教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/20 サイエンスZERO「謎だらけの原始生命体」

極限環境に生存する原始生命体

 地中深くの岩の中とか、深海の泥の中とかあらゆるところに原始生命体が存在しており、そのような生命体には生物の進化の根源を解明するヒントが潜んでいるという。

 番組では地下300メートルの洞窟に潜っているのだが、東京大学の鈴木庸平准教授によるとここで原始生命が発見されたのだという。原始生命が潜んでいるのは、地下300メートルの洞窟からさらに奥に掘り込んだ岩盤の中から取りだした地下水。ここまで水が浸みるのには1万年かかっているという。こうして汲み出した地下水をメンブランフィルタで濾過する。するとフィルタには黒っぽいゴミのようなものが残るのだが、実はこれが原始生命体だという。

 では原始生命体とはそもそも何か。まずすべての生命の共通祖先が存在し、そこから大きく3つに分かれたという。まず我々のような複雑な生命である真核生物。そしてバクテリア、さらには単細胞生物でありながら熱水噴出口などの過酷な環境で棲息するアーキアと呼ばれる3種である。で、先ほどの原始生命体は共通祖先のすぐ近くのバクテリア寄りの位置になるという。だから共通祖先の性質を色濃く残している可能性が高く、この原始生命体の生態が分かれば共通祖先の解明につながると言うのである。

 

さらに祖先に近いCPRを発見

 この原始生命体はCPR(Candidate Phyla Radiation)と呼ばれており、2015年に発見された新しい生物グループとなるという。しかしまだ培養が出来ないためにその生態が全く分かっていないのだという。

 さらに共通祖先に近い可能性があるCPRも発見されているという。それはアメリカのザ・シダーズと呼ばれるpH11の強アルカリの泉から発見されたという(とんでもないアルカリで目に入ると失明の危険があるレベルである)。ここから発見されたCPRは遺伝子が400 個しか含まれておらず(大腸菌で4000個)、生命として不十分な数の遺伝子しか持たずにどうして生きているのかは謎だという。しかしこれでも子孫を残すことが出来るのは判明しているとか。CPRは橄欖岩などから発生する水素を利用して生きているのではという推測などもあるという。

 

生命進化の常識を書き換える新発見

 また2020年1月に生命に関わる重大な発見があった。この発見により、今まで別の生命と分類されていたアーキアと真核生物が実は同一分類に属している可能性が高くなったという。

 その鍵となった生物はMK-D1。アーキアの一種で紀伊半島沖の深海の泥の中から発見されたという。試行錯誤の末にこのMK-D1の培養に成功したのがJAMSTECの井町寛之氏。12年かかって培養に成功。アーキアの培養成功は世界初だという。しかもこのMK-D1が成長すると触手のようなものを出すということを発見したのだという。ここから井町氏が考えた生命進化の仮説が、この触手によってミトコンドリアの御先祖になる酸素からエネルギーを作り出す微生物を体内に取り込んで、それが更なる進化を重ねて、真核生物に至ったのではというもの。

 別の生命を体内に取り込むというと突飛なように聞こえるが、実際に渦鞭毛虫などは藻類を体内に取り込み、その光合成のエネルギーを利用するということが確認されているという。

 

 今回は生命の起源に纏わる話。ミトコンドリアが実は後から取り込んだ別の生命だったのではという話は私も聞いたことがあったが、そういう意味だったのか。だとしたら、そこでミトコンドリアを取り込んだアーキアが動物となり、葉緑体を取り込んだアーキアが植物となった? しかしそうやって遡っていったら、人類皆兄弟どころか、サルからバクテリアまで皆兄弟と言うことになる。そんな中で○○人はどうこうとか黒人はどうこうなどと言っている差別主義者がどれだけ愚かしいかというのが痛感できる。

 

忙しい方のための今回の要点

・地中奥深くから生命の共通祖先に近いCPRと呼ばれる原始生命が発見された。これを研究することで共通祖先の生態が解明できるかも知れない。
・さらに共通祖先に近いCPRが海底の泥の中から発見されたが、それは生命として最低限必要とされるDNA数の1000よりも遥かに少ない400しか有していないが、子孫を残す能力を有していることが確認された。
・アーキアであるMK-D1の培養に成功、MK-D1が成長すると触手を伸ばすことが分かったことから、この触手でミトコンドリアの祖先を取り込んで真核生物へと進化したという生命の起源の可能性が見えてきた。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・生命の起源って、なかなかに気の遠くなる話ですよね。また番組でも専門家が言ってましたが、生命の進化はこのようなタンパク質を中心としたルートしかないのか、それとも全く似ても似つかないルートもあるのか、またはもう私たちの理解を超えた生命のあり方があるのかなどが難しい問題です。コジルリが言っていたように、実はもう我々は地球外生命と接触したのだが、その生命があまりに我々の常識を越えているために気がつかなかったなんて可能性もある。

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