教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/14 BSプレミアム ヒューマニエンス「"心臓"心が宿る もう一人の私」

心臓は単なるポンプではなかった

 心臓(heart)は昔から心がそこに宿ると考えられていたが、最近の科学によって人間は脳で考えていると言うことになり、心は脳に宿っていると言うことになった。結局は心臓は脳に支配された単なる血液循環用のポンプに過ぎないと思われるようになった。しかし実はそうではないかもという話。

 心臓移植手術を受けた患者が性格や好みがガラッと変わったという話がある。1999年に発表された論文では、アメリカの心臓移植を受けた患者23人の追跡調査の結果、食生活が全く変わった女性がいる。彼女はそれまでは健康的な食事を行っていたのだが、手術後はファーストフードに興味を持つようになり、チキンナゲットなどを好むようになったという。そして実はチキンナゲットは心臓のドナーの好物だったらしい。この論文によると10人がそのような好みの変化が起こったという。

 中には信じがたい事例も報告されている。心臓移植を受けた少女が見知らぬ男に殺害される夢を頻繁に見るようになったのだが、実はドナーとなった少年は殺人の被害者であり、少女の描いた似顔絵からドナーを殺害した犯人が捕まったというのである(ホンマかいな?)

 

心臓が脳をストレスから守る

 心臓は脳の命令に従うだけと考えられていたのだが、実はそうでもないという関係が見えてきているという。日本医科大学の柿沼由彦教授によると、脳から情報が心臓に行くのと心臓からの情報が脳に行くのでは8~9割が心臓の情報を脳に伝えているのだという。心臓は脳がストレスを感じすぎないようにするとか、鬱を防ぐ効果があるのだという。脳がストレスで交感神経から心拍を上げるように心臓に指示すると、心臓は迷走神経を通して脳を落ち着かせることで脳は過度のストレスを感じずに済むのだという。つまりは何事にも動じない者を「心臓が強い」と言うが、それはそのまんまということか。

 脳にストレスが起こると軽い炎症が発生するのだが、それに対して心臓からアセチルコリンが分泌されて、それによって脳が落ち着くのだという。痙攣の場合も心臓での脳に対する情報を増やしてやると起きにくくなることも分かったというのである。脳と心臓は主従関係と言うよりもパートナーだというのである。

 

独立王国の心臓

 さらに心臓は一種の独立王国だという。まだ身体の形もハッキリしていない妊娠6週間で既に胎児の心臓は鼓動を始めている。心筋細胞を培養すると、15日目ではまだバラバラで動いている心筋細胞が、17日目には全体が連動して拍動するようになるという。身体の細胞が常に新陳代謝で入れ替わるのに対し、心臓を形成する100億の細胞は死ぬまで置き換わらないのだという。さらに心臓は環境に合わせて変化するという。マラソンランナーはトレーニングする内に疲れないようになってくる。これは心臓が大きくなって心室の壁が薄くなることで、一回の鼓動で大量の血液を送り出せるようになって心拍数が減るのだという。ちなみに重量挙げのような競技の場合には逆に壁が厚くなるという。また心臓の機能が落ちてくると、それを補うために心臓が拡張するので、心肥大を調べることで心機能をチェックできるというわけである。

 また心臓の動きが他者と連動するという話もあるという。母親が子供を抱いている時に、母親にストレスをかけて心拍が上がると子供も心拍が上がり、逆にストレスを緩和して心拍が下がると子供も下がるという現象が起こるという。メカニズムは不明であるが、電磁波などが影響しているのではという仮説もあるようだ。近しい関係であるほどこのような現象が起こるとか。このような関係をエントレイメントと言うそうな。

 

心臓が壊れる現象と心臓の再生

 また心が傷ついた時に「ハートが壊れた」などと言うが、実際に感情によって心臓が壊れることがあるそうな。ブロークンハートシンドロームという症状があり、これは心室の筋肉の一部が機能しなくなる現象(たこつぼ心筋症)が発生し、血液を上手く送り出せなくなるのだという。症状としては急性心筋梗塞と類似したものになるという。震災の直後にはたこつぼ心筋症の患者が増加することが報告されているという。となると、コロナ禍の現在はかなり危険なようである。なお独居は心臓に良くないということも分かっているとか。

 最後は心臓の再生に取り組む研究。東京医科歯科大学の石野史敏教授と李知英准教授はES細胞を用いて完全な形を持つ心臓を再生したというのである。出来上がったのは心臓オルガノイドと呼ばれる直径1ミリほどの筋肉片。しかしここに既に心室や心房が形成されており、拍動も行っている。細胞が自らの持つ情報に従って自動的に形態を形成するのだという。これが進化すれば心臓を作って移植も可能となり得る。またこれを使って心臓に対して影響を与える薬物の研究なども可能となるという。

 

 最後の心臓を形成する話は驚いた。目下人工臓器製造の研究がなされているが、やはりどうしても臓器の形を形成させるのが難しく、意図的に細胞を配置したりしているが、この例では細胞にお任せで自己形成をさせている。これがあらゆる臓器で可能となれば、培養だけで移植用の人工臓器を製造することが出来るようになり、まさに夢の技術である。

 それにしても心臓が記憶を持つというのは眉唾だが、心臓も内分泌器官であるということを考えると、心臓移植によって嗜好などに影響が出るという可能性はあるという。ただこれって、死刑になった殺人犯の心臓を移植したら、患者が殺人嗜好者になるなんていうホラーのネタそのものである。正直なところ、私にはまだ半信半疑である。

 なお心臓が電磁波でリンクを取るという仮説が出ているが、これが本当なら、外部の電磁波が健康状態に影響を与えると言うことになり、まさに「電波」で人を病気にしたりするという可能性も出てくる。しかし下手にこういう話が出てくると、既に悪い電波によって自分が病気にされようとしているとと考えているいわゆる「電波な人」がその考えに確信を得てしまう可能性もあり。これもキチンとした研究をしてもらう必要がありそう。ちなみに現在自分がどこかから送られてきた電波によってコントロールされていると考えている人は、その症状には精神医学の観点から病名が付いてますので精神科へ。

 

忙しい方のための今回の要点

・心臓は脳にコントロールされたポンプに過ぎないと考えられていたが、どうやらそうではないと分かってきた。
・心臓移植を受けた者は、ドナーの影響で性格や嗜好が変わるという報告がある。
・また脳と心臓とのやりとりは心臓から脳に送られる情報が8~9割だという。
・ストレスを感じた脳が交感神経を通して心臓に心拍数を上げるよう指令をした時、心臓からは迷走神経を通じて脳を鎮めるように働くという。また心臓は鬱になりにくくなる作用を果たすという。
・心筋細胞は生まれた時の100億の細胞が死ぬまで変わらない。そして環境に合わせて心臓の形態は変化するという。
・また強度なストレスに晒されることで、心臓の機能が阻害されることがあるという。これをブロークンハートシンドロームといい、心筋の一部の働きが阻害されて血液を送り出せなくなるたこつぼ心筋症などが発症するという。
・最新研究ではES細胞を用いた細胞の自己形成で、心臓の構造を持った心臓オルガノイドの形成に成功した。さらに研究が進むと自動的に人工心臓を作り出せる可能性がある。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・どうやら心臓が強い奴は度胸があってストレスに強いということは本当のようであるが、それをさらに超越した奴は心臓に毛が生えているのかも確認して欲しいところ(笑)。ちなみに安倍の心臓には毛が生えているとのもっぱらの噂である。

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