教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/27 サイエンスZERO「新型コロナ第3波まっただ中!全論文解読から見えた戦略SP」

コロナ関係の論文をAIで調査して浮上したキーワード

 新型コロナの第3波で特に無策だった東京なんかがとんでもないことになっているが、コロナに関する20万本もの論文をAIで解析することで対策などを浮かび上がらせることが出来るのではないかという試み。

 まずAIが論文の関わりやキーワードを可視化したところ、湿度というのが大きなキーワードの1つとなっている。これは湿度が我々の免疫に影響しているのだという。

 湿度と免疫の関わりについて研究しているイエール大学の岩崎明子教授によると、喉のバリア機能を司る繊毛の動きが湿度で影響を受けるのだという。湿度50%では異物を活発に押し戻している繊毛が、湿度10%になるとその機能をほとんど失うという。さらにはウイルスに感染した細胞の修復にも湿度が影響するという。湿度50%と10%でマウスの気道にインフルエンザウイルスを感染させたところ、湿度50%では壊れた細胞が素早く修復されてるのに対し、10%ではわずかしか修復されていないのだという。免疫が良好に働くためには湿度40~60%が良いのだという。実際にマウスを使ったインフルエンザ感染実験でも、湿度40~60%では1/3のマウスが生存したのに対し、これ以下やこれ以上だとほぼ全滅という結果となっている。

 

軽症者でも命に関わる症状が発生する

 また感染した場合の症状であるが、全身に及ぶことが分かってきており、呼吸器の症状だけでなく100以上の症状があるという。アメリカではコロナに感染したメジャーリーグの投手が快復後に心筋炎を患っていたということが判明したという。心筋炎を起こすと心臓の働きが悪くなるので、気をつけないと突然死の可能性があるという。特にアスリートのように心臓に負荷がかかる場合は非常に危険であるという。実際にアメリカで新型コロナに感染して無症状もしくは軽症だったアスリート26人の中で4人が心筋炎を患っていたことが分かったという。だからコロナが回復したとしても運動には注意する必要があるという。

 

ネアンデルタール人がコロナと関連するわけ

 またAIの調査で浮上してきた意外なキーワードがネアンデルタール人。実はこれが重症化のリスクと関係しているのだという。マックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ教授によると、新型コロナで重症化した人のDNAを見たところ、ネアンデルタール人から受け継いだ特定の遺伝子を持っていることが判明したのだという。ホモ・サピエンスと世界に拡散する過程でネアンデルタール人と混血したことが分かっている。ヨーロッパやアジアの人のDNAは2%がネアンデルタール人に由来するという。ある遺伝子の一部がネアンデルタール人のパターンと一致している人が重症化しているのだという。この遺伝子の周辺の遺伝子を調べたところサイトカインに関する遺伝子があり、新型コロナではサイトカインが暴走して重症化するのではと推測されるという。

 ではこの遺伝子の由来であるが、調べたところ南アジアでは30%以上の人がこの遺伝子を持つのに対し、東アジアではほとんどいないことが判明したという。コレラによる炎症性腸疾患などに対して有効であったこれらのの遺伝子が、新型ウイルスに対しては重症化に働いているのではとペーボ教授は推測している。というわけで、もしかしたらこれが以前からいわれていたファクターXの可能性があると言うわけである。

 

ワクチンについて

 最近注目のワードはワクチン。今回ワクチン開発が非常に素早く行われたのはmRNAワクチンが採用されたためだという。これらはウイルスのタンパクの設計図であるmRNAを使用するものであり、遺伝子情報で作れるので非常に開発が早かったのだという。ただしmRNAは非常に壊れやすいため、-70度などで保管する必要があるという。なお現在のところ90%の有効性があったとされている。ただしまだ未知なのは副作用で、アナフィラキシーが発生したという報告もあり、体質によっては危険性があることは否定できない。

 またインフルエンザなどでは感染を防止するために鼻の粘膜に噴霧して抗体を生じさせる薬の開発もなされているが、この手法を新型コロナに採用することも検討されているという。

 

 以上、新型コロナに関する研究最前線について。ネアンデルタール云々なんてのは興味深いところである。ただこれで「やはり日本人は重症化しないんだ」と浮かれたら、変異種などで痛い目にある可能性があるので、やはり緻密な感染拡大防止を行っていくしかない。

 なお若者は重症化しないのだから放置しておけば良いという馬鹿を見かけるが、若者でも体質によっては重症化することもあるし、さらに後遺症が発生する例が報告されている。また若者が症状が軽いからと出歩くとそれはウイルスを撒き散らして感染を広げることになる。結局は血道に隔離策を取るしか有効な策はないわけである。

 

忙しい方のための今回の要点

・免疫系には湿度が重要。湿度が50%だと喉の繊毛が異物を排除できるが、10%になるとほとんど働かなくなる。またウイルスにやられた細胞の再生も湿度が10%だとほとんど進まない。
・また新型コロナの軽症者でも心筋炎を発症する例があることが分かってきた。心臓に負荷をかけることで突然死につながりかねないので、快復後も運動には注意が必要であるという。
・症状の重症化にはネアンデルタール人から受け継いだDNAが影響している可能性があるという。これらの遺伝子はサイトカインの働きに影響していると推測されるという。
・現在のワクチンはmRNAワクチンが採用されたので開発が早かった。ただしこのワクチンは低温で保管する必要があるし、また副作用についてはまだ不明な点が多い。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・日本政府はワクチンさえ出ればもう安心でオリンピックなんて甘いことを考えていたようだが、そんな簡単なものでないのは明らかである。変異種に現行ワクチンがどれだけ有効かはまだ分からないし、今後も新たな変異種が登場する可能性は高い。またワクチンの安全性もまだ分からない。何にしろ、完全に事態が沈静化するのにはまだ時間がかかりそうだ。

次回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work

前回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work