教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/4 BSプレミアム ヒューマニエンス「"皮膚"0番目の脳」

脳の発達と密接な関わりのある皮膚感覚

 今回のテーマは皮膚。皮膚は単に我々の身体の最外壁を守るバリアというだけでなく、重要な感覚器官であり、脳とも密接な関係があるという話。

 皮膚と言えばまず触覚であるが、これが子供の脳の発達にとって非常に重要であるという。まだ目も耳も出来てない胎児も、何度も子宮の壁に触れる動作が見られるという。触覚によって外界を感じるという発達が行われているのだという。イタリアで双子の胎児を観測した結果では、他者に触れるときにはゆっくりとやさしく触れているのが分かったという。赤ん坊に刺激を与えて脳の働きを見た場合も、視覚や聴覚は脳のごく一部が反応したのに対し、触覚を刺激すると広い範囲で脳が活性化したという。胎児期や乳幼児期に触覚刺激が脳の発達を促しているのではという。

 

皮膚が光を感じる

  さらに皮膚はもっと別のセンサーも持っているという。培養皮膚にダメージを与えて、赤と青の光を当てたところ、青の光を当てたときには回復が遅れ、赤い光を当てたときには回復が促進されたというのである。皮膚はどうやって色を感知するのか。調べた結果、網膜にある色を感じる細胞であるオプシンが皮膚にも多く存在することが分かったという。

 なぜ皮膚にこのようなセンサーがあるのか。感覚器がないクラゲでも光を感じて行動するという。クラゲの水槽にライトを当てたとき、緑のライトでは反応しないのに、赤のライトを当てるとライトに向かって泳ぎ出す。人類の祖先はかつてはこのように皮膚のセンサーで暮らしていたが、進化の過程で皮膚が毛で覆われることでセンサーは休眠状態になり、毛がなくなったことで遠い昔のセンサーを甦らせることになったのだと推測されている。皮膚から大量に入ってくる情報を処理するために脳が高度化したのだという。この皮膚で感じるのがいわゆる気配などではないかとする。

 さらに皮膚には匂いや味を感じる受容体も存在するという。白檀の香りで傷の治りが早くなるという報告もあるとか。皮膚で感じた情報は脳でなく皮膚自身で処理されており、だから0番目の脳なのだという。

 

皮膚が音を聴く

 また皮膚は音を聞いているという研究もある。皮膚を露出した状態で2つの音楽を聴いてもらうのだが、全く同じに聞こえるのに皆が違いを感じたという。実は片方には耳に聞こえないとされる超高周波音を含んでいたのだという。この超高周波音を人は皮膚で聞いているというのである。実際にこの超高周波音を聞いたときには脳の褒賞系が活性化するという。実際に今度は厚着して同じものを聴いてもらうと先ほどのような感覚がなくなったという。

 これは私も非常に思い当たるところで、織田裕二氏もCDになった時に「音が痛くなった」と言っていたが、まさしくそれである。私を含め多くのオーディオマニアがCDの音は不自然で音が悪いとアナログにこだわったのだが、その違いについて「毛穴で感じる音がない」と表現する人がいた。ちなみに私は「演奏会場の空気が伝わってこない」と表現したのだが、これらは非科学的なオカルトだと当時の技術者からは一笑に付された。しかしそれがやはり真実だったことが近年になって分かってきたということである。なお私の耳はその後老化による劣化で今はモスキート音などは全く聞こえない状態であるが、このような「空気感」というものは今でも感じており、CDの音を聞くとコンサートホールではあるはずのこれがスパッとカットされていることを感じる。番組に登場した研究者は、高周波音が皮膚に刺激を与えてNOが生成することで血管が拡張するのではと推測している。

 

皮膚感覚の重要性とコミュニケーションへの利用

 ではこの皮膚感覚がなくなったらどうなるかであるが、番組には脳卒中で身体の右半分の皮膚感覚を失った人が登場する。手は動くのであるが、触った感覚がないので、常に眼で確認しないと危険なのだという。また触った感覚がないために目を閉じた状態で指を動かされると今手が開いているのかどうかさえ分からないという。また足が地面に接触する感覚もないから、常に眼で確認しないといけないので、最初は歩くことさえ出来なかったという。何気ない動作がことごとく困難なのであるという。そんな彼が日々心がけているのは感覚のない手を感覚のある手で常に触ることだという。これが彼が日常を取り戻すことに大きく貢献したという。ちなみに皮膚感覚をなくすと自我の感覚さえ消えていくという。皮膚感覚は己とその他を分けるものでもあるという。

 最後は感覚を使用した新しいコミュニケーション。NTTコミュニケーション科学基礎研究所の渡邊淳司氏が開発したのは聴診器で感知した心臓の鼓動を振動で伝える装置。それを互いに交換すると相手の鼓動が感じられてより親密さを感じることが出来るという。感情が伝わるところがあるのだという。織田裕二氏が「これを使って合コンをしたら面白そう」なんて言っていたが、私なんかも美女を前にしたら心拍が急激に上がりそう。私も今までの人生で何度か、初めて見た女性に対してあからさまに心拍が上がるという経験をしたことがある。これが今時のご都合主義小説やアニメなら、ここからロマンス展開するんだろうが、残念ながら現実はそれっきりで、その相手とは全く何もなかったという悲しい結果です。私がもう少し勇気があるかチャラ男だったら、何かの行動を起こしたかもしれないが。

 

 以上、皮膚感覚というのは想像以上に奥深くて繊細で重要という話でした。よく「肌が合わない」なんて言い方もするが、実はこれは言い得て妙だったのかもしれない。

 私としては長年疑問を感じていたCDは音が悪いという理由がこれで納得です。やはりあの時に私が抱いた感覚はオカルトでも思い込みでなく正しかったんだ。あの時に散々馬鹿にしてくれた奴らもいたが、ほら見ろってな感じである(笑)。ちなみに現在はそのCDよりもさらに音が悪いMP3が全盛の時代なので、私はオーディオに見切りを付けました。MP3になると空気感どころか音を間引いていることまで分かるので(私の腐りかけの耳でさえ)、とてもクラシックなどの生音楽を聴く気にはなりません。最初から加工しまくりのポップスなら良いのかもしれないが。ちなみにオーディオマニアで音にうるさいのは昔からクラシックファンとジャズファンです。どちらも生演奏という基準が明確にあるので。

 気配ってのは皮膚感覚というのも納得ですね。実際に人間がいるとそこから放射される遠赤外線を肌で感じますから。人の気配なるものの正体はこれと、後は非常に微細な雑音や人体という吸音体の存在による音場感の変化というのが私が前から唱えている説なので。

 

忙しい方のための今回の要点

・皮膚の触覚は脳の発達には重要性が高いという。胎児は体内にいるときから子宮の壁を触ったりして自身と外界とを学んでいるという。まあ赤ん坊に視覚・聴覚・触覚の刺激を与えたところ、視覚と聴覚は脳の一部が反応するのに留まったのに対し、触覚は脳の広い範囲が活性化した。
・さらに皮膚には光を感じるセンサーも存在する。培養皮膚にダメージを与えて赤い光を照射したら再生が促進されたという結果がある(青い光だと逆に遅れる)。これは太古の時代に人類の祖先(クラゲのようなもの)が皮膚で光を感じていた名残だとする。
・また皮膚には音を感じる能力もあるという。肌が露出した状態で耳には聞こえないとされる超高周波音を聞いたときに、被験者はリラックス感を持ったという。
・皮膚感覚による動作のフィードバックは重要で、脳卒中でそれを失った患者は、いちいち自分の動作を眼で確認する必要があるため、何気ない日常動作にさえ苦労するという。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・相手の心臓の鼓動を感じる機器なんてのが最後に登場しましたが、心臓を託すというのは相手を信頼するという意味にも使います。そう言えば「進撃の巨人」では常に「心臓を捧げよ」でしたね。リゼロでは心臓を支配することで手下を言いなりにする魔人が主人公に対して陰謀を巡らせていました。心臓というのは単なるポンプ以上の意味があるようです。

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