教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/4 BSプレミアム ヒューマニエンス「"スリル"限界を超える翼」

人はなぜ「スリル」を好むのか

 恐怖を恐れる意識がある中で、一方で人間はスリルを求める行動もする。この相矛盾する人間の感情は実は人間の進化が絡んでいると言う話。

 実はスリルを楽しめる人とそうでない人では身体の反応が明確に変わるという。番組ではジェットコースターが大嫌いな人と大好きな人とで心拍数の変化などを調べているが、嫌いな人では心拍数が上がりっぱなし(これはまさに「逃げたい」という気持ちなのだとか)なのに対し、好きな人では最初は上昇するが途中から下がり始めて一番怖いはずのところではリラックスした状態になっていたとか。

 

スリルに病みつきになるメカニズム

 人間が恐怖を感じている時に脳内では特定の部位が活性化しているという。まず恐怖を感じて臨戦態勢を取らせる扁桃体。しかしこれに加えてドーパミンを分泌する線条体も活性化するのだという。ドーパミンは快感物質である。スリルを楽しむ鍵はこのドーパミンだという。スリルを楽しめない人はアドレナリンとドーパミンが同時に分泌されてそのままなのに対し、スリルを楽しめる人はやはり最初は両方が分泌されるが、その後に「安全だ」と判断することでアドレナリンの分泌が低下するのでドーパミン優位となり、さらに安心することでドーパミン分泌はさらに増加、結果としてドーパミンが過剰になって「快感」となるらしい。これは病みつき性があり、薬物中毒患者はアドレナリンが出るので、スリルを与えることでアドレナリンを分泌させる治療法というものもあるとか。

 スリルは病みつきになると言うこと。まあ分からないでもない。私の日常にはスリルと言うほどのものもないが、山城探索などは常に「道に迷わないか、野獣と遭遇しないか」とかなり緊張状態であり、それが目的地に無事に到着した時に一気に緩和されて快感を感じるってのはある。

 スリルというものは人間の進化が絡んでいるという。樹上生活を繰り広げてきた人類の祖先にとって、その樹上から落下するというのはまさに天国と地獄(地面には危険な敵も多い)であり、落下に対する恐怖は人間が根源的に持っているものである。しかしそれにも関わらず地上に降りたチャレンジャーがいる。その連中が地上で食べ物などの褒賞を得ることで地上生活をするようにななった。それがまさにスリルだという。なお人間の根源的な恐怖は高さだけでなく、ヘビというものもあるというのはなかなか興味深い。

 

スリルに対する対応には2タイプが存在する

 なお番組では危険欲求尺度なるもののテストを行っており、要は危ないこととか新しいことと言った刺激を好むかを判断するものであるが、このテストをすると見事に正規分布になってハイ・スリルシーカーとロー・スリルシーカーに分かれるという。なお番組出演者は織田裕二氏を始めとして見事に全員ハイ・スリルシーカーだったのは笑えるところ。やっぱり「テレビに出るような人」はそういう志向のようだ。

 そして世の中はこの両タイプがいることが意味があるのだという。番組ではロープ一本でぶら下がりながら橋梁のメンテナンスなどを行う特殊高所技術者の会社を取材しているが、この会社の社員は見事にハイ・スリルシーカートロー・スリルシーカーがほぼ同じ数いたという。ハイ・スリルシーカーの者は高さを怖がらないが、安全にするためのルールを守らない傾向があるという。どうしても危険の見積もりが甘くなるのだという。だからこの会社では現場主任になる者には落下の経験をさせて、正しく恐怖を認識できるように教育しているという。

 

両タイプの存在が人類の進化を促した

 つまり人類の祖先が地上に降りた時に、ハイ・スリルシーカーが多数犠牲になったが、それでも食料などを確保できたのを見て、他の者も降りて来たのだろうという。ハイ・スリルシーカーが道を拓き、ロー・スリルシーカーがそれを見ながら改善を続けて適応するのだという。こうして危険な場所が安全な場所に変わるのだという。

 ハイ・スリルシーカーはストレス耐性が高いという特徴があるが、刺激がない環境に耐えられず、ネガティブ面が強いと犯罪に向かうこともあるという(ギャンブルなどの刺激を求めがちだという)。これに対してロー・スリルシーカーは地道にコツコツ積み上げることが出来るが、恐怖を高く見積もりすぎ、ストレス耐性が低いということがあるという。ん、私は恐怖を高く見積もりすぎてストレス耐性が低いのに、刺激がない環境には弱いぞ。もしかして両者の弱点ばかりを併せ持っているのか?

 なお恐怖の克服方法としては副交感神経を活性化するために「声を出す」「息を吐く」なんてのが有効とか。そう言えばこんな時は深呼吸は基本だ。

 

 以上、人間にはチャレンジャーと周到な者の両方がいて世の中上手く行くとうお話。それはごもっともである。チャレンジャーばかりだったら人類はもう絶滅してるし、全員がリスクを取らなかったらまだ樹上の猿だろう。

 まあスリルというのは「安全である」という前提がしっかりしているから楽しめるものであり、そこが揺らぐと単に普通の恐怖になってしまう。だから高所やジェットコースターを楽しめる人は機械などを簡単に信じられる「楽天的で信じやすい人」だと私は感じている。私のような「疑り深い者」は安全装置や足場などの機械類を根本的に信じておらず、常に不測の事態は起こりうるものと考えているので、「安全」を確信できないので怖いというところがある。だから私のような者が飛行機などに乗る時には「もしもの時はその時で諦めるしかない」と開き直ることがどうしても必要となる。

 

忙しい方のための今回の要点

・ジェットコースターを楽しめる人とそうでない人では心拍数の変化が違うという。嫌いな人は心拍数が上がりっぱなしなのに、好きな人は途中から低下してリラックス状態になる。
・人間が恐怖を感じた時には扁桃体から臨戦態勢を取らせるためのアドレナリンが分泌されると共に、線条体からドーパミンも分泌されるという。しかし安全を確信するとアドレナリンの分泌が低下するためにドーパミンが過剰となり、これがいわゆるスリルの快感と考えられるという。
・テストを行うとスリルを好むハイ・スリルシーカーとスリルを嫌うロー・スリルシーカーに二分されるという。ハイ・スリルシーカーはストレス耐性が高く恐怖心が少ないが、その分周到さにかける。結局は人類の歴史はハイ・スリルシーカーが道を拓き、ロー・スリルシーカーがそれを見ながら改善して安全性を高めることで進化をしてきたと考えられるとのこと。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・ハイ・スリルシーカーは周到性にかけるというのは実際にそうだと思います。いわゆる恐怖を余り感じない者は装備などに無頓着になって、結果としてそれが原因で命を落とすこともあるなんて言いますね。
・だけど私自身を考えていると、間違いなくロー・スリルシーカーであるはずなのに、細心さには欠けており退屈には弱いですね。これは間違って進化した人類の末裔なんだろうか?

次回のヒューマニエンス

tv.ksagi.work

前回のヒューマニエンス

tv.ksagi.work