教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/9 NHK ガッテン「緊急事態宣言!日本人が愛する"あの野菜"が食卓から消える日」

もやし農家が危機に瀕している

 今回は現在生産農家が悲鳴を上げていて、今後生産を続けていくのが困難になるのではないかと言われている野菜とのこと。それはもやし。物価の優等生になっている野菜だから、価格が上げられないのが生産農家にとっては負担となっているのだとか。

 まずもやしがどれだけ愛されているかと言うことで、中華料理屋でもやし抜きのればにら炒めとタンメンを常連客に出してテスト。すると言われないともやしがないことに気づかなかった客から、見た途端に「もやしが入ってない」という客まで様々。

 もやしが愛されている一番のポイントはその食感。そこで番組では20年前にやった実験を披露している。無響室でまだ顔に張りのある小野アナ(若い)がきゅうり、りんご、もやしを食べてその音を収録という実験だが、きゅうりとりんごは最初だけがシャリシャリなのに対して、もやしはずっとシャリシャリである。

 

価格が安すぎることに問題が

 そのもやしがなぜ危機に瀕しているのかをもやしの生産工場を訪ねて紹介している。まずもやしの材料であるが、様々な豆類の芽でもやしは作れるのだが、現在は一般的に緑豆を用いる場合が多い。これに水を吸わせて暗い部屋で発芽させると、一週間ぐらいでもやしを収穫できる。暗い部屋で発芽させるのは、この方が芽が急激に伸びて、この時に多くの水分を含むようになるのだという。さてここで問題なのは、もやしは現在1袋30円が相場で、200本ぐらい入っているので1本15銭なのに対し、現在緑豆は1粒1円するのだとか(完全に原価割れしている)。

     
実はこの豆を買うと家庭でももやしは作れる

 ただもやしの価格を上げるというのは難しいらしい。生産者が求めているのは10円の価格アップだが、スーパーにするともやしの価格が上がると「あのスーパーの野菜は高い」となって全体の売り上げに響く恐れがあるという。また実際に消費者に聞くと「もやしの価格が上がると困る」と言う。しかし一方で「牛肉が10円上がると?」と聞くと「まあ、そんなもの」という回答。どうももやしの価格が元から低すぎるところに根本の問題がありそうである

 ちなみにもやしがこんなに安いのは日本だけで、海外では100円~200円が相場とか。なので中国ではフカヒレと合わせたり、さらにはもやしの一本一本を開いてそこにえびのすり身を入れる宮廷料理まであるとか・・・ってことなんだが、番組はこの問題についての解決法も何も提示しないままもやしの美味しい食べ方に話を移していく(おいおい)

 

もやしの食感を生かした調理法

 まずはもやしの産地として紹介されるのが南極。なんのジョークだと思っていたら、要は昭和基地では新鮮な野菜が不足がちになるので、それを補うのに簡単に栽培できるもやしが料理に使用されているというお話。ここで登場するのが南極料理人という謎の肩書き(実際に料理人として南極に行ったらしい)の渡貫淳子氏が登場。やはりもやしに対するこだわりがあり、野菜炒めはもやしの食感がヘナヘナになるからしないとか。

 そこで登場するのがガッテン流野菜炒め。もやしがシャキシャキなのに渡貫氏が驚くという展開。ちなみにこのガッテン流もやし炒めのポイントは、もやし以外の材料をまず炒めて味付けまで済ませてから、そこに別に加熱しておいたもやしをあえるのだという。もやしは加熱で水が出ると思っている人が多いだろうが、実は加熱ではなく塩によって水分が出てしまう(つまりは浸透圧の話)のだから、なるべくもやしを塩と接触させないのがポイントだという。

 ちなみに大阪の大手食品会社(グリコとあからさまに社名が映っている)ではもやしを塩となるべく接触させないようにと考えた結果、調味料をゼリー状にしたもやし炒めの調味料を開発したとか。

 最後はもやしを使用する郷土料理と言うことで広島焼きが登場。広島焼きにはもやしは不可欠だと言うが(というか、広島焼きは大抵そばが入っているので、そこに焼きそばの具としてもやしが入っている印象なんだが)、このもやしは普通の緑豆もやしでなく、ブラックマッペと呼ばれる黒豆もやしを使用するのだとか。このもやしは細くて水分が少ないのでベシャベシャにならないのだとか。

 で、最後はゲストが広島お好み焼きを食べて終了。なんだかな・・・。

 

 最初にもやし農家が危機的状況と紹介しておきながら、それについては番組途中でどこかに飛んでしまうし、後の話も正直なところグリコのエピソードは完全に蛇足だった(多分、番組構成上必要ないのは明らかだったが、わざわざ取材に協力してもらった上に先方も宣伝意欲満々だったから削るわけにはいかなかったのだろう)。また最初の中華料理屋での実験も、これではもやしが本当に不可欠なのかどうかが今ひとつピンとこない(どうせ何も厳密な実験ではないので、気がつかなかった人まで正直に出す必要がなかったのでは)。全体的に番組の流れもあまり良くなく、構成も甘いというのが気になったところ。

 私ならむしろ、最初にもやしを利用した料理とかを紹介しておいて「こんなに愛されているもやしなんですが、実はこれが危機に瀕しているんです」と冒頭の生産農家の窮状を訴える文を出し、生産の現場を出して原価割れの状況を紹介し・・・という感じに進めて、最後に「もやしの価格について、皆さんも少し考えてあげたらどうでしょう」とメッセージを伝えて終わりにしますが。この方が起承転結がハッキリする。恐らくタイトルをキャッチーにすることを第一にした結果、番組自体の構成がおかしくなったと考える。

 

忙しい方のための今回の要点

・もやしは緑豆もやしが主流であるが、実は既に原価割れの状態であり、生産農家が危機に直面しているという。
・もやしは30円ぐらいの価格が定着してしまっているので、これを10円上げることにも、スーパーも消費者も抵抗が大きいという。
・もやしのシャキシャキ食感を生かすには、もやしを塩分と近づけないこと。実はもやしは塩のせいでベシャベシャになる。だから野菜炒めの時は、炒めて味をつけた野菜炒めに、後から加熱したもやしをまぜてやると良い。
・もやしが必需の料理が広島焼き。広島焼きで用いられるもやしはブラックマッペと呼ばれる黒豆もやし。細くて水分が少ないのでベチャベチャにならないのだという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・正直なところ私はもやしってあまり好きじゃないんですよね(笑)。野菜炒めとかもあまり得意でないので。ラーメンに入っているもやしとかは普通に食べますが、あまりもやしが多すぎると正直うんざりするという。
・またシャキシャキしすぎるもやしもあまり得意でないので、今回の番組の内容はあまりピンとこない(笑)。
というわけで今回の内容の一番の見所は20年前の小野アナかな(笑)。やっぱり若いわ。

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