

 

デモに対して暴力的な対策を取る大統領への懸念

 今回のデモは大半が平和的なものであるが、一方で過激な無政府主義者が暴力行為を煽っているとか、逆に差別主義者たちがデモの不当性をでっち上げるためにわざと暴力行為を起こしたりということが発生しているという。トランプ大統領はこれに対して「法と秩序」を大義名分にして、デモをテロと決めつけて軍を投入してまで抑圧しようとしている。実際にトランプ大統領は支持者であるキリスト教原理主義者たちにアピールするために教会で写真を撮ろうとして、この時に平和的に抗議していたデモ隊を暴力で排除して問題となった。

 このような事態は今まで政治とは一定の距離を保つというスタンスを守ってきた軍のあり方の根本に関わるもので、軍の上層部の中かからも懸念や批判が湧き上がってきているという。つまりは軍は大統領の私兵ではないという当たり前のことだろう。また共和党が自由貿易などを推進するという立場の政党から、白人の利益を最優先にするという政党に変貌しつつあることに対して、共和党内からも反発が出てきているという。さらには旧来の保守派の中からさえ批判は起こっている。

 しかしトランプ大統領はそれらの批判を無視している。これはこのような混乱下でもトランプ大統領の支持率は4割を下回ることがなく、保守派を中心とした(その核の部分には人種差別主義者たちがいるのだろう)強固な支持層があり、トランプ大統領はそちらを固めることを優先して考え、むしろ国の分断を煽っているからだという。このような明確に国の分断を煽る大統領というのもこれまでなかった存在であるという。

 なお人種差別が存在するのはアメリカだけではない。そのために今回のデモはアメリカに全州に及んだだけでなく、世界中に波及している(ブラジルのトランプなどと呼ばれている大統領に支配されているブラジルでは、先住民差別まで含めてさらに状況はひどいらしい)。

 

 何となくコロナで取材に動き回りにくい中で慌てて特集しましたというのが滲み出ている内容で、番組全体のまとまりの悪さのようなものを感じたし、番組自体の結論もハッキリとはしてませんでした(あえて結論は避けたと言えなくもないが)。

 要するにどうやっても差別というのはなかなかなくならないという現実があるのに、そこにトランプのように公然と差別を煽ることによって自らの支持につなげるというゲスな大統領が出現し、人種差別主義者たちが我が世の春と暴れ出したことが大きな原因の一つなんだろう。

 なお差別の問題は人間の心理的な部分に関わるだけに、本質的に解決するのは難しい。私の分析では群れで生きる生物である人間の習性に関係していると考えている。群れを意識するのは、自らが所属する群れとそうでない群れを区別して、他の群れに対して攻撃性を示すことにつながりやすいから。ここで「同じ人間」という大きな群れを意識できれば良いのだが、大抵の人間はそこまで頭が良くない。だから白人、黒人と言った分かりやすい小さな群れに固執して、他を排除するのだろう。この排除はさらに細分化され、甚だしきはどこの地域の出身とか、どこの学校の卒業などにまで及ぶ場合もある。

 基本的に人種差別主義者たちは低能であることは知られている。低能であるがゆえに人種などの「絶対努力などでは揺るがされない違い」に固執して、その優位性にすがることで自尊心を保っているのである。だから強烈な白人至上主義者は概して白人の中でもクズな連中が中心だし、他の国でも差別主義者は基本的に同じ分類になる。ごく稀にエリートと呼ばれる者の中にも差別主義者もいるが、そういうものは内部に表には出さない何か強烈なコンプレックスを抱えている場合が多い。

 また知能が低いから差別主義者になるという報告も聞いたことがある。例えば黒人に会った時に、彼が善人か悪人か、信用できる人間であるかとその都度ごとに判断するのは脳にとって負担であるが、黒人=悪人、犯罪者と決めつけてかかると脳の負担が減るために、知能の低いものほど差別主義に固まりやすいという意味である。まあそういう部分もあるような気はする。まあ何にせよ、差別に固執するものに少なくとも尊敬できるような人物はいないと言うことである。だからこそ白人層の中にも「白人として恥ずかしい」と今回のデモに参加している者もいるわけだろう。

 現在世界中で「○○のトランプ」と呼ばれるような権力者が増えているが、そういう連中は差別意識を煽ることで自らの支持につなげようという輩である。そういう者が世界的に増加していると言うことは、私はこういう言葉はなるべく使いたくはないのだが、「世界人類の劣化」そのもののような気がしてならない。

 

忙しい方のための今回の要点

・アメリカで起こった人種差別に対する抗議デモは全州に広がったのみならず、世界的な広がりを見せつつある。
・背景には未だに黒人差別が社会的には消滅していないことにあり、今回の新型コロナでも黒人の10万あたりの死者数は白人の2倍と明らかに「命の格差」が存在することが明らかとなっている。
・また公民権運動の頃から、黒人の運動に対する暴力的抑止装置として警察が作用しており、警察官による黒人に対する暴力が一向になくならないこともある。
・さらには国内の分断を図るトランプ大統領(しかも半ば公然と差別を煽っている)の存在が大きな影響を与えている。

 

忙しくない方のためのどうでも良い点

・正直なところ、根本解決は非常に難しいです。突きつめると黒人を見た時の「黒くてでかくて何となく怖い」と感じる単純な感情に根ざしているところにまで結びつきますから。私自身、自分の中に差別意識のようなものが全くないとかと言われれば、ないと断言は出来ない。
・今回の件は日本には無関係と考えている人も多いようですが、日本国内にも差別主義者たちはいますし(しかも近年増加している上に堂々と表に出てきた)、そもそも日本人自体が有色人種として世界に出たら差別を受ける側ですから(日本人は名誉白人だと考えている脳天気な人もいるようですが、どっこい世界はそんなに甘くない)。今回の件をきっかけに世界中から人種差別を根本的に撤廃することは日本人にとっても利益となります。ごく一部の差別意識にすがって自尊心を保っているゲス以外には。