教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/11 BSプレミアム ヒューマニエンス「"ウイルス"それは悪魔か天使か」

ウイルスと細菌の違い

 今、コロナの流行で話題となっているウイルスだが、果たしてそもそもどういう存在なのか、そしてそれは人間にとって敵なのか。しかしウイルスについて研究していくと、実はそれは人間にとって単純に敵というわけではないのだという。

 まずよく混同されるウイルスと細菌であるが、違いは細菌は自分自身で増殖が可能であり一個の生命として存在しているのに対し、ウイルスは細胞に取り付いてその増殖機構を利用することでしか増殖できない。だから大きさも細菌の1/10~1/100と小さく、光学顕微鏡で見ることは出来ない(だから野口英世は黄熱病の原因ウイルスを発見できなかったのだが)。自身が増殖能力を持たないことから、生命の定義としてはウイルスは生物として定義されていない。だからウイルスを殺すことは死滅ではなくて、不活化というのだという。

 

ウイルスが自然界のバランスを保っている

 しかし自然界においてウイルスが非常に重要な働きをしているという報告がある。自然界にはいわゆる生態系のピラミッドがあり、頂点に大型捕食動物がいて、その下に小型動物、さらに下には動物プランクトン、そしてそれよりもさらに小さい植物プランクトンがいる。ウイルスはその下にまさに計測不能な数存在することになるという。

 このバランスが崩れた状態の一つが赤潮である。赤潮は特定の植物プランクトンの異常増殖で発生し、赤潮が発生することで上位の生物の棲息も困難になる。しかしこの赤潮が自然収束する過程ではウイルスが非常に重要な働きをしているという。赤潮を発生させている植物プランクトンにウイルスが感染し、これらを死滅させることで植物プランクトンの数が減少し、そして赤潮が収束するのだという。つまりは生態系のバランスをウイルスが保っているのである。

 

健康な人の体内にもウイルスが共生している

 そもそもウイルスは生物に敵対するために存在しているわけではない。ウイルスは生物の細胞に取り付かないと増殖できないわけであるから、その生物を発病させて死に至らせたらウイルスも運命を共にすることになり、これはウイルスとしては戦略が失敗したことになる。だからウイルスは本来は特定の生物と共存共栄の形を取っていることが多い。そのような関係にある生物は自然宿主であり、そこではウイルスは特段の悪さはしない。たとえばインフルエンザウイルスは水鳥などの消化器官に存在することが分かっており、水鳥に対しては別に害はなさない。しかし人間などが広域に移動するようになり、そのウイルスのテリトリーに踏み込んだことで人間がそのウイルスに感染し、ウイルスは人間の体内という新たな環境に適応できずに時には宿主を死に至らしめてしまうのだという。実際に近年の研究では健康な人体にも少なくとも39種のウイルスが共存していることが分かっている。主要な臓器に各種のウイルスが存在し、例えば脳内でさえ8種類のウイルスが見つかっているという。大半はヘルペスウイルスであり、普段は特に問題を起こさないが、免疫力が低下した時などに悪さをするウイルスも存在するという。なおこのウイルスが体内でどのような役割を果たしているかはまだ不明であると言う。

 

ウイルスが人類の進化を促した

 さらに実は人類の進化においてウイルスが重要な役割を果たしたという報告が近年になされて、世間に衝撃を与えた。人類を始めとする哺乳類の大半は体内で子供を育てる胎生であるが、このために重要な器官である胎盤の生成には、人類の祖先がかつてウイルスと取引をしたことが大きく影響しているのだという。東京医科歯科大学の石野史敏教授によると、胎盤を形成する上で重要なPEG10という遺伝子から、レトロウイルス固有の遺伝子パターンが見つかったのだという。つまりこの遺伝子は1億6600万年前にレトロウイルスから取り込まれたものであり、それが子孫に受け継がれる内に胎盤を形成するための遺伝子として機能するようになったのだという。実際にマウスの実験でPEG10の機能を抑えたところ、胎盤が十分に形成されずに流産してしまったという。つまりは人類の進化にウイルスが関与していたという衝撃的な結果である。

 太古よりウイルスと宿主はこのような遺伝子のやりとりを普通に行っていたのだという。そしてその一つがPEG10であり、この遺伝子がたまたま生殖細胞にも感染することで子孫にまで継承され、そうしている内に胎盤を形成する遺伝子として機能することになったのだという。ここで感染しなかった祖先の末裔が卵を産むカモノハシであり、さらにPEG10の働きが不十分だった末裔が有袋類であるという。ダーウィンの進化論による形質が子孫に受け継がれていく垂直進化に加えて、ウイルスが関与する水平進化がそれに加わることで進化が促進されたのだというのである。

 このように人がウイルスから遺伝子を獲得したのはPEG10だけでなく、1億4800万年前にはRTL1という遺伝子を獲得したことで脳の左右の接続が強固となって劇的に処理能力がアップしており、2億3000万年前にはSASPaseという遺伝子を獲得することで肌のバリア機能を強化できたと言うことが分かっているという。人間の遺伝子には実はまだ未解析の部分が大量にあり、こういうところにウイルス由来の遺伝子が潜んでいる可能性があるという。実は解析された遺伝子の大部分はチンパンジーと共通であることが判明しており、このような未解析の部分こそが人が人たる本質であるかもしれないという。

 

コアラは絶滅するのか?

 そして現在、ウイルスの危機で絶滅が危惧されているのがコアラ。コアラレトロウイルスが蔓延しており、最悪の場合は白血病を起こして死に至るという。しかし調査の結果、既に生殖細胞にまで感染が進んでおり、生まれながらにウイルスを保持した子供が産まれてくることが懸念されている。このままではコアラが絶滅するのではとの言われていた。ところが2019年10月に「コアラの絶滅は避けられるのでは」という論文が登場したという。生まれながらにウイルスを保持している子供は、それに対抗する免疫機構を保持しているのではないかというのである。生まれながらに保持している遺伝子がワクチンのような効果を示すのだという。どちらが正しいのかは今後の動向を見ていくしかないようだ。

 

 以上、ウイルスについて。結局は彼らは生物?としては人類よりもはるかに先輩であり、人類が自分の勝手だけで云々言えるものではないということである。

 コロナにしても進化の長い歴史から見れば、いずれは人類と共存する形になり、人類に対して悪影響をなさないタイプに変異することになるのだろうと推測されるが、問題はそれが数年とかで起こるものでなく、しかもその過程で適合できなかった人類が大量に死亡するということである。さすがに犠牲を放置して「ウイルスが人類に適合するまで待てば良い」なんて呑気なことは言ってられない。

 赤潮が発生したらウイルスが植物プランクトンを死滅させて赤潮を抑えると言っていたが、その考えでいったら、異常増殖しすぎて地球自体を破壊しそうになった人類を死滅させるためにウイルスが働き始めたのでは・・・なんて妄想まで膨らんでしまう。確かに地球全体として考えれば、人類が死滅してしまった方が環境は保たれるだろうが。

 

忙しい方のための今回の要点

・ウイルスは細菌と違い、自力で増殖する手段を持たず、細胞に取り付くことで増殖を行う。そのために生物的な定義としては「生物ではない」とされている。
・自然界に無数に存在するウイルスは、実は自然界のバランスを保つ働きもしている。赤潮が自然に収束する過程では、ウイルスが異常増殖した植物ブランクトンにとりついてそれを死滅させていることが分かったという。
・大抵のウイルスは自然宿主と共生関係にあり、そこでは病気を発病させたりしない。実際に人間も少なくとも39のウイルスと共生しており、ウイルスは脳内にまで存在するという。
・しかし人類が移動などで新たなテリトリーに入り込み、そこのウイルスに感染することでウイルスが拡散して新たな病気の元になっていると言う。
・ウイルスは単に人類に害を与えるだけでなく、ウイルスと遺伝子のやりとりをすることが進化を促したことが分かってきている。哺乳類の胎盤を作る遺伝子は、実は1億6600万年前にレトロウイルスから取り込んだものであることが判明しており、他にも人類にはレトロウイルスから取り込んだ多数の遺伝子が存在するという。
・現在、コアラがレトロウイルスの感染で絶滅の危機に瀕している。中には生殖細胞までウイルスに感染したことで、次世代にウイルスが継承されることによる危機が警戒されている。しかし逆に、ウイルス遺伝子を持つことでワクチンのように免疫が抵抗力を持つようになるのではという論文も発表されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・実はコロナウイルスに関して私が感じている不安の一つは、ワクチンだなんだといっている内に、人類の遺伝子の中にコロナの遺伝子が取り込まれてしまうのではということなんですよね。そうなった時に、それが吉と出るか凶と出るかは1万年単位の後に判明するんでしょうけど。
・まあウイルスも人間殺してしまったらなんの得にもならないから、殺したくて殺してるんじゃないんですけどね。

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