教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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1/24 TBS系 世界遺産「世界初!アルプスを越えた山岳鉄道」

アルプスを越える鉄道

 今回の世界遺産は19世紀の半ばに建設されたアルプス越えの山岳鉄道。オーストリアのゼメリング鉄道である。


『世界遺産』1/24(日) ゼメリング鉄道 〜 世界初! アルプスを越えた山岳鉄道【TBS】

 1857年に開通したこの鉄道は当時は世界で最も高いところを走る鉄道で、橋とトンネルを駆使した山岳鉄道の草分けだという。その路線は150年の間ほとんど変わっていないとのこと。オーストリアのウィーンとイタリアのトリエステを結ぶ鉄道路線の中で、峠越えの42キロの区間が世界遺産だという。

 

橋とトンネルを駆使して高度を克服

 アルプスの北側のグログニッツがゼメリング鉄道の出発点。かつては馬車で1日がかりだった峠を列車はあっという間に越えてしまう。この鉄道で驚きなのは、山岳鉄道にもかかわらずほとんどが複線であるということ。このために輸送力が高い。また高さを克服するためには線路を迂回させながら登っていく。1000メートル走って25メートル登るペースだという。そのために多くのアーチ橋が存在する。

 16ある高架橋は景観を意識した石造りの美しいものである。また断崖の中を通り抜けるトンネルもある。ヴァインツェッテルの大岸壁は、当初は岸壁沿いを線路を通すつもりだったのだが、建設途中に大崩落事故が起きて14人が犠牲となり、やむなくコースを変更して断崖の中をトンネルで通すことにしたのだという。なおダイナマイトが存在しなかった時代なのでトンネルは手で掘ったというから大変な作業である。

 この鉄道建設は着工からわずか6年というとんでもないペースで完成している。無数にある橋の中でも高さ46メートルのカルテ・リンネ橋は二重アーチ構造の美しい橋である。重機の存在しない時代にこの石造りの橋は2万人を動員して積み上げたという。150年経ってもこの橋は現役なのである。

 

ハプスブルク帝国の大動脈も今ではリゾート路線

 40分で峠を登り切ると、最高点のゼメリング駅に到着する。この駅は当時は世界最高地点の駅だったという。かつて蒸気機関車の時代には急なカーブを曲がるために機関車の車輪は車軸に指2本分の遊びを持たせているという。この遊びで車輪がカーブで左右に動くことで、カーブでの脱線を防ぐ構造になっていたのだという。

 この鉄道が建設されたのはハプスブルク帝国の大動脈としてだと言う。当時のハプスブルク帝国の版図はトリエステまで及んでおり、内陸のウィーンと交易港のトリエステを結ぶためにアルプス越えの鉄道が必要だったのだという(だから山岳鉄道にもかかわらず輸送力の大きい複線にしているのだろう)。今でもイタリアのトリエステの港に当時の線路の跡も残っているという。

 今ではゼメリング鉄道はウィーンの人々がアルプスにリゾートに赴くためのラインとなっている。ゼメリング駅を見下ろす丘にはホテルや別荘が建ち並んでいる。ここのホテルにはフロイトやマーラーなども宿泊したことがあるという。現在もゼメリングは格好のスキーリゾートなのだとか。

 

忙しい方のための今回の要点

・19世紀半ばに建設されたゼメリング鉄道は、ウィーンとトリエステを結ぶ鉄道の一部で、アルプス越えの42キロが世界遺産となっている。
・この鉄道は建設当時は世界で最も高いところを走る鉄道だった。高度を克服するために多くのトンネルと橋が建設されているが、これらはダイナマイトも重機もない時代に人力で建設された。それでも大勢を動員して何と6年で建設している。
・この路線の建設目的はハプスブルク帝国の大動脈としてだった。内陸のウィーンとハプスブルク帝国の版図内の交易都市トリエステとの間の物流のために建設された。そのために山岳鉄道にも関わらず複線で輸送力が強い。
・今ではウィーンの人々のアルプスリゾートの足となっている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・「当時は」世界一の高さと言っていたところを見ると、今の世界一は以前に登場したスイスの山岳鉄道でしょうか。それにしてもあっちはいかにも観光鉄道という雰囲気でしたが、こっちの方は確かに普通に幹線のイメージがありますね。

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