阿蘇の巨大カルデラの秘密
九州を代表する観光地でもある巨大カルデラ火山・阿蘇。今回はその阿蘇について様々な観点から専門家が伝える。
まず阿蘇は大噴火で誕生したわけだが、その時の噴出物は北海道で15センチも降り注いだという。外輪山の南北は25キロもあるという巨大カルデラである。かつてはここに巨大な山があったと推測されていたのだが、現在ではそんなに高い山はなかったというように考えられるようになっていると言う。
現在の阿蘇はカルデラ内に5万人もの人が住んでいる。中央部には様々な噴火口の跡がある。草千里や米塚などもかつての噴火口の跡だという。現在も噴火を続けているのが中岳だが、その火口には湯だまりと呼ばれる湖となっている。しかし一度噴火が起こるとこの湖は干上がる。この火口湖は直径300メートル、深さ35メートルにもなるという(かなり大きい)。なおこの湯だまりの水はマグマから出ているのだという。単純に雨水が流れ込むだけだとこの温度(50~90度)ではすぐに蒸発してしまうので、実際には雨水が流れ込む量の8倍の水が供給されているという。
阿蘇はかつては巨大なカルデラ湖だった
なお阿蘇は9000年前までは巨大なカルデラ湖だったと考えられている。それが外輪山の切れ目となっている立野火口瀬から流れ出したと推測されている。昔、神様がここを蹴破ったという神話も残っているという。熊本地震ではこの地域が大崩落し、阿蘇大橋が崩落するという被害が生じた。ここには活断層が存在することが判明したという。
なお地震波の測定による地下構造の調査の結果、阿蘇の地下にはマグマが上がってきていることが分かったという。九州はこの上昇するマグマのエネルギーで引き裂かれているという。この辺りの話は以前にNHKスペシャルのジオジャパンでも登場している。
なお阿蘇は豊富な水源でもある。あちこちで地下水が湧いているが、これは火山に降った雨が地下に染み込んだものである。これらが九州の河川の水源となっており、阿蘇は九州の水瓶だという。
人の手が加わることによって保たれる草原
また阿蘇の広大な草原は人の手によって維持されてきたものだという。定期的に行われる野焼きによって森林化が防がれてススキなどが繁茂する草原となっている。このような人の手によって維持されている草原を半自然草原と呼ぶ。明治時代には国土の13%を占めていたが、現在は1%まで減少しているという。阿蘇の草原は放牧の起源が1000年前に記録に既にあることから千年の草原と呼ばれている。しかし実はさらにその起源は古いことが分かってきたという。土中に含まれるプラントオパールの分析結果、1万3000年前の縄文時代まで遡ることが分かった。ちなみに野焼きをしないと6年で森林に戻り出すとのこと。
縄文時代の野焼きは、それを行うことによって草が繁茂して狩猟に適した環境になるからとのこと。さらに野焼き文化は農耕文化につながるものであったともいう。
またそのことによる独自の生態系も存在するという。クララという草は苦味があるために牛は食べない。牛がクララ以外の草を食べることでクララは十分に日を浴びて成長することが出来るのだという。そしてそのクララでのみしか繁殖できないのがオオルリシジミという絶滅危惧種の蝶。この蝶の幼虫はクララのつぼみや花しか食べられないのでそこに卵を産み付けるのだという。そのためにクララがつぼみをつける時期にだけ現れるのだという。なお野焼きの時にはオオルリシジミの幼虫は土に潜って生き延びているのだという。
以上、阿蘇について。人の手が加わることによって自然が保たれているという観点が非常に興味深いところ。なお私は阿蘇は何度か訪問しているが(今年、初めて念願の火口見学を果たした)、その度に「ここは本当に日本なのか?」という感覚を受けている。番組では「阿蘇は日本の原風景」と言っていたが、私にはむしろ異国の風景のように見えるのだが。
忙しい方のための今回の要点
・阿蘇は南北25キロもの巨大カルデラであり、多くの火口の跡が残っている。
・阿蘇の巨大カルデラは9000年前まではカルデラ湖だったという。
・カルデラ湖の水は立野火口瀬から流出した。なおここには活断層が見つかっている。
・また阿蘇の地下には巨大なマグマがせり上がっており、この力で九州は南北に引き裂かれている。
・阿蘇の草原は火の手による野焼きによって維持されてきた。放置したら6年で森林に戻り始めるという。
・この野焼きは1万3000万年前から行われてきたと考えられており、これが農耕文化にもつながったのではないかと推測されている。
・また野焼きをすることによって確立する独自の生態系も存在している。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・阿蘇は豊富な地下水を持つと言いますが、確かにあちこちで清水が湧き出しています。また地下水があり、火山があるということで、阿蘇周辺は温泉も多く存在します。温泉王国九州を支えているのも阿蘇だったりする。九州はよい温泉が多数あるし、飯も美味いし、非常に良いところです。私もコロナが落ち着いたら九州観光にまた行きたい。
次回のサイエンスZERO
前回のサイエンスZERO