教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

4/11 サイエンスZERO「宇宙新時代 H3ロケットはここまで来た!」

新型ロケットH3の開発

 今年の3月18日、新型の国産ロケットH3の打ち上げのリハーサルが行われた。今回の目的は機体に初めて燃料を入れて動作確認すること。打ち上げの7秒前の点火の前で停止して問題が発生しないかを見る実験で、問題なくリハーサルは成功した。

 H3ロケットはこれから来る宇宙への大輸送時代を睨んで開発された。従来のH2Aは高い成功率を誇るが、コストが高い上に輸送能力に見劣りが出ていた。そこでH3では輸送能力を強化すると共に、部品点数を減らすなどでコスト削減に取り組んだ。

 

コスト低減の鍵となった新型エンジンの開発

 コスト削減の鍵となるのが開発中の新型エンジンLE-9。H2Aのメインエンジンと比べて部品数は1/3に、推力は1.4倍にした優れものである。これを可能にしたのはエキスパンダーブリードサイクルというシステム。ロケットエンジンは水素と酸素を燃焼室に輸送して燃焼ガスを発生されるのだが、その時に水素や酸素の圧力を上げるために使用するターボポンプを、従来のエンジンでは副燃焼室で燃焼したガス圧で回していた。しかし新型エンジンではこの副燃焼室をなくしたのだという。その代わりに燃焼室の壁で液体水素をガス化してその圧でターボポンプを回すことにしたのだという。ただしこの方式は構造がシンプルになる大きなメリットがあるが、従来よりもパワーが出しにくくなるという問題があった。

 この問題を解決するために取った方法は、燃焼室を大きくして水素が多くの熱を吸収できるようにしたのだという。なおこのシステムは実は二段目エンジンに使用されていたシステムなので、実は全く初めてのものではないという。新エンジンは今までの二段目エンジンに比較するとサイズが2倍で推力が10倍というものになったという。

 しかしその開発は簡単にできたわけではない。2020年5月に39回目の試験をしたところ、ターボポンプのタービン付近から金属の粉が出て来ているというトラブルが発生した。原因を調査したところ、タービンにヒビが入っており、燃焼室の外壁にもヒビが入っていることが分かったという。タービンはパワーを上げるために羽根を大きくしたところ、想定外の揺れが生じてヒビが入ったのだと判明。しかし燃焼室のヒビについてはどこかのタイミングで温度が上がりすぎたと推測されるが、なかなか原因が分からなかった。そして12月の実験で、エンジン起動時かフルパワー時か停止時かのいずれの時にトラブルが発生したのかを調査した。その結果、フルパワーにした時に高温で金属にわずかな歪みが出来てそれが原因となったことが分かったのだという。そこで冷却系を見直すことで対策されることになった。

 

技術の伝承という側面も

 また今回のH3開発は技術者の育成という側面もあったという。日本では30年ぶりの新規開発と言うことになるので、ロケット開発は始めてというエンジニアが多かったという。そんな中で組み立て現場で発生する予期せぬトラブルに対しての対応などは、前回の経験者のノウハウの伝承などにも役だったという。こうやって次世代の技術者が育成されていくことになり、これは今後も日本が独自で宇宙開発能力を持つには不可欠のことである。

 

 以上、H3ロケット開発の話でした。技術大国の座から転落して久しい日本が、数少ない世界と伍していける分野だけに頑張ってもらいたいところ。本来は日本は中国辺りと手を組んでアジア連合で開発した方が効率は良いのだが、今の中国政府相手にそれは全くあり得ないことを考えると、日本が独自の技術を持っておく意味は非常に重要である。

 H2Aまでは技術力はともかくコストがという問題があった。大体日本の独自技術というのは今までもYS-11などコスト面で太刀打ちが出来ないというものが多かったので、大幅に打ち上げコストを削減できるというH3は期待大である。実際のところ、海外から衛星打ち上げの請負などをしない限りは生産台数が伸びず、生産台数が少なくなると量産でコストを低減すると言うことが出来なくなるということを考えると、単なる技術の問題だけでなく、そういうビジネス面も重要である。

 

忙しい方のための今回の要点

・先日、H3ロケットの打ち上げリハーサルが無事に成功した。
・H3ロケットはこれからの宇宙時代を睨んで、コストの削減と打ち上げ能力の向上を目指して開発がされた。
・コスト削減の鍵となるのは新型のエキスパンダーブリードサイクルを使用した新型のLE-9エンジン。構造をシンプルに出来るのでコストを減らせるが、出力向上などには様々な問題を克服する必要があった。
・昨年5月のテストでエンジンに亀裂が発生する問題が起こったが、12月のテストで原因が判明、その対策を打つことが出来た。
・また30年ぶりの新型ロケットの組立は、現場のロケット開発技術者の技術伝承という側面も持っている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ技術開発は何でもそうですが、やってみないと分からないという面がかなりあるんですよね。だから一度伝統が途切れるとなかなか回復が難しい。そう言う意味でも今回の開発は大きい。

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