教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/22 BSプレミアム ヒューマニエンス「"出産"ヒトは難産を選んだ」

ヒトが難産になったわけ

 ヒトの出産は他の生物にはあり得ないほどの難産である。サルなどは数時間で出産し、生まれたすぐの赤ん坊は母親にしがみつき、母親はすぐに普通に生活を始める。それに対してヒトの出産には10~12時間を要し、誕生した赤ん坊は全く無力である。しかも生まれた赤ん坊はすぐに鳴き声を上げるために目立ちやすく、野生で考えると極めて危険で無防備である。なぜ人類はこのような進化を遂げられたのか。これはやはり人類が集団で生活するということと関係しているという。つまりは出産時から集団で保護すると言うことが前提になっていると考えられるという。

 また人類は難産になるのは宿命でもあった。直立歩行を選択した時点で骨盤の穴は小さくならざるを得ず、そこを胎児の頭が通過する必要があるので難産となった。しかしそれでも出産をするために人類は特異な進化を遂げたという。それは骨盤の変化である。女性の骨盤は男性のものよりも穴が大きくなっている。骨盤に男女の差があるのは類人猿では人類だけだという。

 120万年前のホモエレクトスの化石では男女の骨盤の違いが見られる。人類は既にこの頃から難産であったことが分かる。またホモエレクトスの頃から人類は肉食を始めることで急激に脳が巨大化していく。この巨大化した脳で出産するために、赤ん坊の頭蓋骨は変形するようになっているという。産道を通過する時に細長くなるのである。これは出産後に固定されていき、1才半ぐらいで完全に固まるという。また人類は妊娠後期に急激に脳が巨大化することが分かっており、この頃の胎児は母体の中で外の言葉などを聞いたり反応しているという。

 

難産に耐える受精卵を子宮内膜が選別する

 さらには難産に耐えるためのメカニズムは妊娠の最初期から備わっていることも分かってきた。難産に耐える優秀な受精卵のみを子宮内膜を選ぶことが分かってきたのだという。受精卵と子宮内膜で何らかの物質のやりとりをして、それによって子宮内膜が優秀な受精卵を選択する機能があるのだとのこと。人の妊娠率は非常に低い(20%ほど)が、それはこの受精卵の選択のためであると考えられるという(ということは、いわゆる不妊のカップルは男女のどちらかにその点での問題が生じているということか?)。なお原始時代の女性は生涯の月経数は50回ぐらいだが、現代は400回以上であり、これが子宮内膜症の増加の原因となっているとのこと。

 

社会性にまで影響するオキシトシン

 また幸せホルモンとして注目されているオキシトシンは、出産において重要な働きをすることが分かっているという。オキシトシンは陣痛を促し、さらに母乳の分泌も促すことが判明している。さらに不安を軽減する働きがあり、赤ん坊に対する愛情を湧かせることで次の出産につなげると考えられるという。人はオキシトシンの役割が多く、社会的な協力ホルモンとしての働きもあると言う。実際に脳で分泌されたオキシトシンは、魚類では卵巣や精巣にしかつながっていないのに対し、哺乳類になると脳に働くようになり、人類ではその働きが多岐に及んでいる。愛情ホルモンのように言われるオキシトシンだが、その一方で、信頼できない他者への攻撃性を増す働きもあるとされ、これが産後クライシスにつながるという報告もある。つまりは産後になって妻にきつく当たられる亭主は、妻からは信頼できない相手と考えられているということか。なおオキシトシンの働きには男女差がないことから、母性や父性ではなく親性であるというのが近年の解釈である。

 さらに胎児の身体に母親の細胞が混ざっていることも分かってきたという。この細胞は体内での異物である胎児に対して免疫による攻撃を防ぐ働きを持っているのではないかとのこと。胎児との酸素や栄養は胎盤を通してやりとりするが、そこでは細胞は厳密に分けられていることから、どこから母親の細胞が入り込むのかはまだ不明ではあるという。

 

 以上、出産についての話であるが、ヒトの出産は異例なほどに難産であるのは常識だが、今までは二足歩行を選んだ結果の望まぬ副産物という解釈がほとんどであったが、今回はそれを「人類はあえてその選択をした」という方向で解釈していた。とは言うものの、やはり番組を見た結果としては、難産そのものはメリットはなく、脳を巨大化するなどの目的のための望まぬ結果だったのではということ自体は変わらないのではと感じたが。つまりは難産と脳の発達を天秤にかけた結果、人類は後者を選んだということになる。

 オキシトシンは幸せホルモンとして注目されていたが、これが親密でない相手に対しての攻撃性を高めるととは知らなかった。と言うことは、いつもやたらにイチャイチャしているカップルは、他人に対しては攻撃的と言うことか? うーん、言われてみたらそういう傾向はないでもないかもと言う気もする。完全に二人の世界に入ってしまっていて、回りの迷惑なんて全く意に介さない奴らが多いのは事実だが。

 ところで胎児に母親の細胞が混ざっているというのも驚いたが、それはいつ頃まで残っているのだろうか? 普通に考えると出産を終えると役割を終えて徐々に消滅するはずであるが。でないと胎児が自分の免疫系を確立したら、今度はその細胞が胎児にとっての異物になってしまうので。

 にしても、科学が進歩すると親子の愛情とか男女の愛情とかも結局は化学物質のやりとりで説明できる話になってくるんですよね。こうなってしまうと急に無味乾燥な世界になってしまって、風情もクソもなくなるのですが。ガンダムシリーズのキャラに「愛など粘膜が作り出す幻想」と言いきった奴がいますが、究極はそこまで行っちゃうんですよね。もっともそれを言い出すと人間終わりそうな気もするが。

 

忙しい方のための今回の要点

・ヒトは生物の中では異例の難産な存在である。
・ヒトが難産になったのは直立歩行のために骨盤の穴が小さくなったせいがある。また胎児の脳が巨大化したことがさらに難産を進めることになる。
・ヒトはそれに対応するために女性の骨盤が変形して穴が大きくなり、さらには胎児の頭蓋骨も変形するようになっている。ヒトの難産化は120万年前のホモエレクトスの頃から既に始まっており、人類の脳が急激に巨大化した頃と一致する。
・また子宮内膜には、難産に耐えうる優秀な受精卵を選別する機能があり、それが人類の妊娠率の低さの原因となっているという。
・幸せホルモンとして注目されているオキシトシンは、陣痛や母乳の生成を促す作用があり、不安を和らげることで次の出産を促す心理的作用もある。ヒトではオキシトシンの働きが多様であり、社会性の形成にも関与している。
・その一方でオキシトシンは親密でない相手に対する攻撃性を促す側面があり、これが産後クライシスの原因ともなるという。
・胎児には母親の細胞が含まれていることが分かっており、これは免疫による攻撃を抑制する作用をもたらしているのではと推測されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・そもそも生物的に見ると、卵子を母体内で成長させると言うこと自体が画期的でしたから。知れば知るほど実に精妙なシステムであると思われる。
・人類にとって子孫を残すと言うことは本能のはずだが、大脳の進化が大きい人類では、その本能を越えて「今子孫を増やすことは得策ではない」という選択も働くと言うことで、それが現代の少子化につながっているわけでもある。そう言えばいわゆる大脳の働きが弱そうな奴に限って、やたらに状況考えずに子供作ってるな・・・。本能と理性のせめぎ合いってのも、人類の永遠の課題だな。

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