教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/6 サイエンスZERO「徹底解説!ノーベル賞2020世界を変えた研究が勢ぞろい」

 今年の科学分野におけるノーベル賞受賞者が発表されたが、その研究内容を紹介という企画。

医学生理学賞はC型肝炎ウイルス発見者に

 まず医学生理学賞はC型肝炎ウイルスの発見について、国立衛生研究所のハーベイ・オルター博士、アルバータ大学のマイケル・ホートン博士、ロックフェラー大学のチャールズ・ライス博士の3人が受賞した。

 C型肝炎ウイルスの発見はまさにこの3人の研究のバトンリレーでなされたという。ハーベイ・オルター博士は輸血を受けた人に肝炎患者が多いことから血液を調べたところ、A型でもB型でもない肝炎を発症している人が多いことが分かり、患者の血液がチンパンジーにも肝炎を発症させることが分かったことから、血液中のウイルス特有の成分を発見し、未知のウイルスの存在を突き止めた。それが1970年代後半。

 しかしウイルスの正体はなかなか分からなかったのだが、ホートン博士が1989年にウイルスのRNAの断片を発見して、ようやくC型肝炎ウイルスが見つかった。これで輸血用血液の中のウイルスの有無が検査できるようになった。そしてこのウイルスが確かに病気を引き起こすことを証明したのがライス博士で、ウイルスの全遺伝子が入ったRNAを合成してチンパンジーの肝臓に感染させて肝炎が発症するのを確認した。これが1997年だという。なおこれを元に薬が開発されたのは2011年以降とのこと。

 なお番組には国立感染症研究所の脇田隆字氏が出演しているが、彼が2005年にC型肝炎ウイルスの培養技術を確立し、それが治療薬の開発に結びついたとのこと。

 

物理学賞はブラックホールの研究を行った3人に

 物理学賞はブラックホールの研究について、オックスフォード大学のロジャー・ベンローズ博士、マックス・ブランク地球外物理学研究所のラインハルト・ゲンツェル博士、カリフォルニア大学のアンドレア・ゲッズ博士の3人。

 ペンローズ博士は一般相対性理論からブラックホールが形成されることが予言されていることを理論的に証明したという。そして後の2人はブラックホール実際に発見した人物とのこと。太陽の10倍という巨大質量を持つ天体が急旋回をしているのを見つけたことから、その原因となるブラックホールを発見したのだという。その質量は太陽の400万倍という凄まじいものであった。ちなみにこの2人はほぼ同時にこの星を発見したライバルだとか。

 

科学賞はゲノム編集の新技術に

 科学賞はゲノム編集の新技術開発で、マックス・ブランク感染生物学研究所のエマニュエル・シャルパンティエ博士、カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ博士の2人。

 この2人が共同研究で開発した遺伝子操作の方法がクリスパー・キャス9システムというものだという。微生物が持っていたシステムを利用し、ガイドRNAがDNAの目標の場所にくっつき、そこで酵素がDNAを切り取るのだという。今までは名人芸が必要とされていたDNA編集が、この方法のおかげで簡単に行えるようになったのだという。現在、遺伝子が原因となっているとされる病気は多数あり、この技術がその治療に応用できることが期待されているという。実際に京都大学iPS細胞研究所の堀田秋津主任研究員は、この技術とiPS細胞を組み合わせて、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療法の研究を行っている。これによって患者のiPS細胞の遺伝子の病気の部分を編集し、健康な筋肉細胞を作り出すことに成功したという。

 

 以上、今年のノーベル賞についてですが、概ね妥当な分野が選ばれたというような表現をしてましたが、確かに「なんじゃそりゃ?」というような分野はなく、そりゃそうでしょうねという内容が多い。それに医学生理学賞と科学賞はどちらもかなり実用性の高い分野で選ばれているので、内容的にもイメージしやすい。正直なところもうちょっと突飛な分野が入ってきても良いような気もするが、そっちはイグノーベルにお任せか。

 

忙しい方のための今回の要点

・今年の科学分野のノーベル賞受賞者の研究について紹介。
・医学生理学賞はC型肝炎ウイルスを発見した3人が受賞した。
・物理学賞はブラックホール関連でその存在を理論的に証明した1人と、実際にブラックホールを発見した2人に与えられた。
・科学賞は共同研究で遺伝子を狙った場所で切ることが出来るシステムを開発した2人に与えられている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・私も科学者になりたいと考えていた子供の頃は、将来はノーベル賞を受賞したいなんていう大きな野心を持ってました。いつ頃でしょうかね、自分の実力の限界というものに直面して、現実と妥協して単なる冴えない普通のオッサンになってしまったのは・・・(遠い目)。

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