教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/13 テレ東系 ガイアの夜明け「ヤンキーを戦力に!~新たな"働き手"発見~」

非大卒を就職に結びつけるヤンキーインターン

 人生に挫折し、学歴のない中高卒の若者をビジネスの戦力として育成しようとする企業を紹介。

 原宿にある会社「ハッシャダイ」。スーツ姿の若者がゾロゾロと入っていくが、彼らは中高卒のいわゆる非大卒である。非行や家庭環境のために大学進学を出来なかった若者が人生をやり直すための道場だという。名付けてヤンキーインターン。

 この会社を始めたのが25歳の勝山恵一氏。彼自身が元々札付きのヤンキーで中卒だという。そこから仕事の面白さを教えてくれる人に出会って更正したという。だからそういう経験を自分だけで終わらせず、若者にもチャンスを与えたいと考えたとのこと。卒業生は上場企業やベンチャー企業などに就職しているという。中にはソフトバンクでチームリーダーまでやっている人物もいるという。

 企業も人手不足の解消のために高卒の採用に動き出しているという(大昔に「金の卵」という言葉があったような・・・)

 

インターン生に密着取材

 番組は今年のインターン生に密着したが、その一人が岩手出身の佐藤凌氏(20歳)。彼は大船渡の出身で震災を体験した人物である。母、祖母、兄と4人暮らしの彼は教師になりたいと考えていて、なるべくお金をかけたくないと猛勉強に励んだという。しかし無理が祟って3年前にうつ病を発症、自殺未遂もしたという。彼はその後、非行や不登校の生徒を積極的に受け入れる北海道の高校に転校、そこでヤンキーインターンのことを知って参加を決意したという。そして家族に見送られて覚悟の上京である。

 勝山氏は各地で更正に関する講演をしており、150以上の少年院や児童養護施設、学校などで講演している。実は佐藤氏も勝山氏の講演を聴いたのがきっかけでヤンキーインターンに参加することを決意したのだという。

 佐藤氏に続いてやって来たのは見崎祐哉氏(24歳)。見るからにどこかヤンチャそうだが、彼は実際にバリバリのヤンキーだったという。この人物が後で佐藤氏と関わってくる。

 まず最初は自己紹介から。そもそも人前で話すことが苦手な者が多いので、こういうのが基本的コミュニケーションスキルの育成になる。無難に自己紹介を終えた佐藤氏に対し、中にはタジタジになる者もいる。そしてグループごとに分かれてかつての経験とその時の感情を語り合う。みんな様々な苦労を背負ってきたことを打ち明ける。先ほどの見崎氏はバイク好きで友人を乗せて強引な運転をした結果事故を起こし、友人を殺してしまうところだったのだという。これで今後は自分の言葉と行動に責任を持つと誓ったそうな。

 ハッシャダイのスタッフ自身が非大卒が多いという。研修を担当していた三浦宗一郎氏も高卒。独学で人材育成の方法を学んだという。

 

実戦的研修で費用を賄う

 研修が終了するとインターン生はシェアハウスで個室を与えられている。食費の支給もあり、食職住が全部無償だという。そのようなことが可能なメカニズムは、研修の一環として実践とほぼ変わらない営業活動を企業から請けているからだという。彼らは企業対象の電話営業を体験し、その利益で運営費を賄っているのだという。いわゆるアポ電というやつである。契約獲得数に応じて月3万から10万円の報酬が出ることがインセンティブにもなっている。しかしガチャ切りされることも多い厳しい世界。営業体験があるスタッフの池上僚氏が技術などを指導する。彼も工業高校を卒業後に就職しようとしたが、現場仕事ばかりで選択の余地がないことに愕然としたという。やりがいのある仕事に就きたいとなんとか大学に進学し、不動産会社でトップ営業マンになったという経歴の人物だという(かなり有能だ)。

 ハッシャダイには三井物産から新規事業に対する協力の要請があった。飲食店の空席を利用してリモートワークの場として、90分600円ドリンク付きで時間貸しするビジネスを考えているのだという。ユーザーはスマホで近くの店の空席を調べることが出来、飲食店としては空席を利用できて時間後に料理を注文してもらえる可能性もあるのがメリットである。この提携飲食店を広げる営業をヤンキーインターンでしてもらおうという考えだという。

 実際にヤンキーインターンで担当するのは沖縄出身の宮下貴琉氏。落ち着いた物腰や事前にキチンと調査する姿勢などから起用された(実際に22歳とは思えないぐらい落ち着いた話し方をする)。しっかり調べて的確な質問を飛ばす宮下氏に三井物産のエリートもタジタジである。

 

それぞれの選択を行う若者たち

 番組では横浜出身の原一輝氏に注目する。インターンの中でもリーダーシップを発揮して、他のメンバーに慕われているようであることから目立ったらしい。彼は両親の職業が不安定で、子どもの頃から経済的に苦労していたという。大学進学を目指してアルバイトで金を貯めていたが、親が病気で倒れてその貯金は治療費として消えた。これで挫折して大学を諦めたという。高校卒業後はアルバイトで家計を支えながら奨学金も返済したという苦労人である。同年齢の若者が大学を卒業して就職していくのを見て焦りを感じたのだという。

 しかしこのハッシャダイもコロナの影響で就職が苦戦する事態に陥っていた。そこで池上氏は企業に呼びかけて説明会を行ってもらう。そして採用面接に臨むインターン生達。原氏も緊張しながらオンライン面接に臨むが最初の面接の感触はよくなかったようだ。

 一方の佐藤氏は悩んでいた。今やっていることが自分の望んでいることとは違うという気が膨らみ、辞めることを考え出したのだという。「後2ヶ月で得るものがあるのか?」という佐藤氏に元ヤンキー見崎氏が「2ヶ月早く辞めて逆に何が得られる?」とピシャリと決める。テレアポで苦戦していた佐藤氏は必死で工夫を重ねている見崎氏に刺激を受けていた。触発された佐藤氏も熱のこもった営業で契約を取ることに成功する。これで佐藤氏は最後までやり通す気になる。

 そして半年後ついに卒業、高卒18人で始めた中で5人が脱落、8人が内定を獲得したという。横浜の原氏は2社の内定を獲得して新しい一歩を踏み出そうとしていた。一方の佐藤氏は就職をせずに教育に携わる起業を目指すことを決意したという(これも茨の道だと思うが)。で、ヤンキー見崎氏はどうなった?

 

 高卒だと現場の仕事しか選択の余地がなかったということだが、今回「学歴に関係なしに戦力が求められている」と言っても、やっぱりそこは営業職にほぼ限られてしまうわけである。営業は本人のやる気と資質があれば学歴はあまり関係ないので。ただそうなると佐藤氏のように「営業には向いていない」と感じる者にはなかなか適した職場がないことになる。佐藤氏は元々教師志望だっただけに、どうしても教育関係に携わりたいようだが、まさに「学歴」がもろに効く分野だけに茨の道だろう。例えば塾の講師が「高卒」だと聞いてわざわざそういう塾に来る生徒がいるかということである。

 今回のインターン参加生を見ると、かなり情熱を持った生徒が多い印象だが、それについては番組がそういう者を選んだというところもあるだろうが、そもそもは自分の生活を何とかしたいという強い動機を持っている者ばかりなので、そうなんだろう。むしろ挫折を知っていることによる強さのようなものも感じられる。もっとも佐藤氏はうつ病でリタイヤした人物、原氏は貧困のために進学できなかった人物であり、そもそもが本当の意味でのヤンキーではない。ヤンキーでも本気で何とかしたいと思っている者なら立ち直れるだろうが、そもそも「まともに仕事なんかしたくない」と安直な道を選びたがっているような輩だと問題外である。そう言う意味ではリアルヤンキーだった見崎氏の行く末が気になったのだが、言及がなかったと言うことは残念ながら内定は取れなかったのか?

 出演者が何度も言っていたが、大卒のメリットは選択の幅が広がると言うことである。職種によるとそもそも大卒以上でないと携わること自体が不可能な職種も少なくない。学歴が全てではないし、実際に就職してしまうと仕事の能力と学歴は全く無関係であることが多いのだが、学歴がないとスタートラインに立つ資格自体がなくなるというのが現実である。社会にもう少し学歴を問われない職種があれば良いのだが・・・。現状では学歴を問われないような職は底辺職と見られ、社会的信用や待遇などが劣る場合が多いという問題点もある。

 

忙しい方のための今回の要点

・ハッシャダイでは非行や経済的事情で進学できなかった者などを就職に結びつけるためのヤンキーインターンを実施している。
・ハッシャダイのメンバー自身に非大卒が多く、学歴によって進路の選択がなくなっている彼らにチャンスを与えたいと考えているという。
・費用は無料で食費も支給されるが、その費用は研修で行うテレアポを企業から委託されることで賄っており、契約数に応じてインターン生には手当も出る。
・今年は18人の高卒インターン生で5人が脱落、8人が就職内定を獲得した。過去の卒業生の中にはソフトバンクのチームリーダーにまでなった者もいる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・不利な状況からのスタートだけに、本人の真剣さとバイタリティが求められます。逆に言うとそれらに自信のない者は、少々しんどくてもどうにか大学を出た方が無難と言うことです。実際に私なんかもこういう環境下ではもろに脱落してしまうと感じる。何か絶対に人に負けない一芸でも持っていない限り、できる限り大学は出ておいた方が良いというのが、ジジイの経験に基づく忠告です。よく「大学なんか行ってなんになるんだ?」という若者がいますが、「大学が絶対必要がない」と言い切れる確信がないんなら「とりあえず行ってから考えろ」と言っておきます。

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