教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/9 テレ東系 ガイアの夜明け「独占!ガンに立ち向かうニッポンの最新技術」

日本製の手術用ロボットが始動

 ダヴィンチの独壇場だった手術用ロボットの世界だが、今回特許が切れたことで続々と他社の参入が始まっているという。その中で医療用ロボット「ヒノトリ」開発を発表したのが川崎重工である。川崎重工は以前より産業用ロボットのノウハウがあったことからこの業界に参入したという。

 川崎重工が医療用ロボット開発のために立ち上げた新会社メディカロイドで開発の陣頭指揮を取ったのは、川崎重工で産業用ロボットのシステム開発に携わっていた北辻博明氏。1年に1台のペースで試作機を作り上げ、ついに5年でヒノトリの開発に至った。

www.medicaroid.com

メディカロイドHP

 12月4日、神戸大学の国際ガン医療・研究センターにヒノトリが搬入された。医学部長であり、ヒノトリの開発にも携わってきた藤澤正人医師が初手術を担当することになる。手術が行われるのは70才の前立腺ガンの患者。12月14日手術当日となる。手術開始から1時間で前立腺に達する。前立腺を尿道から切り離して摘出をする。モニター越しに祈るような気持ちで経過を眺める開発者達。手術は最後の一番の難関である尿道の縫合に向かう。藤澤医師の細かい手の動きに追随するヒノトリ。直径1センチの尿道を10回縫合して手術は無事終了する。ヒノトリの開発が結実した瞬間だった。患者も無事に退院となった。

 その頃、北辻氏は次の課題に取り組んでいた。目下のところヒノトリの手術が出来るのは泌尿器科の領域に限られているが、これを胃がんなどの他の手術に適用することの検討を始めていた。しかしテストをするといきなりアーム同士が衝突するトラブル発生。泌尿器と対象の位置やサイズが違うことから、アームのコントロールのプログラムが上手く作動しなかったのだという。早速川崎重工から駆けつけたプログラマー軍団が突貫作業でプラグラム改良に挑む。

 そして2月3日、愛知県の藤田医科大学病院ではダヴィンチのスペシャリストである宇山一朗医師が待っていた。彼は既に訓練用のヒノトリを導入してテストをしていたのだという。胃がんの手術への対応を宇山医師に確認してもらう。夏頃には胃がんの手術への適応を目指すという。

 

新たなガン治療法・光免疫療法

 一方、新しいガン治療の試みも始まっている。がん細胞に光を当てて治療するという光免疫療法である。この治療法を生みだしたのは小林久隆氏。レーザー光と薬剤を組み合わせ、まずがん細胞に集まる性質を持った薬剤を投与し、そこをめがけてレーザー光線を照射。すると薬剤が化学反応を起こしてがん細胞だけを破壊するのだという。がん細胞を狙い撃ちにするので副作用が非常に少ないのが特徴である。さらに破裂したがん細胞の情報を免疫細胞が取り込むので、ガンに対する免疫機能が向上するのだという。

 2013年から小林氏の研究の支援を行っていたのは楽天の三木谷氏だという。三木谷氏は楽天メディカルという会社を立ち上げて光免疫療法の承認を厚生省から取ったhttps://rakuten-med.com/jp/

 そしていよいよ最初の治療が始まることとなった。患者は喉に出来た3度目のガンと戦う50代の女性。10年前に咽頭ガンを患い手術を行ったが4年後に再発、手術や抗がん剤の治療を続けたが2年前にさらに新たなガンが見つかったのだという。現在光免疫療法で治療が認められているのは頭頸部のガン(首から上で脳や眼球は除く)で、再発などで手術が出来ない患者が対象だという。

 1月14日、国立がんセンター東病院で彼女の治療が始まった。光に反応する薬剤を投与されたので布を被って手術室に入る患者。患部が広いために3カ所同時に光を当てるという。保護眼鏡をかけた医師達が3方向から光を当てる。この治療法はスピード承認された代わりに有効性などのデータを報告する必要があると言う。つまりはまだ臨床実験のようなもののようであるらしい。光照射を5分行って治療は終了である。

 治療から2週間後、赤く盛り上がっていたがん細胞は消滅していた。今後さらに経過を観察していく。春には全国20カ所で治療を受けられるようにするという。現在、胃がんや食道ガンへの適用を目指しているという。

 

 ダヴィンチについては、なぜ産業ロボットの技術に秀でた日本でこれが作れないのかと以前から疑問を持っていたのだが、どうやら特許の絡みだった模様。特許が切れたことで他にも参入してくる会社がありそうなので、競争によって価格が低下すると共に多くの病院に普及していくことになりそう。そもそも手術ロボットは内視鏡手術などを確実に行うための装置なので、そうなれば患者の身体的負担が大幅に減少することが期待できる。もっとも医師の方はすべてがこの機械に対応できるわけではなかろう。スーパードクターなどと言われて自分の手先の感覚に頼ってきた医師の場合、かえって手術しにくいということになりそうだが、ゲーマー世代の若い医師はむしろ対応しやすいかもしれない。これがさらに進化したら、最終的には遠隔手術とか、AIを応用した自動手術なんてところまで行くだろうと思われる。僻地医療などのことを考えると期待が高い。

 光免疫療法については説明を聞いた限りでも私はまだ半信半疑なところがある。もっとも試験的とはいえ厚生省の認可が下りたと言うことは出鱈目ではないのは間違いない。後はどの程度の有効性があるかである。また全てのガンに適用可能という手法ではないと思われるので、どれだけのガンに対象を広げられるかということもあろう。化学物質に光を当てて反応させて細胞を殺させるというところは問題ないだろうと推測するので、恐らく鍵はあらゆる種類のガンに反応する薬剤を揃えられるかというところだろう。恐らくガンの種類によって用いる薬剤は変わることになると推測される。

 

忙しい方のための今回の要点

・手術用ロボットダヴィンチの特許が切れたことで、各社が参入してきた。その中で産業用ロボットを手がけてきた川崎重工が、手術用ロボット「ヒノトリ」を開発した。
・ヒノトリ開発用に川崎重工が立ち上げた新会社・メディカロイドで5年の歳月で開発された。
・今年の12月、神戸大学で初めての実際の手術が行われて成功した。なお目下のところは泌尿器科でしか使用出来ないので、今後は胃がんの手術などにも適用できるようにプログラムなどの改良を行っている。
・一方、がん細胞に反応する薬品を投与してから、れーざー光線を当てることでがん細胞だけを殺す光免疫療法での実際の治療が始まった。
・この研究は楽天の三木谷氏が支援しており、新たに立ち上げて楽天メディカルという会社は頭頸部の手術が出来ないガンに限るという条件で厚生省からの認可をとることができた。
・早速三度のガンに苦しめられている患者に治療を適用。目下のところはがん細胞は死滅した模様で経過を観察しているところである。
・光治療法も今後は胃がんや食道ガンへの適用を目指すという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・治療法のないガンに対して新たな治療法が提供されるということが大きいですが、もう一つのポイントは患者に対する肉体的負担が小さいということです。そうなると体力の衰えた高齢者などにも治療が可能となりますし、ガン患者の社会復帰も早まります。是非とも技術の発展を願いたいところ。

次回のガイアの夜明け

tv.ksagi.work

前回のガイアの夜明け

tv.ksagi.work